第3話 Cracked World 後編
「エル!ガイオ中尉が敵に囲まれてる、援護にむかってくれ!」
エルシディアは通信機から響いたティノンの言葉に表情を曇らせる。
先ほど二機のジェイガノンをティノンとの連携で倒したばかり。しかしこちらが撃墜するより多く、撃墜される味方機が後を絶たない。
機動兵器の技術が優れているグシオスのジェイガノンの性能が、グリフィアに勝っていることもその要因の一つだろう。しかし、今回は明らかに敵のパイロットが上手だ。
先ほどの敵も、ティノンがいなければ苦戦は必死だった。
「ティノンから援護射撃出来ないの?」
「銃身が焼けてる。冷却までかなりかかるんだ」
「…了解」
ティノンが搭乗しているグリフィアもまた、専用にカスタムされている。こちらは左肩にレドーム、頭部に高倍率カメラを搭載し、大型の狙撃ライフルを装備している。
街を見渡せる小高い地域から狙撃をしていたが、とうとうガタが来てしまったらしい。
エルシディアは自身の機体の大型ブースターを点火、他のグリフィアを圧倒する速度で指定座標へ向かう。
すると、三機のジェイガノンに包囲されたグリフィアを捉えた。ジェイガノンは今にも射撃を行いそうだ。
エルシディアは一切速度を緩めず、対艦刀を構えてジェイガノンへ突進する。
速度と重量が上乗せされた対艦刀の一撃、それをまともに受け止めたジェイガノンの胴体は、金属が引き裂ける高音と共に二つに泣き別れとなった。
「何⁉︎」
グシオス軍の兵士たちは、無惨に引き裂かれた僚機に肝を冷やし、一旦距離をとった。
「ガイオ中尉、援護に来ました。状況は?」
「エルシディア少尉か。援護、感謝する。状況の方だが…」
ガイオ中尉の機体は、右腕がグシャグシャに潰れ、機体各部もボロボロとなっていた。
「一機はなんとかやったが…代わりにこのザマだ。そこにこうやって三機に囲まれて絶体絶命だった、ってわけさ」
「…なら、あまり状況は好転していませんね」
「残念ながら、な」
そう言いながら、ガイオは残った左腕のマシンガンをジェイガノンへ向ける。
相対するジェイガノンは残り二機。一機は大型ライフル、もう一機はサブマシンガンを携行している。
機体性能の面だけで見ると、二対二でも厳しい戦いになるだろう。
「背後からとは…姑息な手を‼︎」
グシオス軍の兵士は大型ライフルの照準をガイオのグリフィアへ合わせる。
「クソ、来るか…少尉、構えろ!」
エルシディアも対艦刀をもう一方のジェイガノンへ構える。
時が静止する。風さえも、その息吹を止める。
エルシディアが向かおうとしたその時。
天を衝くような轟音が響く。
「っ‼︎?」
エルシディアは一瞬理解が出来なかった。目の前で起きた、あまりにも不可解な事象に。
目の前のジェイガノンの胸部からは、白銀の装甲を纏った腕が突き出ていた。
「まだ、戦えるのね、安心した」
ビャクヤの《第二人格》、アリアはひっそりと言葉を漏らした。
ジェイガノンを貫いた右腕を引き抜くと、オイルと人間の血が混じった液体を生々しく滴らせていた。
と同時に、右手甲部のアームガードが悲鳴をあげる。やはり、装甲劣化が激しいようだ。
「き、貴様、アルギネア軍か⁉︎ 応えろ‼︎」
もう一機のジェイガノンのパイロットの喚き声が通信機から聞こえる。
応えるつもりなど、毛頭無い。
「全部、見ていたのよ…あなた達の所為でこの街は…ビャクヤは‼︎‼︎」
目の前のジェイガノンを押しのけ、ゼロエンドはバックパックブースターを点火すると同時に一気に跳躍する。
「コイツ!」
ジェイガノンは大型ライフルを構え、弾丸をゼロエンドへ連射する。
しかし、アリアは全く恐れを感じない。
ゼロエンドは身体を捻りながら回転、弾雨の隙間を縫うように回避する。
そしてそのまま、ジェイガノンの目の前へ着地。
「何ィ⁉︎」
咄嗟にライフルを投げ捨て、左腕の袖部からナイフを抜くが、
「遅すぎる」
ゼロエンドはナイフを持った腕を掴むと、そのままジェイガノンを足で蹴り飛ばし、その腕を引きちぎった。
よろけたジェイガノンは胴体を晒してしまう。アリアはそこを見逃さず、引きちぎったその腕ごとナイフを胴体へ突き立てた。
パイロットの断末魔は聞こえず、機動兵器のジェネレーターが爆発する音が虚しく響くのみだった。
アリアは鉄屑と化したジェイガノンから大型ライフルを取り上げる。
ジェイガノンのパワーでも両手を用いなければならない重さだが、ゼロエンドなら片手で十分扱える。
その時だった。
「……‼︎」
振り向きざま、ゼロエンドの左腕と振り下ろされた対艦刀が交差した。
拮抗する二つの金属が火花を散らす。
「少尉⁉︎何をーーー」
「その機体を渡しなさい」
ガイオの問いには答えず、エルシディアはアリアへ要求する。
「少尉、今は民間人が優先だ!刀を納めろ!」
「この機動兵器の回収は総司令部からの最重要任務です。民間人の保護より優先すべき、ね」
「何、だと……」
ガイオは唖然とした。通信機から聞こえたエルシディアの声は、氷点下の冷気さながらに冷たかったのだ。
「大人しく従いなさい。命まではとらないわ。……少なくとも今は」
「…思いあがらないで」
「…?」
ゼロエンドはライフルを放し、その右手で対艦刀の刀身を掴む。
「民間人はどうでもいい?エルシディア、貴女がそんなことを言うなんてね」
「⁉︎ 何故私の名前をーーー」
次の瞬間、バキッ、という鈍い音と共に対艦刀は真ん中からへし折られた。
左腕に刺さった切っ先を払い捨てると、ゼロエンドはエルシディア達から背を向ける。
「いいわ、私一人で全部やるから」
「待ちなさい!貴方一体…」
エルシディアの言葉が終わる前に、ゼロエンドは蒼炎をバックパックから吐き出し、飛び去っていった。
「少尉、一体アレは…」
「今はお話できません。中尉はグリフォビュートへ連絡をお願いします」
「おい、ちょっと待っ…」
エルシディアは踵を返し、ゼロエンドを追って行く。
瓦礫と大破した機動兵器のみが周りを埋め尽くし、フラムシティは見る影もなくなって来ている。
「特務小隊…。噂通り、陰がある部隊のようだな…」
「どう責任を取られるおつもりで?」
眼鏡をかけた男、キーレイ・エルフはバフォメットの艦長へと詰め寄る。
「どうというのは…」
「現在の状況です。我が軍の機動兵器は半数以上が大破。おまけに例の機動兵器まで敵に奪われる始末…」
キーレイはモニターに表示されている被害状況を指さし、あくまで冷静な声で告げる。
「民間人を巻き込んでまで行なった作戦がこうとは…失望しました」
「何だと⁉︎貴殿も了承したではないか‼︎何故私だけをーーー」
「了承した覚えはありません。本気で行うつもりか、とはお聞きしましたがね。立案も決行も、貴方が指示を出したのでは?」
「こ、この……‼︎」
艦長は顔をゆでダコの如く真っ赤に染め上げる。しかし、
「六番機、大破!謎の機動兵器、進行止まりません!」
「ぐ…!」
オペレーターの悲鳴にも似た報告に艦長の顔が歪む。
「クソ‼︎何としてもそいつを鹵獲しろぉ‼︎多少傷がついても構わん!」
キーレイは、口角泡を飛ばしながら無茶苦茶な指示を出す艦長を一瞥すると、操舵室を後にする。
こんな連中に、あの機動兵器を止められるはずがない。いずれ沈められる。
懐から通信機を取り出すと、ある人物へと連絡を入れる。
「こちらキーレイ・エルフ曹長です。これより帰投します。やはり、我々屍龍隊がこの任務を受けるべきでした。私の想定外です。…はい、では」
「何だ、あいつ……」
ティノンは一人、言葉をこぼす。
次々と破壊されていくグシオスの機動兵器。
それをやっているのは、たった一機の、白銀の機動兵器。
あるものはライフルで撃ち抜かれ、あるものは武器を腕ごと奪われ、あるものはコクピットを鉄の拳で潰される。
「あんなものを、私達は……」
ティノンは、薄々感づいた。
この兵器は
危険だと。
今ので七機。
踏みつけられたジェイガノンを見下ろしながら、アリアは撃破数をカウントした。
これだけ撃破されて撤退しないなど、余程ゼロエンドが欲しいのか、実力差が分かっていないのか。
ビャクヤの身体も、限界が来ている。護ると言いながら、身体を酷使してしまうとは。
だが、それももう終わりだ。
目の前の機動陸艦、バフォメットを睨みつけるアリアのその眼光は、獲物を殺す獣のものだった。
「ハアアアアアァァァァ‼︎‼︎」
ゼロエンドはその手に何も持たず、機動兵器ではあり得ない速度で走る。
「来るぞぉ‼︎」
バフォメットの艦長が叫ぶと同時に、機関銃、主砲の嵐が降り注ぐ。が、ゼロエンドは、アリアは決して止まらない。
胸部の装甲が剥がれ、片腕からはカーボンの人工筋肉が覗き、頭部のアイガードが破壊される。
だが、決して止まらない
主砲の射程を抜けると同時にゼロエンドは大きく跳躍する。
艦の壁にマニピュレーターを突き立て、一気に登りきり………
艦橋の目の前へ着地した。
「あ、あり得ない…こんなこと、あり得ないいいいいイィィィィ‼︎‼︎‼︎」
バフォメットの乗員が最後に見たのは、
琥珀色から紅色に染まった眼
生命が砕ける音が、虚空へ木霊した。
文章力が…ナンテコッタイ/(^o^)\
どうも皆さん、開幕からすみません
雑用軍 少尉です。
今回、前中後と分かれていたお話がやっと一区切りつきました。フヒィ……
そして僕自身、改めて知りました。
やはり小説を書くのは難しい‼︎
構想はポンポンわくのですが、それに文章力が追いついていない!
まるでガンダ○の性能に振り回されてた
初期のア○ロです。
とまあ、こんな有様ですが、キチンとこの物語は完結させてみせますよ!
次回から話が急激に進みますが、一話一話の長さは今より抑えて行きたいと思っています。
それでは、こんな拙い作品と無駄に長い後書きを読んでくださった心優しい皆様へ
THANK YOU VERY MUCH ♪