ハイアルド・プレーンズマーモット
「桜木、実戦で試してみるか?」
「おっすお願いしまーす!」
避けられないルート上に、レベル3のMOB、ハイアルド・プレーンズマーモットがいた。
こいつの生息域に来たということは、もうじき東ハイアルド街道だ。
「抜刀して接近する。スキルの効果範囲に入ったら、アイコンが浮かび上がるから視線を合わせて選択しろ。できるか?」
「やらいでか!」
桜木は、おずおずとMOBに近づいていった。
敵の検知圏内に入る。
ハイアルド・プレーンズマーモットから、赤い放物線が伸びて、桜木に刺さる。
ヘイトを桜木に向けたMOBが、動きはじめた。
「うっわわわわわ! ええとなんだっけなんだっけ! これ!」
“サイレントアタック”が発動、横薙ぎに振った曲剣が、MOBのHPを削る。
「痛っ! いったぁ! 思ったより内臓にっ!」
MOBの通常攻撃が、桜木のHPを三分の一持って行く。
桜木はひるまず、しっかりとコンボをつなげた。
「相原、ベルカ!」
ベルカがヒールを飛ばし、相原が魔法を飛ばす。
「まっ、これ、痛っ! おまっ、お待ちなすって! お待ちなすってえ!」
「足下! 範囲が来るぞ、桜木!」
地面が発光し、攻撃の範囲を告げる。
ハイアルド・プレーンズマーモットの直線範囲攻撃、“体当たり”だ。
桜木は横っ飛びに跳ねて範囲を避ける。
「すぐに元の場所に戻れ! 敵をフラフラさせるな!」
「ひ、ひいぃっ!」
悲鳴を上げながら、桜木はよたよたと動く。
近接DPSは、敵側面や背面で実行した際、ダメージ上昇の効果を持つスキルを持っている。
敵をなるべく動かさないのも、タンクの仕事の一つだ。
「あがっ内臓……内臓!」
だんだん桜木が猫背になっていく。
無理もない。
痛みはヒールで消えるが、恐怖までは取り去ってくれない。
俺と一緒にタンクをやっていたライカがひどく消耗していたのは、そのせいだ。
「桜木、代わるぞ」
ロール共通スキルの挑発で、タゲを取る。
「あ、ありがと……これむっちゃしんどいね」
「すぐに慣れる」
痛みに耐えながら、二つのスキルを回す。
ハイアルド・プレーンズマーモットはレベルの割にHPが高い。
おまけに、面倒なスキルを持っている。
【ハイアルド・プレーンズマーモットの『リレーション』】
チャットウインドウにシステムメッセージが流れた。
「うわあなんかいっぱい出てきた!」
桜木が絶叫した。
新たに、三体のハイアルド・プレーンズマーモットがPOPしたのだ。
この増援が、コイツの面倒なところだ。
「サイハテ、ベルカ、ヒール厚く頼む」
俺はインフレイムでPOPした新たな三体のタゲを集めた。
「一匹もらうぜ!」
桜木が曲剣を元気よく敵に叩きつけた。
「大丈夫なのか?」
「いけるよ!」
怒鳴ってから、桜木は、いたずらっぽく笑った。
「こちとら散々ゲーム実況してる系の女子だからね」
内緒話の音量で、そんなことを言う。
「ああ、YouTubeのやつか。なんであんな変なインディーズゲームばっかりやってるんだ?」
「いや-、王道ゲームは競争が激しくて……って、ひえええ! 観られてた-! ご覧いただきありがとうございます!」
「頭下げてる場合か。タゲこっちに来るぞ」
「ぬわーー!」
タゲを素早く切り替えながらスキルを放ち、敵のヘイトを高く保ち続ける。
桜木の……というか、声優『ひのひー』のYouTube公式チャンネル登録者数が群を抜いているのは、コイツが公式チャンネルにやたら動画を投稿しているからだ。
しかも、高難易度のいわゆるマゾゲーや、理不尽な仕掛けでプレイヤーを殺しまくるインディーズゲームの実況ばかり。
そして、ゲームが異常に上手い。
声優ではなく、ゲーム実況系のユーチューバーとしてひのひーを認知しているヤツも多い。
「慣れてきた! 更に一匹もらっちゃおうねー!」
スキルを散らして、もう一匹のMOBのタゲも取る。
「ほう、経験が生きたな」
「あはは、ありがと! 今度ジュースをおごってあげよう!」
雑談の余裕まで生まれてきた。
俺たちは、この世界に適応しつつある。
「これなら……相原! 範囲焼き頼む!」
「っしゃー! スノーウインド!」
相原がポーズを取りながら実行したのは、対象とその周辺五メートル以内のMOBにダメージを与えるスキル。
二人でがっちりヘイトを確保しているからこそ打てるスキルだ。
俺一人のヘイトでは、タゲを取り切れない。
「もー一回!」
1.5秒のリキャストを無視して、再びスノーウインドが炸裂した。
「やるな、“無詠唱術式”か」
「まーね! 七十点でしょオレ!」
魔法遠隔DPSの共通スキル、“無詠唱術式”。
一度限り、リキャストを無視して魔法スキルを実行できる。
スキル固有のクールダウンも踏み倒せる非常に強力なスキルだ。
クールダウンに60秒を要するので、レイドでは使い所を見極める必要がある。
「いーね相原君! で、おしまいっ!」
桜木がショーテルを叩きつけ、ハイアルド・プレーンズマーモットの掃討が完了した。
「お疲れ、桜木」
「どうってことない敵だったぜ。さ、みんな行こう!」
桜木が声をかけると、疲れ果てていた生徒たちが笑顔を浮かべる。
コイツがいなかったら、相当まずい状況になっていただろう。
レイドチームを運営する上で、桜木は大きな戦力になってくれそうだ。




