episode19―past―
木崎未来。
幼稚園からの付き合いで幼馴染。
事件は3年前に起きた。
2日前から風邪で学校を休んでいた俺は、家でずっとつまらないテレビを眺めていた。
そろそろ外の空気でも吸いたいと思った俺はぶらっと家を出ることにした。
熱もないし、咳もほとんどなかったので大丈夫だと思っていた。
でも、それがいけなかった。
商店街に向かい横断歩道を渡っていた時、一台のトラックが俺目掛けて走ってきていた。
風邪気味でボーっとしていた俺にとって、それは一瞬のことだった。
ただ俺は、誰かに突き飛ばされ、道路脇に転がった。
肘や膝を強く打って蹲りながら道路を見ると血まみれの未来が倒れていた。
赤い液体は瞬く間に広がっていき、多くの通行客の悲鳴を生む。
そこでやっと俺は気がついた。
俺の代わりに未来がトラックにひかれたと。
幸い、命に別状はなかったものの下半身不随。
背骨の途中から神経が途切れて歩くことができなくなった。
それから、未来は学校を休んでリハビリに励んでいる。
※※※
ドアが開き、病院を後にする。
「そう……だったんですか……」
「責任を感じないわけないじゃないか。あんな足になっちまってさ……」
だから、定期的に顔を出すようにしている。
約束上は月1回。
「で、なんでそれが友達の少ない理由になるんですか?」
「それがさ……、何も知らないクラスの奴が未来の悪口言っててな。『あれだけ顔広いんだから男でも見つけて遊んでるんじゃない?』とか……」
「それでキレちゃったと」
「その通りでございます……」
明らかに冗談だったのに俺が過剰反応しちまったということだ。
案の定、クラスから浮きはじめた。
例外の賢だが、あいつは事故現場に居合わせてたみたいだ。
というか元々から浮いてる奴だし。
「まったく……、クラスメイトは大切にしなきゃ駄目ですよ?」
「おい!その台詞、そっくりそのまま返すぞ!?」
お前こそ浮きまくりじゃねーか!
……と思ったら沙耶は笑って答える。
「私は大切にしてます。ちょっと形は違くて、みんなには理解してもらえないかも知れないけど……」
そうだった。
こいつはただ自分が特異な存在だったから……
「……お前、すごい奴だよな」
「そうですか?」
「ああ」
仲良くもない奴のために体はって頑張ってるんだ。
すごいに決まってる。
「……あ、そうだ」
「はい?」
「全部解決したら旅行に行こう」
「旅行……」
思いつきだった。
全てが解決したあとのご褒美として、それくらいいいじゃないか、と。
ただ、身近な目標として。