episode5―dish―
「あ、直樹くん」
「ん?」
「お昼、いっしょにいかがですか?」
学校の廊下。
右手にパンを二袋ほど持って沙耶はやってきた。
「おー、ちょっと待っとれ。今弁当取ってくる」
「やっぱり自分で弁当作ってるんですね♪」
「そういや俺、記憶の消し方っての教えてもらったんだ…」
俺はそう言いながら右手を沙耶の頭上に持っていく。
「す、すみませんっすみませんっ!!謝りますからその拳をおろしてー」
※※※※※※※※
「相変わらず美味しそうですね…」
「だろ。けっこう苦労してんだこれが」
男が料理を作る。
しかも、弁当にこれだけこだわってる学生は少ないんじゃないだろうか。
「そういや沙耶は弁当じゃないのか?」
「お母さんが看護の仕事なので…」
「そっか…。じゃあ、自分では作ったりは?」
「……」
なんだ、この無言は…
「この前オムライスを作ったんですよ…」
「お、おう」
そして急に喋りだす。
「最終的にオムレツになりました…」
「なんでっ!?米はっ!?米はどこにいった!?」
「どうせ…、どうせ私なんか料理できませんよっ!!卵だってきれいに割れないし、野菜を切れば大きさはバラバラですっ!!ガスコンロなんて一回使っただけで壊しちゃうんですからっ!!」
「……」
え、これシリアスな状況?
つかオムライスからオムレツになるのもすごいけど、ガスコンロってどうやって壊すんだ?
逆に知りたいよ。
「…ぐすっ」
「ま、まぁお前が料理できないことは十分わかったから…」
「っ!!」
「ご、ごめん、ごめんっ」
「り、りんごの皮くらいむけるんですからねっ!!」