episode11―limit―
しばらく電車に揺られているうちに目的地に着いた。
駅から出ると大きな川が南北へと伸びていた。
「綺麗な場所ですね?」
「だな……」
川の周りに並んでいる木々は、ほど良く赤と黄に染まっていた。
「で、宿はどこなんだ?」
「宿はここからすぐですよ」
沙耶は川をはさんだ向こう岸を指差す。
そこには大きな文字で『おいでやす』と書いてある建物があった。
『おいでやす』って……
「じゃあいきましょうか」
※※※
「あ、いらっしゃーい。宿泊ですか?」
旅館に入ると女将らしき人が迎えてくれた。
奥の方には何人かの宿泊客がお土産を買っている。
沙耶は女将さんの所に行って宿泊の手続きを始めた。
「一泊でお願いします」
「かしこまりました。部屋は一つでよろしいですね?」
「はい。できるだけ狭い部屋でお願いします」
沙耶!?なんで!?
「うふふ、とっておきの部屋をご用意しますよ、お客様……」
お、女将さん!?
初対面だよね、あなたたち!?
※※※
指定された部屋に入ると、畳特有のいい匂いがしている。
窓からは駅の近くに流れていた川も見えた。
「いい部屋ですね」
俺は部屋に着いた途端、急に疲れがきてすぐに座り込んでいた。
「……?直樹くん、顔色が良くないですよ?」
「い、いや、大丈夫。旅行が楽しみで眠れなかっただけだから」
「そうですか?具合が悪い時は言ってくださいね?」
「おぅ。あ、俺ちょっとトイレに行ってくる」
俺は立ち上がって部屋から出た。
「……っ」
足を速める。
最初は歩いていた足がすでに全力疾走まで歩を速めていた。
トイレの洗面台に来てすぐに自分の状況が分かった。
「吐血……」
口から血が流れていた。
「っ!……かはっ!」
吐血が洗面台に飛び散り、『ビチャッ』っと嫌な音が耳に入る。
限界だった。
沙耶じゃなく『俺』が。
最初の頃はなんともなかったが、少しずつ俺の体に影響が出てきていた。
沙耶が魔法を使う時、体中に裂けるような痛みが走る。
回を重ねる毎に痛みが増して、遂にここまできてしまった。
「まさか吐血までするとはな……」
口元を拭う。
「まだ……、まだ大丈夫だ……」
そう自分に言い聞かせて部屋へと戻った。