第19話(75話) 恩讐
オルトベロスは身構える間さえ与えず、アークリエルに飛びかかる。
アークリエルは大盾でトンファーを受け止め、オルトベロスを弾き返す。すぐさまスピアーを突き出し、反撃。
ウォーロックはバックラーで受け止めるのではなく、受け流す様にスピアーを躱す。
「復讐だと……!?」
「覚えてなくてもいいさ。それで改心されても困るからな!!」
アークリエルの頭部へトンファーを突き出す。だがそれは間一髪盾に阻まれ、競り合う様な態勢になる。
「遠距離武器はないか……ならば!」
ケイオスは無理矢理スラスターを吹かし、オルトベロスを押し返した。ウォーロックも抗うが、出力差に押され、突き飛ばされる。
その時、アークリエルの盾からワイヤーが射出。オルトベロスを絡め取ると、高圧電流を放出する。
「ぐぁぁぁっっ!!?」
コクピット内部に到達した電流は機器だけでなく、ウォーロックにもダメージを与える。
「このまま焼け死ぬが良い。個人的な復讐に走る輩に構ってる暇は……」
「うぉぉぉぉぉっっっ!!!」
ワイヤーに絡め取られてなお、ウォーロックはアークリエルへ突進する。突き出されたスピアーが右肩を貫くが、そんな事御構い無しにトンファーを振り払う。
オルトベロスの渾身の一打がアークリエルの頭部を捉える。
「こいつ、なんて無茶を!?」
「この程度!!」
ウォーロックは電流に焼かれる痛みに耐え、ワイヤーを掴んで引き千切ろうとする。アークリエルはそれに対抗してオルトベロスを引き倒そうとするが、それを利用して肩からタックルを仕掛ける。
体勢を崩した隙を狙い、腰から引き抜いたナイフでワイヤーを斬り裂いた。
「止まってたまるかよ!! スペクターは前に進んでるんだ! 俺が、彼奴らの想いを背負ってる俺が止まるわけには行かねえんだよぉっ!!!」
肩に槍が突き刺さったまま馬乗りになり、左腕のトンファーを我武者羅に打ち付ける。アークリエルの頭部に亀裂が走り、その機体がよろめいた。
ケイオスはオルトベロスを引き剥がそうと左腕を掴むが、ウォーロックは強引に振り払い、再び頭部を打ち据える。
「貴様如きが……俺の……!!」
スピアーを引き抜くと、盾でオルトベロスの胴体を力任せに殴りつけた。
「俺の夢を阻む気かぁぁぁっっ!!?」
背中のブースターが火を吹き、十字の焔を象る。足元から噴き上がるエアーで機体が僅かに浮き上がると、高速で槍を構えて突進する。
殴りつけられた衝撃で回避もままならず、オルトベロスはその一刺しを右肩に受けた。
抵抗出来ずに引き摺り回される。脚部の装甲が地面との摩擦で剥がれ落ちていく。
「俺はぁ……あああっっっ!!!」
振り落とされないようにしがみつき、胴体へトンファーを叩きつけるチャンスを伺う。しかし高速でホバー移動するアークリエルに振り回されているせいで狙いが定まらない。
「〜!! ……っ!? しまっ……!?」
気付いた時には遅い。
崩れかけた格納庫の壁に、オルトベロスは叩きつけられた。凄まじい衝撃がコクピットを揺らし、頭を打ち付ける。ヘルメットが弾け飛ぶ。
磔のようにされたオルトベロスへと、ケイオスは容赦なく盾で殴りつける。頭部を、胴体を。
「ガハッ!! うぐはっ!!」
「グリモアールを復興する為に、俺は、俺たちは今まであらゆるものを犠牲にしたんだ!! 必ず成さなければならない! 散っていった同胞の為に、未来の為に!!」
「テメェらの未練の為に……俺達の居場所を奪ったのかよ!? それじゃあお前らが憎んでるアルギネアやグシオスと同じなんじゃねえのか!?」
「黙れ黙れ黙れぇっっ!!」
盾を投げ捨て、オルトベロスの右腕を引き千切る。引き抜いたスピアーでコクピットを貫こうとするが、オルトベロスの左腕のバックラーが軌道を変え、右脚に突き刺さる。
「自分がやろうとしていること、分かってるんだよな!? 罪から目を背けたら、それこそ復讐鬼になるぞ!!」
「貴様如きに何が理解出来る!? 貴様の方こそ復讐鬼だ!! 何の大義も持たず、感情のままに相手を殺戮する!! そんな奴にぃ……」
ケイオスはスピアーを引き抜き、今度はオルトベロスの左腕を踏みつけて押さえつける。
「俺を否定することなど、出来るわけがない!!」
アークリエルのスピアーが、オルトベロスの胴体を深々と貫いた。
「くっ、すばしっこい奴!!」
マシンガンを掃射するが、フランケンシュタインはフラフラと掴み所のない動きで躱す。そして反撃にロングライフルを撃ち放つ。
「確かに性能じゃ負けてるがよぉ、お行儀良い戦い方じゃ俺は止めらんねぇよ!」
シュランは地面を撃ち、土埃を舞い上げる。レーダーを確認すると周りに熱源反応が数機存在している。デコイの類だろうか。
視界を奪われたゼナはすぐさまアクトメタルブレードを引き抜き、マシンガンを周りに撃ち放つ。煙が薄くなった瞬間、
「そこにいるっ!!」
レーダーの反応だけではない。土煙の僅かな気流の乱れからおおよその位置を予測し、背後に向けてブレードを斬り払う。
振り下ろされたチェーンブレードとぶつかり合い、火花が大量に飛び散った。
「バレちまった。流石に舐めすぎたか?」
「こんな、小手先の戦い方!!」
肩にマウントされたロケットランチャーを構え、至近距離から発射。間一髪の所でフランケンシュタインは頭部を傾けて躱すが、その一瞬を突き、ゼナは鍔迫り合いを押し切る。
「おっと!?」
「そこっ!」
ブレードを突き出し、コクピットを狙う。
しかしシュランはそれを、フランケンシュタインの脚部スラスターを全開にし、バック転をするようにして回避した。
「なっ!?」
「あっぶねえなあんた! 死んだらどうすんだよっ!!」
無茶苦茶な事を言いながら、チェーンブレードを地面すれすれを沿うようにし、斬り上げる。ゼナもガルディオンⅡのスラスターを逆噴射して回避するが、胴体の装甲が削り取られた。
猛攻は止まらない。ロングライフルの射撃がガルディオンⅡに降り掛かる。
「この……!!」
「時間稼ぎのつもりだったがよ……やっばいなこりゃ……!!」
久々の戦いだ。
それもEAの様なイカれた性能の機動兵器ではない。理解の範疇にいる機体同士での戦い。
仕事という事を忘れてしまう。脳内を、身体を、興奮が包む。
「久しぶりに遊ぶぞ!! こいつは良い戦いだぜ!!」
すると突然、フランケンシュタインはロングライフルとチェーンブレードを投げ捨てた。そして腰部から大振りのナイフを取り出す。
「ナイフ……!? 馬鹿にしてるの!?」
「本気で行くぞフランケン。ロートルの根性見せてやろうじゃねえの!!」
「そんな戦いかーー」
直後、急接近したフランケンシュタインのナイフがガルディオンⅡのマシンガンを刺し貫いた。
「っ!?」
心臓が止まりかける。今までと動き方が全く違う。
これまでは手堅く、地形を利用したり、勝利を第一にした戦い方だった。
だが今の動きは違う。
「はっはぁ!! まさにチキンレースだな!!」
振り払ったアクトメタルブレードは寸でのところで躱され、逆にその手を斬り付けられ、ブレードを取り落としてしまった。
まるで自分の命を、わざと危険に晒しているような戦い方だ。
攻撃を躱そうとすると、それを予測したかのように先回りされる。反撃をしようとすると、その出を潰すように攻撃される。
更にシュランはガルディオンⅡのアクトメタルに守られていない部分、関節部などを重点的に狙っていた。
「く、あぁ……!!」
「どうしたぁ! もう一度向かって来いよ!! 折角の機体が泣いてーー」
「っ!!」
攻撃の一瞬の隙、そこでゼナはガルディオンⅡのナイフを引き抜き、フランケンシュタインのナイフを受け止めた。
「ほぅ……やれば出来るじゃねえか」
「……!!」
続く
次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜
「躊躇いの死線」
剣を振るうのを拒む。それは一体、誰の記憶故か……