宇田貴音
これでタンク二枚、ヒーラー二枚、DPS二枚。
まずまず悪くない。
残りの連中を引率できるかどうかは分からないが、俺が一人で全員の面倒を見なくちゃならないような事態は避けられた。
「DPSは……遠隔がもう一枚ほしいな。弓士か、銃士か……」
先程フェイトが口にした“メレー”という言葉は、MMORPG用語だ。
タンクに、MTとOTがあり。
ヒーラーには、バリアとピュアがあるように。
DPSも、大きくは近接と遠隔に分類できる。
フェイトのブシドーはメレー、相原のメイジはレンジだ。
そして更に、レンジは物理と魔法に分類できる。
マジックレンジのメイジがいる今、パーティに欲しいのはフィジカルレンジだ。
「ちょっといい?」
考え込んでいると、声をかけられた。
金髪ツインテールと生意気そうなツリ目は、宇多貴音。
「なんだ? 相談ならベルカにしろよ」
「このアタシが、アンタになんの相談があるのよ」
「いきなりケンカ腰だな」
「いいから来なさい」
手を掴まれて、人気のない方向にぐいっと引っ張られた。
「え、なんだよオイ」
助けを求めてベルカを見る。
ベルカは、ぐったりする生徒たちに声をかけて回っていた。
「……まあいいか」
パーティを組めても、生徒たちが立ち上がるまでには、もう少し時間が必要だろう。
宇多の相手をするヒマぐらいならある。
宇多は大股でさっさと歩いて行く。
姿勢いいなコイツ。
「あんまり進みすぎるなよ。MOBに絡まれて殺されるぞ」
俺が声をかけると、宇多はびくっと身を竦ませて立ち止まり、あたりをきょろきょろ見回した。
「それでいい。今の俺たちは、目をつぶって地雷原を歩いているようなもんだからな」
「……えらそうにしないでくれる?」
宇多は、ビクつきながらも虚勢を張って振り返った。
腕を組み、尊大に胸を反らして俺を見てくる。
「で、何がしたいんだ?」
「さっきのこと。誰にも言わないでくれるかしら?」
「は? さっきのって?」
「だから、さっきのよ。分かるでしょ」
「分かんねえよ」
宇多は聞こえよがしにため息をつき、ツインテールの毛先を指でくるくるした。
苛立っているようだが、理由が分からん。
「だから、アタシのみっともない姿を見たでしょ。それ、誰にも言わないでよね」
「ああ、あれか。泣きながらゲロ吐いて――」
「なに考えてんのよアンタ! 言うなって釘刺した瞬間じゃない!」
「うお、すごいな。疲れ切ってるのにツッコミが百点満点だ」
「なによその感想、もしかして今のわざとなの!? 最悪ねアンタ!」
きんきん声で怒鳴った後、宇多は、鋭く俺を睨んだ。
「……バカギリ」
「は?」
「アンタのこと、これからそう呼ぶわ」
「なんでだよ」
「ムカつくから」
端的だ。
「好きに呼べよ。で? 話はそれだけか?」
そう問うと、宇多は肩から力を抜いて、笑みを浮かべた。
食肉目の猛獣みたいな、好戦的な笑みだ。
「ねえ、アンタ、あの女神みたいのを殺したいんでしょ?」
「最終的にはな」
「やり方も知ってるのよね」
「ああ」
俺は、自分の仮説を簡単に説明した。
ゼロトレのレイドコンテンツに挑み続けることで、最終的には、アストライアにたどり着けるはずだと。
「ふーん……ゲームのことは分かんないけど、とにかく殺し続ければ、最後には殺せるのね?」
「そういう理解で間違いない」
宇多は頷き、腰に吊っていた初期装備の銃を手に取った。
そうだ、コイツはガンナーだったな。
「教えなさいよ。どうすれば、この世界の連中を全員殺せるのか」
「物騒だな」
「この世界は、アタシに恥をかかせたのよ。殺すに決まってるじゃない」
「……物騒だな」
「それで? 教えてくれるの?」
ティアマット戦を思い返す。
宇多は初期スキルを連打していた。
やり方はともあれ、やる気はあるのだ。
そして、そういうヤツは必ず伸びる。
「楽はさせないぞ」
「楽しませてはくれるわよね」
「敵を容赦なくぶち殺すことが楽しいって言うならな」
宇多は再び笑った。
コイツの笑みは出来の良い拳銃みたいに美しいなと俺は思った。
物騒でシンプルな、『殺す』というただ一つの目的のために研ぎ澄まされた形が持つ美しさだ。
「行くわよ、バカギリ」
宇多はさっさと歩き出した。
「その呼び方は決定なのか」
俺のボヤキを、宇多は完全に無視した。
こうして、パーティメンバーが揃った。
整理しよう。
タンク
葉限普林路 ダークナイト
国立雷歌 パラディン
ヒーラー
国分鐘火 ロイヤルティ
狩衣最果 アルケミスト
近接DPS
吹原運命 ブシドー
物理遠隔DPS
宇多貴音 ガンナー
魔法遠隔DPS
相原新 メイジ
この構成でレイドに挑むと宣言したら、分かっているプレイヤーは爆笑するだろう。
パラディンはOT適性のリーパーかバッカニアに差し替えるべきだ。
ロイヤルティもアルケミストもバリアヒラなので、どちらかをピュアヒラのフィロソフィアかシャーマンにすべきだろう。
だが、今はこれでいい。
生き延びて、ハイアルドに到達する。
この2年F組をレイドチームに鍛え上げ、女神アストライアを殺す。
俺から楽姫を奪ったあの女神を、思いつく限りの無惨なやり方で、殺してやるのだ。




