episode25―imitation―
すいません、遅くなりました。
最近忙しかったもので……。
これからは定期的に更新できるようにし……ますですはい。
窓から陽光が差し込んでいる。
虚ろな視界に入る光は、また眠気を誘うような柔らかいものだった。
「そうか……。俺、倒れたんだったな」
四角い空間。
辺りを見渡して自分の部屋だと気付く。
「あ、起きた?」
アリアがドアからひょっこり覗いてくる。
「体の調子はどう?」
「んーーーー」
上体を起こし、体を伸ばす。
「うん、悪くないな!」
「良かった。じゃあ今から沙耶ちゃん家に行くから準備して」
「よし分かった……って、ぇええ!?」
「ちょっと見せたいものがあるの」
見せたいものって……
「って、ちょっと待て……」
何か引っかかる。
「俺、なんで沙耶の家に行ったことがないんだ?」
母親の話も聞いたし、家庭は普通だって沙耶も言ってたはず。
なんで今まで気にしたことがなかったんだ?
「やっぱり……」
アリアは呆れたように呟いた。
「なんだよ、『やっぱり』って」
「君は『暗示』をかけられていたみたいだね。この世界の魔法でも、それくらいのレベルはあるでしょ?」
確かに。
個人差はあるが、それくらいの暗示魔法ならあるはずだ。
「じゃあ、俺の『意識』が『沙耶の家』に向かないようにされていたのか……」
「その通り」
アリアはにっこりと自慢げに頷く。
「でも、なんでそんなことするんだよ?家庭は普通なんだろ?」
「そんなのは簡単だよ。それを込みで、知られたくないことがあるからでしょ」
※※※
普通の一般住宅――
最初に感じたのはそんな事だった。
周りと何も変わらないタイプの家で、そこにあるの事に何も違和感はない。
そして、横に立っているポストには確かに『神野』と記されている。
「これが沙耶の家……か」
「普通でしょ?」
アリアは、他人の家だという事も気にせずに敷地内へと足を進める。
「な、なぁ、勝手に入っていいのか?」
「いいの。どうせ誰にも分からないんだから」
「?」
アリアはそのまま玄関のドアノブに手を掛けると、真剣な顔付で俺を見た。
「いい?どんなことがあっても沙耶ちゃんに話しかけちゃだめだよ?」
「は、え……、何でだよ?」
「入れば分かる。とにかく『絶対』だからね」
アリアは念を押すように言うと、ドアノブを回してドアを開けた。
中に入ると、沙耶の靴が一足並べてあった。
「こっちね」
どこに行くか決まっていたかの様に足を進めるアリア。
俺は何がなんだか分からないまま着いていくと、リビングらしき一室の前で足を止めた。
「さて、驚くかもしれないけど、絶対に沙耶ちゃんに話しかけちゃ駄目だからね」
アリアはもう一度そう言うと、何も躊躇わずに俺の手を引いてリビングへ進入した。
「――――――――――!!」
一瞬では気付かなかったが、数秒でその『異常』に気付いた。
リビングにいた『女の子』が、明らかに普通じゃないのだ。
女の子は笑って食事をしていた。
「でね、直樹くんの幼馴染にあったの。綺麗な人だったなー。え?いや、さすがにお母さん相手に敬語はおかしいよー」
いないはずの誰かに向かって話しをしながら。
「ど……うなってんだよ、これは……」
悪夢でも見ているようだった。
笑って、家族と談笑して、夕食を食べて……恐らく沙耶はそうしてるつもりなんだろう。
だけど、それは本当に沙耶だけだった。
俺達には沙耶が1人で騒いでるようにしか見えない。
沙耶は俺たちに全く気付かずに家族との対話を続ける。
「おい……これは一体何なんだよ!!」
俺は思いっきり大声で叫んだが、沙耶の耳にはまるで届いてないようだった。
「ただ簡単に暗示と言うには軽すぎるね……。強力な催眠術か脳改造か、はたまた、この家自体が『異空間』になっているのか。まぁたぶん場所限定の催眠術かな。この世界に空間操作なんてできる人間はいないから」
アリアは冷静に状況を観察し、分析していた。
俺なんか何も頭に入らないのに。
「ねえ」
「?」
「ショックなのは分かるけど、まだ気付かない?」
「え……?」
「仮想の両親が沙耶ちゃんには見えている……。誰かは知らないけど、それを見せる理由は何?」
「まさか!?」
アリアは何も隠そうとはせず、ただ作業的に述べた。
――――そう、沙耶ちゃんの両親はね、もういないんだよ