第4話 約束の傷跡
「総司令、例の兵器はグリフォビュートへ無事回収されたとの報告が届きました」
「……了解した。では、これを開発班と整備班へ」
その男は奇妙な出立ちをしていた。
全身を黒装束で包み、顔には鳥の頭蓋骨を模した仮面を被っており、異様な雰囲気を漂わせている。
内心、対峙している兵士は気が気ではない。
総司令と呼ばれた男は、ある用紙を兵士へ渡す。
それを見た兵士は、目を見開いた。
「これは……⁉︎」
紛れも無い、あの例の兵器とよく似た機動兵器の設計図だ。
推定されている機体性能、製造費、その他全てがグリフィアの数倍以上の数値を示している。
一体、どこからこんなものを手に入れたのか。
「これを、三ヶ月で仕上げるようにと」
「さ、三ヶ月…⁉︎この規模の兵器をですか⁉︎
」
「人員はこちらから手配する。パイロットは私が選考しよう。では、頼んだ」
「り、了解しました」
意見など出せるはずもなく、兵士は顔を強張らせつつも、ビシリと敬礼し、部屋を去っていった。
総司令は机の上に置いてある地球儀を、まるで撫でるかのように回し始める。
「まさか、ゼロエンドが再起動するとはな」
その言葉と裏腹に、声色に焦りの響きは無かった。
「原因は恐らく…いや、確実に」
「う、うん……?」
ビャクヤは、自身の意識がゆっくりと浮上していくのを感じた。
しかし、未だ周りは暗闇に包まれた空間だ。まだ、完全に目覚めてはいないようだ。
自分の意識の中は何故こんなにも真っ暗なのだろうか。身体だけが異質な物のようにはっきり浮き出ていて、おかしな気分になる。
「それは、貴方に限ったことじゃない」
凛と木霊した声に、ビャクヤは肩をビクリと震わせる。
いつの間にか、目の前にはアリアの姿があった。
「アリア!一体、何をしたの⁉︎」
「……フラムシティのグシオス軍は殲滅したわ」
「せ、殲滅って…⁉︎」
「だけどその後私も意識を失って、それで……」
アリアは言葉を詰まらせる。
その琥珀色の瞳を、涙で輝かせて。
「何で、泣いてるの?」
「…うぅん、覚悟はしていた。貴方を巻き込んでしまうことは、十五年前に」
「十五年前⁉︎だって、君…」
ビャクヤはアリアの姿を凝視する。どこをどう見ても、十歳前後にしか見えない。
だが、アリアは昔からビャクヤのことを知っているような口ぶりをしていた。もしも、そのことが本当なら…
「君は…指輪のーーー」
だがその時、急に世界が歪み始める。ふわふわとしていた感覚が、パズルのようにしっかり合わさる感覚。
「時間切れね」
「待ってよ、一番聞きたいことがまだ…!」
「時間が経てば、記憶が私と共有される。どんな事実も、しっかり受け止めて」
私は君と、いつまでも一緒にいるからね
〜グリフィア機動兵器輸送陸艦〜
グリフォビュート 機動兵器格納庫内
「クソ、ハッチが開かねぇ。おやっさん、こじ開けんのは無理くせぇぞ」
「システム干渉出来ねぇんだからしょうがねぇだろうが。あぁ!テメェ、また道具壊しやがったなこの下手くそ‼︎」
「うるせえクソ親父!だからむりだっつてんだよお!」
意識が戻って初めて聞いた音は、何かがメキメキと軋む音、キュイイインという甲高い機械音、そしてそれらが小さく聞こえるほど大きな若者と老人が怒鳴り声だった。
周りはさっきと打って変わって、様々な計器が並ぶ小部屋だった。
「って、ここは‼︎」
まごう事なきコクピットだ。実習で乗ったことはあるものの、ビャクヤは驚きを隠せない。何故あの地下水道から、こんな物々しい場所へワープしてしまったのか。
記憶の中を手当たり次第に探るが、全く思い出せない。
「あ?おい、中から声が聞こえたぞ。お〜い、生きてんのか?生きてんならハッチ開けてくれ」
ビャクヤは迷う。
そもそもコクピットの外がどこなのか、まるで検討がついていないのだ。
最悪、開けた瞬間殺される可能性だってある。
「あり?聞こえてるか?」
返事が無い事を訝しんだ若者は、ドンドンとハッチを叩く。
「気のせいじゃないのか?この損傷だ、パイロットが死んでても不思議じゃねえぞ」
「いや確かに聞こえ…って、ティノン中尉何しに来たん、ぐほぁ‼︎」
突如謎の鈍い音が響き、次にガシャンと金網に倒れこむ音が続いた。
「……中のパイロット、生きているのは分かっている。開けろ」
「……………」
大丈夫、やり過ごせる。こうして黙っていればきっと。
「開けろ‼︎ さもなければグリフィアで無理矢理にでもこじ開けるぞ‼︎」
「ヒィッ‼︎⁉︎」
凄まじい怒気だ。やり過ごそうと黙り込んでいたビャクヤは気圧され、ハッチの開閉レバー倒す。
すると、ハッチは呼吸音に近い排気音と共に開き、光をコクピットへ招き入れる。
目の前にいたのは、軍服を身に着けた少女だった。
ルビーの様に鮮やかな紅いポニーテール、凛とした顔に、しなやかな身体つき。
その金色の虹彩を持つ瞳は、猛禽の様に鋭く細められていた。
「………服装からして学生か」
「あの…えっと…」
「コクピットから出てもらおうか?」
年はあまり変わらないように見えるが、やはり軍人。その言葉から発せられる威圧感と殺気は本物だ。
ビャクヤは大人しくコクピットを降りる。
「腕を後ろに回せ」
言う通りにすると、ガシャリと、冷たい金属の感触が腕にまとわりつく。
手錠だ。
「待ってよ!僕は何もしてな…」
「何もしてない、か。全く笑えない冗談だな」
「本当だよ!気づいたらあの中にいたんだ!
冗談なんかじゃない!」
「うるさい‼︎いいから歩け!」
「だって、水路に落ちて、それで……」
その時、ビャクヤはあることに気がついた。何か、おかしい。
「何で……左腕が…治って…」
水路に落ち、地下水路に流れ着いた時、確かに左腕は複雑骨折していたはず。
だが、痛みを全く感じない。
「左腕?」
ティノンは手錠を掛けられたビャクヤの左腕の袖をまくった。
「これは…⁉︎」
思わず息を呑み込んだ。
ビャクヤの左腕には渓谷のような深い裂傷が、肩まで連なっていたのだ。
「うわぁ…こいつはエグいな」
先ほどティノンに突き飛ばされた若者はそれを見ると大きく身震いした。
「まずは医務室に届けたほうがいいな、これほっとくわけにもいかんでしょ」
「…………チッ、仕方ない」
ティノンは袖を元に戻すと、トンとビャクヤの背中を押した。進め、ということか。
「道は私が案内する、転んだら受身がとれないから気をつけろよ」
さっきまでとは違う、気遣いの言葉。
ビャクヤはほっと一息つく。これがツンデレというものか。心が温まっていく。
「あ、ありが」
しかし、そんな甘いことなどなかった。
「少しでも抵抗したら肋骨を全部へし折るからな」
耳元の囁き、というより脅迫に、ビャクヤの心の温度は絶対零度まで下がった。
( ′・ω・)
どうも、雑用軍 少尉です。
3話の後書きで少し短めにする、と言いましたがいかがだったでしょうか?
話によって長さは少し変わるかもしれません。区切りがいいところをなんとか探して切るようにしていきたいと思います。
あいも変わらずの文章ですが、頑張っていきたいと思います。
それではまた!
追記
テストグォレンダァ‼︎
もうやめて!少尉のLPはとっくに0よ‼︎