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ハイアルド・ガビアル

「委員長! サイハテ! リキャストごとにヒール飛ばすな! ヘイトがそっちに行く!」

「ああ、分かった!」

「我が暗黒魔力よ、鎮まれ……!」


 ハイアルド・ガビアル。

 レベル5のMOBを相手にスキルを回しながら、俺は怒鳴った。


「フェイト、相原! 攻撃少し抑えろ!」

「ごめーん、調子乗った!」

「やば、オレいますげー楽しくなっちゃってたわ!」


 レベル1では、ろくなスキルも使えない。

 ヘイトをキープする能力も低い。

 DPSがガンガン攻撃したり、ヒーラーがじゃぶじゃぶヒールしたりすれば、あっという間にタゲが飛ぶ。


「ライカ、頼んだ!」

「いいよ」


 ライカが突撃槍チャージランスをハイアルド・ガビアルに突き立て、俺からタゲを奪う。


「宇多、下がりすぎるな! 別のMOBに絡まれる!」

「エラそうにしないで!」


 視界の端には、怯えて立ちすくむ生徒たち。

 あいつらがパニックを起こしてその辺を走り回ったら、たちまち複数のMOBにタゲられ、数秒で殺される。

 MOBを生徒から引き離し、かつ他の敵に絡まれないような位置取りを意識しなければならない。


「範囲来るぞ! フェイト、離れろ!」


 ハイアルド・ガビアルの後方、地面が扇状に光った。

 後方範囲攻撃、“テールスラップ”だ。

 フェイトは素早く敵の側面に回り込み、刀を脇腹に叩きつけた。


「死ねッ!」


 宇多が絶叫しながら放った銃弾が、ハイアルド・ガビアルのHPをゼロにする。

 MOBはしばらくのたうってから絶命し、パーティクルとなって飛び散った。


「はー……きっつー……ザコの強さじゃないでしょこれ」


 相原がその場にへたりこみ、袖で汗を拭った。


「範囲を一発貰ったら即死。オートアタック数発でタンクも死亡。参ったな。回復のタイミングが難しい」


 とくに参っていなさそうな顔でベルカが言った。

 足下の悪い峡谷を進み、シビアなヒールワークをこなしながらも、すらっとした長身には余裕たっぷりの表情が宿っている。

 リーダーを引き受けた以上、泣き言は漏らさないつもりなのだろう。


 ここまでに、三体のMOBを倒した。

 その度に休憩を挟んでいるため、進行は想定よりもずっと遅い。


 東ハイアルド段丘からハイアルドまでは、普通の場合、ゲーム内時間(IGT)で五時間。

 ゲームのキャラクターがノンストップで歩き続けて、それだ。

 だが俺たちはどうやら普通に疲れるし、腹も減るし、悪路に足を取られる。

 一日がかりの行軍になりそうだ。


「ホントにぜんぜんレベルアップしないんだね、このゲームって」


 岩に腰掛け休んでいると、片目隠れが似合う女っぽい顔立ちの生徒が話しかけてきた。

 フェイトは汗だくで、ちょっと顔色も悪い。

 命がけのハードな運動をしているのだから、仕方ないだろう。


「クエスト対象でもなければ、MOBを狩る意味は殆ど無い。経験値も金も微々たるものだ」

「それがMMOっぽくないからつまんないって、まとめサイトで書いてあった」

「フィールドMOBの意味がないとかな。ゼロトレは、クエストとダンジョンでレベリングする。カンストしたら、レイドでファーミングだ」

「ファーミングって、装備を集めるってことだよね。ふーん、なんかMMOって、フィールドで永久に強い敵を狩り続けるみたいなイメージだった」


 フェイトは俺の隣に座った。


「それは一世代前のMMOだな。FF11とかEQエヴァークエストみたいな。数十時間に一度しかPOPしない強いMOBの奪い合いも楽しいが、ゼロトレは違う。WoWワールドオブウォークラフトとかFF14の方が近い」

「あー、FF14は名前聞いたことあるかな。どんなゲームかは知らないけど」

「まあ、それともゼロトレは少し違うんだが……その内に説明する」

「それは楽しみ。さ、もうひとがんばりだね」

「ああ」


 俺たちは立ち上がって、再び歩き出した。



 朝は涼しいぐらいだったのに、太陽光の降り注ぐ峡谷はひどく暑かった。

 絶え間なく汗が噴き出し、服が体にへばりつく。

 東ハイアルド峡谷はうねりながらどこまでも続く。


「……喉、乾いた」


 生徒の誰かが、かすれた声で呟いた。


「水ならあるだろ」


 俺は川を指さした。


「え、無理……川の水とか呑めないし。おなかこわすし」

「試してみるよ」


 俺はしゃがんで、川の水を手ですくった。


「ストップ。やめなさい、バカギリ」


 ぐいっと肩を後ろに引っ張られ、俺は尻餅をついた。


「は? なんだよ、宇多」


 生意気そうなツリ目が俺を見下ろす。


「アンタがおなか壊しただけで全体が止まるのよ。率先して無茶しないでくれる?」

「いや、でも……」

「でもじゃない。バカギリのくせに粘らないで」


 宇多は、ツインテールが地面を掃くのも気にせず膝をつき、川の水をごくごく呑んだ。


「美味しくはないわね。でも呑めると思うわ」


 顔をしかめはしたが、宇多はためらわず、再び水をすくい、口にした。


「まだ怖いなら、アタシが体調悪くするまで我慢すれば? いつになるか知らないけど」


 立ち上がった宇多は、皮肉っぽいことを言い、口元を拭うと歩き出した。


「……意外だな」

「は? 何よ」

「いや、俺を止めたのも、率先して水を飲んだのも。そういうことやるヤツだとは思わなかった」

「どう思ってたのよ」


 いちいち口調にトゲがあるな、コイツ。


「お嬢様っていうか、家が金持ってそうなイメージ」


 こんなツリ目で金髪でツインテールで生意気な奴が、賃貸に住んでいるとは思えない。

 執事とかいて、休日はいい紅茶を飲んだりマカロンとか食ってるに決まってる。

 楽姫らきと、そんな話をしたことがあった。


「フン」


 宇多は俺の言葉を鼻で笑った。


「どっちも間違ってないわ。でもそれはアタシと関係ないでしょ? あと、家の話は二度としないで」


 宇多はスタスタと歩き出した。


「宇多」

「なによ? まだなんかあるの?」

「そっちにはヤバい敵がいる」


 宇多はザリガニみたいにバっと飛び退いてから、俺を睨んだ。


「先に言いなさいよ!」

「間に合ったろ」

「……バカギリ!」


 その一言で俺の全部を罵倒しきったと言いたげな表情を浮かべ、宇多は俺の後ろにひっこんだ。


「ああ、それとな、宇田」

「なによ? いい加減にしてくれない?」

「ありがとな。助かった」

「……フン!」

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