prolog2―knows―
「ん………」
カーテンの隙間から光が差していた。
「朝…か…」
時計を確認。
――6時21分
目覚ましが鳴る前に起床した。
実は親と離れて、このアパートに住んでいる。
仲が悪いわけじゃなく、ただ何ごとも経験ということで。
必然的に1人暮らしになるので家事も少しずつ慣れてきた。
そうは言っても、朝はあまりやる気が起きないので手抜き。
テレビを見ながら菓子パンをかじり、時間が来たら出発。
毎朝そんな感じだ。
「はぁ…魔法も漫画みたいに便利ならなぁ」
自然と愚痴が漏れる。
現代、現実の魔法。
それは、魔法とは言えないくらい小さなもの。
暗示やおまじない、ちょっとした身体能力の向上くらいだ。
『空が飛べる―』とか、
『攻撃魔法だ―』とか、そんなもんは有り得ない。
『魔法』。
なんて大それた名前をつけたんだろう。
※※※※※※※
「みんな、今日も登校してきたのか。元気だな」
とても教師とは思えない担任、水野が入ってきて朝のホームルームが始まる。
いつもと同じ風景……ではなかった。
確かに水野先生が入ってくるところまではいつも通り。
でも、いつもと違っていたのは、その水野の後ろに昨日の生徒がついてきたことだ。
その『普段と違う』というだけで自然と教室が騒がしくなる。
「じゃあ、新しい仲間がやってきたんで仲良くしてやってくれ。はい、自己紹介」
「はぁ!?」
クラス全員が声をあげる。
俺を除いて。
「言っとくが転校してきたんじゃないからな。ただのクラス替えだから」
「………」
水野先生の話が終わると、昨日の少女が教壇に上がり自己紹介を始めた。
「E組からきた神野沙耶です…。よろしくお願いします」
神野沙耶って名前か。
「……ん?」
気付くと教室中の誰もがひそひそと話をしている。
ちらほら聞こえてくる内容は、あまり感じのよいものではなかった。
「神野って、あの神野?」
「やばくね?」
「つか、クラス替えってありえないでしょ…」
「…………」
どういうことだ?
神野沙耶という生徒は何かしたのだろうか?
実際、生徒数が多いので生徒全員を知るのは難しい。
でも他のみんなは知っている。
「俺だけ?」
「もしかしてお前、知らねぇのか?」
ぶっきらぼうな声で話しかけてくる。
高槻賢。
金髪。
ピアス。
誰が見ても不良。
でも猫が大好き。
料理が大得意。そして自分からボランティアをするくらい優しいというスーパーギャップボーイ。
「知らない……。そんなに有名なのか?」
「お前はこういうの疎いからな。しかたねぇから教えてとくか」
賢は腕を組んで沙耶を見た。
「神野沙耶……。あいつに触ったやつは死ぬって言う噂があるんだ……」