第27話(83話) 果てにあるもの
狙撃演習場に響く重苦しい銃声。
そこでは数人の大人の兵士達に混ざり、撃ち出されるクレーや飛び出す的を正確に撃ち抜く少女の姿があった。
「…………やっぱりここじゃつまんない」
独り言を呟き、トリガーを引く。撃ち出された弾丸はクレーを2枚撃ち抜き、更に飛び出した的の真ん中を貫いた。
すると背後から乾いた拍手の音。射撃音のせいで普通なら聞こえない筈だが、少女の耳はその音を聞き逃さなかった。
「凄え精度の狙撃だな。そんな可愛い顔して人間離れした技だ」
「おっさん、確か……あぁ、あの時変態ヘルメットと一緒にいた奴? 死んでなかったんだ」
「シュランだ。よろしくな、フブキ」
笑いながら手を差し出すシュラン。だがその手を、フブキは払い除けた。
「何でここにいんのか知らないけど、私にタメ口訊けるような立場? 私の方が先輩、分かる?」
「はいはい、フブキ先輩。トリックフェイス博士がお呼びでございます」
「ようやく終わったのね。あのヘッポコ変態科学者、時間かけ過ぎ。……ねぇ、喉乾いた。飲み物」
「はいはい、何をご所望で?」
「何でもいい。あ、炭酸買ったら殺すから」
「かしこまりー」
シュランはへらへらした敬礼をし、すぐ近くの自販機で飲み物を購入。トリックフェイスの元へと赴くフブキに追いつき、飲み物を手渡した。
「オレンジジュース……まぁまぁ」
「……そういやフブキ先輩は、いつから軍隊にいるんすかー?」
「は?」
急に足を止め、シュランの方を見上げる。
「聞いたらまずいこと?」
「…………いいや。 軍学校の初等部を飛び級したから、あ〜、3、4年前?」
「小学生の頃に引っこ抜かれたわけ。それじゃあ青春も何も経験しなかったってことか。男の子に恋することもなく来たわけ」
「別にそんなの必要ねーし」
「親御さんとかは?」
「……あんた、人の地雷踏み抜いて何が楽しいわけ?」
「先輩みたいなの見ると突っつきたくなる主義でして。我ながらよく殺されないでここまで生きてこれたなと」
ニヤニヤしながらフブキの返答を待つシュラン。真面目に答える義理など無い。それにこれ以上何をほじくり返されるか分からない。だが、フブキの口はいつの間にか動いていた。
「死んだ。戦死。2人ともパイロットだったから、別に理不尽でも何でもない。稼ぎだけはよかったから生活には困らなかったけどね。……馬鹿みたい、ガキ一人残して死ぬ親がいるかっての」
「言っちゃ悪いが、先輩はまだマシな方よ。仕事柄、俺はもっと酷い別れ方をしたガキどもを見たことがある。親に売られた、親に殺されかけた、目の前で親兄弟を殺された……」
「だから? 私には関係ない」
「そう、関係ない。ま、気を付けとけってことよ。いつの間にか誰かの仇になってるなんてザラなんだ。先輩は何を必死になって強くなろうとしてんのかは知らんが、視野は広く持ちな」
そんなことを話している間に、2人は機動兵器格納エリアまで来ていた。重い扉が自動で開くと、広い空間に大量の機動兵器が並んでいる光景が広がる。
「グシオスは軍備関連に特に力入れてるけど、何でなんすかね?」
「知らないし、興味ない」
「ならーば、私からご説明しましょーう!!」
籠った声が聞こえたとたん、フブキの顔が青くなる。相当苦手なのだろう。
「理由は単純明快!! アルギネアをこちらに取り込み、一つの統治国家を造る為。我が軍の総司令官と大統領はその思想を互いに共有している! 政府と軍の思いがバラバラなアルギネアなんぞとは違うのでーす!! だかーー」
「旦那、本題」
「あ、はい。それじゃこちらにどうぞ」
途端に冷静さを取り戻したトリックフェイスは、2人を案内し始める。
「フブキちゃん」
「きもい」
「はいかわいい。まずは新型の前に、貴女のヴォイドリベリオンにちょっと手を加えました。といっても内面ですがね。ハイパワーフレームとアクトメタルフレームのハイブリッド、なぁづけて、タイタンフレーム!!」
「…………で、何が違うの?」
「あ、興味ない感じ? 具体的に言えばぁ、フレーム強度が従来のアクトメタルフレームの数倍高いんです〜。だから今までよりもヘラクレスを扱いやすくなりましたよって、お話」
期待外れな反応で更にトリックフェイスのテンションが下がり始める。
「ただの整備の割に時間かかると思ってたら、人が頼んでもいないのに勝手に改造しやがって……」
「流石に酷くなーい? わたしみんなのためにがんばってるのにー」
「あんたが言うと胡散臭いな」
そしてフブキは振り返り、格納庫を去ろうとする。トリックフェイスも本当にそれ以上の用事はないようで、引き止めようとはしなかった。
と、扉の前でその足が止まった。
「…………ジュース、ありがと」
「え、なんすか先輩?」
「うっさい。これ片付けろ」
ジュースの缶を投げつけ、今度こそ去っていった。空中でキャッチした缶からオレンジ色の液体が溢れる。
「うわっ、ちゃんと全部飲めよ。せっかく買ったのに」
「貴方も一緒に歩みましょう。幼女を愛でる道へ」
「断っときます。ガキに好かれても面倒なだけなんでね」
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[特例任務を発行:グシオス主要都市、リジルの市街地に、軍部の情報を取引に用いている情報屋の存在を確認。これを秘密裏に排除せよ]
端末に指示された場所に赴く。そこは高層ビルが立ち並ぶ市街地から少し離れた場所にある裏通り、その少し奥まった場所にあるバーらしい。通り過ぎていく人間も、とても一般人には見えない者ばかりだ。腰から拳銃をぶら下げていたり、顔をマスクで隠している。かく言う自分も、スカーフで口元を隠し、黒いローブのようなもので身元を隠している。
バーのドアノブに手をかけ、ゆっくりと引いた。
中にいた人間は4人。カウンターの上には積まれた紙幣と、一般に売られている通信端末を改造したと思しきものが乗っている。座っていた客の3人は、凄まじい形相でこちらを睨んでいる。
「……誰だ、てめぇ」
「女か……? おい、見たことあるか?」
「ねえな。こんな銀髪の女、見たら持ち帰る」
「なるほどな……おい女、いくらでーー」
男が言い終わる前にエルシディアは拳銃を抜き、眉間を撃ち抜いた。消音機によって銃声は木霊せず、男の頭蓋骨が砕ける音がバーに響いた。
「な……!?」
「てめぇ何のつーー」
戸惑った2人を処理するのは早かった。もう一人の左胸を即座に撃ち抜き、更にもう一人を突き飛ばし、馬乗りの状態から首筋にナイフを押し込んだ。
最後の一人、情報屋は倒れたカウンターの下敷きになり、身動きが取れなくなっていた。ゆっくり歩み寄り、首筋にナイフをあてがう。
「な、なんだお前は……!?」
「……聞きたいことがあるの。教えてくれたら、命は考えてあげる」
「なんだ、分かった、持ってる情報なら渡すから……!!」
「バイオレストア手術、アクトニウム……それらに関して持っている情報を、全部出しなさい」
任務により、裏のルートから入国したティノンは、凄惨な光景となったバーの内部を歩き回る。
総司令官から、軍の内情を売る情報屋を捕らえる任務を与えられたのだが、どうやら何者かに先を越されてしまったようだ。
血塗れで転がっていた3人の男の死体。そしてティノンの足元に転がる情報屋は息こそあるものの、口を刃物で切り刻まれ、もはや長くはなかった。
通信端末の中を覗くと、すべてのファイルが抜き取られており、情報を引き出すのは困難な状態。だがティノンは犯人の痕跡を見逃さなかった。
死体の一つに刻まれていたナイフの刃型、そして血と脳漿で汚れた一発の弾丸。
「……もう少しだけ、探ってみるか」
ティノンは呻く情報屋を一人残し、バーを後にした。
続く
次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜
「取引材料」
その身を対価に、少女達は真実へ迫る。




