意外性ロック
ざっと2300文字くらいです。
砂糖を吐きやがれ〜。と呪いを込めながら書きました()
出来心。悪戯心。なんと言ったらいいか。まあ、魔が差したというのだろうか。
授業の合間の休み時間。教室の端っこ、窓際の席で俯せになって寝ている同級生の浅倉君。彼の耳にはイヤホンが付けられていた。青色をしたそのイヤホンから、音は漏れてこない。割としっかりしたものらしい。
浅倉君は普段何を聴いているのか。少なくとも、私が聴いているような、激しい曲調と退廃的な歌詞の曲ではなさそうだった。聴いている自分が言うのもなんだけれど、割とあのバンドは好き嫌いがはっきり分かれると思う。
むしろ浅倉君は、古典音楽とか言われる類のものを聴いているような気がする。クラシックとか、オペラとか。あれ?オペラとクラシックって何が違うんだっけ?クラシックが舞台だっけ?んん?
まぁともかく、浅倉君はそういう曲を聴いていそうだ。人、それを偏見という。けれど、どう見たってあんなおとなしくて、授業の合間にはああやってイヤホンをして、のっぺーっとしてる、そんな浅倉君は、ロックとか聴いてなさそう。
というわけでちょっといたずらを仕掛けてみることにした。右のイヤホンを、ひっそりと引き抜いてみる。
そのとき、浅倉君の髪の毛に少し触れてしまう。モコモコしそうな、羊の毛のようにくるんとした髪の毛。ちょっとだけどきりとした。大丈夫、起きてない。というか浅倉君、本当に寝てるの?え?
引っこ抜いたイヤホンから、音が漏れ聞こえる。ははぁ、どうせスメタナとかなんとかいうのを聴いてるに違いない。
違いない…?
あれ?このメロディ、どっかで聴いたことがあるような…?って、あぁっ!?これ私の好きなバンドの…。
「ん、なんで大川さんが僕のイヤホンを…?」
あ、やばい。浅倉君起きちゃったよ…。なんかテキトーに、言い訳を…。
「えーっと、ほら、次教室移動だから起こそうかなー、って」
「あっ、そうだっけ、次物理の実験だったっけ…いやごめんごめん、起こしてくれてありがとう」
「え、いいよいいよ、お礼なんて。私たち一応、三年間同じクラスなんだしさ」
セーフセーフ!心の中の審判がセーフを宣言。やっぱり浅倉君ちょろい。
「でも、なんでイヤホン外すだけじゃなくて、大川さんがイヤホンつけて聴いてたの?」
心底不思議そうな目で見つめてくる浅倉君。ああやばい、変に鋭いというか、こういうところは鈍くないんだった。
「あ、あはは、それはその…ちょーーっと気になってぇ…」
「へ?気になるって、何が…?」
…素直に出来心でやったというべきだろうか。口を開きかけたとき、浅倉君は何か思い出したのか、先に口を開いた。
「そういえば、大川さんって軽音部でしょ?」
「え、ええ、軽音部だけど…」
「そっか、そしたらさっき僕が聴いてた曲とか知ってたりする?」
もちろんですとも。むしろその曲のバンドの大ファンです、はい。でも、大ファンっていうと引かれそう…。ここは無難に…。
「知ってる、あんまり有名ではないけど…」
「そっかそっか、僕この曲大好きなんだよね。このバンドも、もちろん好きなんだけど、いまいちギターの人の区別がつかないんだよね…」
それわかる、頭からトサカ生やしてる時もあれば、普通の髪型してたりするもんね。MVだと観てても結局分からない。ボーカルの人だけがいつも通り。
「でも浅倉君が、そういうの聴いてるのって意外ね。クラシックとか聴いてそうなのに」
「ん、クラシックも聴くけど、最近はずっとこういうの聴いてるかなぁ。なんかこう、勉強してても気分が乗るというか」
「あー、でもむしろあれよね、作業妨害BGM?」
「作業妨害BGM、言いえて妙だね」
そういうと浅倉君は笑い始めた。笑いのツボはどこかおかしい。三年間、正確には二年と四ヶ月くらいの付き合いだけど、やっぱり変な人だと思う。
「でも最近はこのバンドだけじゃなくて、こっちもよく聴いてるんだよね」
そういって浅倉君は、白いスマートフォンの画面をこちらに向ける。そういえば男子の一人が「男子はスマホを、女子に見られたら死ぬ」とか言ってたけど、浅倉君はこうやって見せているということは、あれは冗談?
スマホの画面には最近メジャーデビューしたという聞いたことのないバンド名と、バンドメンバーの写真、発売したてのCDアルバムのジャケットが写っていた。
「あれ、これ私知らない…」
「ん、でもこのバンドの曲結構いいんだよ。お昼休みになったら聴いてみる?家にCDあるから明日持ってくるけど…きっと大川さんも気にいると思うよ」
「え、じゃあ、ぜひ…?」
「なんでそこ、疑問形なの…?」
「いやだって、申し訳ないし…」
「遠慮しなくていいよ、大川さん、いつも僕と仲良くしてくれるし…あ、そろそろ授業の時間だっけ。物理の教室に行かないとね」
そういって浅倉君は、机の中から物理の教科書やノートを引っ張りだし始めた。私も慌てて席に戻り、同じく教科書とノートを引っ張りだし、筆箱をひっつかむ。
「じゃ、行こっか」
「ええ…」
どうにも、浅倉君には敵いそうにない。結局、私の悪戯はまたしても返り討ち。
でも、悪いことばかりじゃない。
「あ、そうだ、浅倉君」
「ん?なに?」
「最後の文化祭、軽音部でライブやるから、私たちのライブも観に来てよ。あんまり、ああいう空気は好きじゃないと思うけど」
浅倉君は、少し苦笑いして答える。
「当たり前でしょ、大川さん達のライブ聴かなかったらきっと損するもの」