episode7―hope―
「直樹くん、今日はちょっと長くなるかもしれないですけどいいですか?」
「ああ、別に構わないけど」
いつも通り階段を上るが、いつも通りでないこともある。
まぁ、教室が一つ吹き飛んだ校舎もそうだけど、沙耶の様子がおかしい。
いつも通り振舞っているつもりだろうが、顔色は悪いし、足取りが不安定だった。
「じゃあ始めます」
光りだす沙耶の手。
ああ、やっぱ綺麗だな―――
でも……
「なぁ」
「はい?」
「体調悪いんじゃないか?」
「……やっぱり分かります?」
沙耶は苦笑いしながらこちらを向く。
その顔はやっぱり青白く、元気のないものだった。
「今日は休んだらどうだ?」
「駄目ですよー。もう悠長なことは言ってられなくなってきましたから」
まぁ、この校舎の一件もあるが……
「でも、沙耶が倒れたら意味ないだろう?」
「……。……そう、ですね。少し休みます、か……っ……ぁ」
魔法を止めた沙耶は急にガクン、と崩れ落ちた。
「沙耶っ!?」
※※※
「ぅ……」
「気がついたか?」
「……直樹くん?ここは……?」
沙耶は弱々しく上体を持ち上げた。
「ここは保健室だ」
沙耶が倒れた後、そのままにしておくわけにもいかないので保健室に担いできた。
……あれだな。
女子を担ぐときは、重さに耐えるより、理性を保つほうが何倍も辛い。
「すみません……。いつも手伝ってもらってるのに……」
「何を今更」
というか、飯までたかりに来てるだろ。
「もう、直樹くんの力を借りても無理かも知れません……」
「おいおい、いつもの元気はどうした?」
こんな弱気な沙耶は初めて見た。
表情を伺うも、疲れているだけではないのがよく分かった。
「もう……」
沙耶は、下を向いて掛け布団を握りしめている。
その掛け布団を小さな雫が何回も何回も濡らしていた。
「……。……俺に何かできることないか?」
「!?」
もう、ただ見てるのはきつい。
できることは本当に小さいことかも知れないけど。
「直樹くん……」
「その魔法はできないけど、それ以外ならできるかも知れないだろ?」
「じゃあ、関係ないお願いですけど……」
沙耶は涙を拭って、真っ直ぐと俺を見る。
「ずっと、私のそばにいてくれますか?」
「……」
「私を……好きになってくれますか?」
「ああ、そういうことか」
「えっ?」
「簡単すぎるんだよ、お前のお願いは」