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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第5章 終わらない宿命
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第18話(74話) 蘇りの代償

 

 2人が沈黙する中、外からは戦闘音が響き続ける。


 エルシディアの瞳が揺れる中、スペクターの瞳は真っ直ぐ彼女を見つめていた。


「君とシラキ博士を迎えに来た」

「…………」

「どうしたの? さぁ」

「まだ、戻れない……」

「……まだ?」


 俯き、気になる単語を発したエルシディアに対し問いかける。だが彼女は質問に答えず、スペクターを睨み返した。

「ビャクヤ、貴方は帰りなさい。シラキを渡すわけにはいかない」

「俺はビャクヤじゃない。だから帰りもしないし、シラキ博士を君達に渡すわけにもいかない」

「何を言っているの?」

「知っているはずだ、君がクラウソラスの人間なら。あの実験で生じる記憶、人格統合を。俺はビャクヤとアリアが合わさって生まれた、別人だ」


 理解が追いついていないエルシディアに対し、スペクターは淡々と話す。それを聞いたエルシディアから、血の気が引いていく。


「じゃあ、ビャクヤは……!?」

「記憶だけなら残ってる。君は、エルシディアはビャクヤの仲間であり……特別な人間だった。俺はビャクヤに託されたんだ。君をアルギネアに連れ戻すように」

「…………!!」

 頭を押さえ、机の上に寄りかかるエルシディア。上に乗っていたパソコンが落ち、派手な音を立てて破壊される。


「ふ、ふふ……あの話は、本当だったわけね……!」

「何の事?」

「でも、これで吹っ切れた……!!」


 エルシディアが引き金を引くのと同時に、スペクターも引き金を引いた。弾丸は互いの手から銃を弾き飛ばす。


 2人はナイフを抜き、一斉に駆け出した。


 スペクターがエルシディアの手を掴むと、そこを支点に彼女は飛び上がる。そのままスペクターの背面に回り手を振り払うと、首筋目掛けてナイフを突き出す。

 振り返りざまに振るったナイフとぶつかり、軌道がずれた切っ先はスペクターの頬を切る。


 一旦距離を取る。


 先に駆け出したのはエルシディア。ナイフを前方に構え、突進する。

 スペクターは軌道を予測して回避しようとする。しかし彼女は途中でナイフを投擲。

 眼前に迫ったナイフを払い落とした瞬間、走り寄って来たエルシディアに首を掴まれ、壁に押し当てられた。


 両手とはいえ、細い腕からは考えられない程の力で首を締め上げる。

「ぐ…………く…………」

「貴方はビャクヤじゃない、貴方はビャクヤじゃない、貴方はビャクヤじゃない!!」

 自らに言い聞かせるように。スペクターに知らしめるように。締める力を強めながら、呟き続ける。

「貴方はぁ…………!!」

「エ…………ル…………!!」


 訴えかけるようなスペクターの瞳。2年前と変わらない声で自分の愛称を呼ぶ、想い人の幻が重なる。


「あ…………」


 一瞬、力を緩めたその時だった。


 自らの首に掛かった手を振り払い、彼女の身体を突き飛ばした。

「くっ!」

 急ぎエルシディアは立ち上がろうとする。



 だが次の瞬間、暴風と衝撃波が巻き起こり、スペクター達がいる部屋を吹き飛ばした。


 倒れ込んだゼファーガノンが、破壊された部屋から見える。どうやら戦闘の最中吹き飛ばされ、ここに叩きつけられたようだった。


「こんな時に……!!」

 舞い上がる土埃の中、エルシディアはスペクターの姿を探す。

 しかし既にスペクターの姿も、シラキの姿も消えていた。




「さっすがだな。シラキ博士はこれで確保だ」

「足を撃たれてる。弾抜きと止血を」

「あいよ、俺はお医者様だからな」

 輸送艦の中からゼオンが身を乗り出し、ぐったりしたシラキを中に回収する。

「ウォーロックは先に出てる。お前の機体も持って来たから早く乗れ」

「了解」

「……彼女は、ダメだったか」

 フラれた男を慰めるような口調でゼオンは尋ねる。スペクターはただ、小さく頷くだけだった。


 輸送艦の中で待機していたディスドレッドに乗り込む。



 ーー 貴方はもう、ビャクヤじゃない ーー



 何故心が痛むのだろう。

 散々自分も言ってきたというのに。それが事実なのに。


 この気持ちはビャクヤのものなのか、アリアのものなのか、それとも、自分のものなのか。


 迷う間に、ディスドレッドは起動した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 振り下ろされたヴァルダガノンのヒートアックスを躱し、ガルディオンⅡは胴体にブレードを突き刺す。

 続いてメインブースターを点火、急加速し、グリフォビュートに向かおうとしていたジェイガノンへ接近。

 肩に下げたロケットランチャーを発射、比較的装甲が薄い背部を狙い撃ち、撃破する。


「……この機体、使いやすいかも」

 ゼナは小さく笑い、地上を滑走する。



「ちっきしょうコイツら、なんでこの数で押せないんだ!」

「怯むな、押せ、押せ……ぐぁぁっ!?」

 空からの奇襲に、部隊はバラバラになっていた。


 エグゼディエルの電磁加速ライフルでの狙撃、そしてインプレナブルからのミサイル掃射。散り散りになった部隊を1機ずつ、ガルディオンⅡに狩られる。



 その様を、シュランはフランケンシュタインの内部から観察していた。

「こりゃ厄介な奴らだ。俺の部隊とグリモアールの連合で敵わないとはな。旦那、どうしますか?」

「んっん〜、どうしましょうかね?」

 わざとらしく顎に手をやり、首を傾げるトリックフェイス。

 するとフブキが口を開いた。

「私が行くよ。紅い奴もいるし。彼奴の相手は私しか出来ないし」

「いやダメです。ヴォイドリベリオンはまだ改修途中なんで戦場には出せまっせ〜ん」

「……チッ、無能科学者め」

「もっと言って、もっと私を責めて」

 悪態が効くどころか要求までしだしたトリックフェイスに、げんなりとした表情を向けるフブキ。


「ってなわけで私達は撤収します。私は研究資料パクって来ますんで、フブキちゃんはエルシディアちゃんと合流して脱出の手筈を。あ、もしも中に残ってる科学者を見つけたら、シラキ博士含めて殺しちゃって構いませーん」

「いいの?」

「だって大体見れば私が出来るくらいには完成してましたしー、むしろ逃しちゃって技術漏れる方が困るー、みたいな」

「はいはい。…………あと話し方キモいからやめて」


 毒を吐きながら、フブキはその場を後にする。かつての彼女とは違い、自己中心的な面はある程度なりを潜めていた。



「で、俺は何すりゃいいんですか?」

「時間稼ぎをお願いします。そうですねぇ、30分くらい?」

「奴等相手に30分は難易度高いんすけど」

「報酬増しますから。あと助っ人だします」

「助っ人? ……あぁ」


 シュランは自らの頭上を飛び越えて行く影を見送る。



「っ! あれは!!」

 ガルディオンⅡの目の前に、見覚えのある機体が降り立つ。

 前に見た黒いマントはなく、その代わりに重鎧のような装甲がコクピット付近に増設されている。露わになった背中には、2つの蜘蛛のような小型機がしがみついている。



「確かに心強い味方だな。……じゃあ、ぼちぼち向かいますわ」

 フランケンシュタインは立ち上がり、デュランハデスの後を追う。




「後ろからもう1機来る……!!」

 ゼナはデュランハデスから目を離さない様にしつつ、その背後から迫る機体にも目を向けた。

 継ぎ接ぎだらけの歪な機体。その異形の出で立ちが妙な不安を煽る。


「さて死神さんよ、こっちが援護を……っておい?」

 デュランハデスはフランケンシュタインから離れ、真っ直ぐガルディオンⅡへ飛び掛る。

 ゼナは咄嗟に回避するが、デュランハデスの大鎌が次々と薙ぎ払われる。

「っ、この機体……」

「おいおい、これじゃあ援護射撃が……」

 ロングライフルを構えたまま攻めあぐねるシュラン。


 その時、空からもう1機の機動兵器が降り立った。



 蒼い装甲を纏った騎士。


「あ、彼奴は……!!」

 ゼナは心の中を憤怒に支配されかけ、慌てて落ち着ける。

 あの機体はツキミの足を奪った。許せるはずがない。

 だがこの戦況で相手する事は難しい。


 ところが、またしても予期せぬ事が起こった。


 デュランハデスの猛攻がピタリと止んだ。そして有ろう事かゼナを無視し、ゆっくりディスドレッドの方へ向き直ったのだ。

「何……? 何が…………」


 直後、ディスドレッドの大剣とデュランハデスの大鎌がぶつかり合った。


「やっぱり…………貴方は…………!」

 スペクターは呟くと、ディスドレッドを飛び退かせる。後を追ってついて来るデュランハデスと共に、2機は戦場から離れて行く。



「待てっ! お前は私がーー」

 ゼナがディスドレッドを追いかけようとした瞬間、銃撃がガルディオンⅡに降りかかった。

「無視は良くねえよ」

 フランケンシュタインのライフルの銃口から煙が立ち込めていた。

「邪魔を……!」

「EAの方は大丈夫みたいだな……兵が死ぬのは辛いが、奴等には時間稼ぎに徹して貰おうか」


 ゼナの遥か後方では、グリフォビュートが多数の機動兵器によって包囲されていた。

 だが戻るには遠すぎる。

「……隊長達、お願いします!」

 2人に艦の運命を託し、ゼナはフランケンシュタインへ立ち向かう。





「アルギネア……!!」

 アークリエルを起動させ、戦場に向かうケイオス。その最中、破壊された同志達の機体が目に入る。


 その手には新たな武装が握られていた。以前のスピアーよりも更に肥大化し、その丈はアークリエル本体を超えている。柄の部分には4機の小型のブースターが接続されていた。



「……? あの機体は……?」

 少し先で見覚えのない機体が立っており、アークリエルはその足を止める。

 だが刹那、すぐに敵だと認識した。足元に転がっているゼファーガノンの残骸を見て。

「貴様……アルギネアか!?」

「同郷だよ。……やっと、だ」



 邪魔は誰もいない。


 自分達がまた、前へ進むために果たす復讐。もう言い訳も、正当化もしない。



「やっと……仇が取れるなぁ!!」


 オルトベロスの両腕のシールドからトンファーが射出。


 その双眸が狂犬の様に、鈍く輝いた。



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「恩讐」


大切なものを奪い、奪われた者の復讐心は燃え上がる。

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