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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第5章 終わらない宿命
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第12話(68話) 追い求めるもの

 

 端末を開き、ブリーフィングルームのモニターに繋ぐ。画面に映し出される情報の数々に、ウォーロックは頭がついて行けそうになかった。


「なるほど、目当ての情報はほぼ揃ってるか」

 大量の情報にゼオンは頷く。スペクターはその中から、ある情報を拡大して見せた。


 映し出されたのは、1人の女性だった。

 眼鏡の先にある黒の瞳、ボサボサとした黒い長髪、白衣を着た長身。見た目から冴えない雰囲気を醸し出していた。


「……この女がどうかしたのか?」

 ウォーロックが尋ねると、スペクターは無言でモニターの下を指す。

 女性のプロフィールだった。名前はハバユリ・シラキ。名前から日系人であるのが分かる。更にその下には身長、体重、出身まで表示されている。

 だがウォーロックが指差したのは更に下だった。

「アクトニウム研究機関、研究開発チーフ?」

「この人をグリモアールが捕らえている。だからこそ、ろくな設備を持たないグリモアールがEAのような機動兵器を持っていられたんだ」

 更に端末を操作すると地図を映し出す。中立地帯の鉱山から続くルート。その先にあるのは、


「グシオス……!?」

「後ろで糸を引いている黒幕はグシオスだって事か。んで、グリモアールを通じてグシオスに協力をしている奴がアルギネアにいる。……でいいのか、スペクター」

「うん、そう」

「お前、適当な……」

 適当な返事をするスペクターにゼオンは呆れたような表情を浮かべる。


 その時、ウォーロックはあることに気がついていた。


「だから次の作戦は、鉱山地帯にて待っている筈のグリモアール、そして傭兵部隊を奇襲する。それと……」

「……おい、まさかーー」

「護衛に付く第一特務機動部隊。場合によっては戦闘になる可能性もある。こっちの事情なんて知らないだろうし、上官は何を護送しているかは知らせないだろうからね」

「まぁ、当たり前だな。しかも傭兵部隊やグリモアールなんて目じゃない兵力だ。何せEA2機に、最新機動兵器と来た。どうやって抑えるかーー」

「待てよ」

 その時、ウォーロックが声を上げた。

 ゆっくりとスペクターに歩み寄り、仮面の奥にあるであろう眼を睨み据える。


「第一特務機動部隊はアルギネアの部隊だろ。つまり味方と戦うっていうのか?」

「そうなるかな」

「あんた、何で平気そうな顔でそんな事が言える!?そんな事が出来る!? あんたにとって味方は何なんだ!?」

「どうしたんだよ、突然熱くなって」

 今までの態度からの豹変ぶりにゼオンは困惑する。だが、構わずウォーロックはスペクターの胸ぐらに摑みかかる。


「俺は、白いEAに復讐するためにあんたの元についた。白いEAが俺の仲間達を殺したからだ! だがあんたは目的の為に味方を、仲間すら殺そうとするのか!?」

「…………」

「何とか言え!! あんたの真意を俺に聞かせてくれよ!!」


「ゼオンさん、しばらく2人きりにして下さい」

「あ? あぁ、分かった」


 ゼオンはあっさり了承すると、部屋を後にした。



 その瞬間、スペクターはウォーロックの手を払った。

「俺の真意? 前に言った通りだ。大事な人を探すため、ただそれだけだ」

「あんたは、たった1人の人間の為に味方すら利用するのか……!?」

「俺には果たさなきゃいけない約束がある。その為に取り戻さないといけない人がいる。その為には味方だろうと戦う。簡単だろ?」

「ふざけんな!! たった1人の為に何人も殺すのが許されるかよ! 敵も味方も殺して、自分の願望を追い求める、そんなの人間じゃねぇ!!」

 振り上げられる拳を、スペクターは難無く受け止める。

 熱いウォーロックの拳とは違い、スペクターの手には温かさなど微塵もない。まるで機械の様に冷たく、無機質。


「だから言ってるじゃないか。俺は亡霊(スペクター)だ。望みが叶うまで、この世から離れられない。死ぬ事も出来ない。自分が成仏する為にあらゆるものを犠牲にする」

 受け止めた拳を弾く。ウォーロックはすぐさま拳を打ち返すが、スペクターはその手を掴み、無防備な顔面に肘打ちを食らわせる。

「グッ!?」

「俺からすれば、君の方がよっぽど許せない。仲間の仇討ちを理由に自分の行為を正当化する。君は生命を奪う罪から逃げている。これは復讐なんだ、自分がやっているのは人殺しなんかじゃない。いつかそうやって知らないふりをして積もった罪は、人間を魔物に変える。亡霊なんかよりもっと残虐なものにね」

「じゃああんたは、機械だな……亡霊なんて大層なもんじゃない……人殺しをして何にも感じていない、殺人機械だ……!!」

「自分が戦う理由を見つめてみろ。そうしなきゃ、君はいずれこうなる」

 スペクターは、黒いコートを脱ぎ捨てる。



 中から姿を現したのは、機械と化した右腕だった。剥き出しのカーボンナノチューブ、脈打つ筋肉の様に伸縮し、外装に金属が接着されたそれは、EAのものと同じだ。



「あんた…………それは…………!?」

「本当の理由を見つけた時には、俺の身体はもう手遅れだった。だから今、こうして無理矢理生きている。……まだ君は間に合う」



 そう言うとスペクターは再びコートを羽織り、端末を手に部屋を出て行った。


 ウォーロックは天井を仰ぎ見、歯を食いしばる。


 ーー 仲間の仇討ちを理由に、自分の行為を正当化する ーー



「じゃあ俺には……戦う理由も、資格も無いじゃねえか……どうすりゃいいんだよ、俺は!!」


 壁を強く殴りつける。ただ虚しく、音が反響するだけだった。





「さっき言った事、本心か?」

 部屋の外で待っていたゼオンが尋ねる。しかしスペクターは無言のまま過ぎていく。



 その反応だけで十分だった。



「そんなお前さんに朗報だ。……彼女(・・)の所在が掴めた」

 ゼオンの言葉に、スペクターは歩みを止める。

「まだ俺がフリーの医者だと思ってくれていたらしい。グシオスの知り合いが意気揚々と喋ってくれた。その場所は……中立地帯にある、ガラディール鉱山。作戦地域と一緒だな」

「……やはり、彼女も研究所に?」

「さぁな。本来なら生かされている事自体が奇跡的だ。だがどんな事情があるにせよ、この機を逃す手はない。これはお前と俺と、総司令官しか知らない密命(シークレットミッション)だって事、忘れるな」

 スペクターは小さく頷き、今度こそ去っていった。いつも皆に見せている飄々とした態度は無く、何処か空虚な雰囲気を纏っていた。


「運命は2人を巡り会わせてくれるか?」




「ベレッタ」

「んお? どうしたスペクター」

 ディスドレッドの整備を行っていたベレッタが顔を出すと、スペクターはある一枚の紙を差し出した。

 そこに記された内容に目を通すと、次第に苦虫を噛み潰したような表情になっていく。

「おいおい、これだと第一特務機動部隊とまで戦うんじゃ……」

「承知の上だ」

「承知の上ってお前……」

 だがベレッタは何も言えない。やると言ったらやる。スペクターは絶対に意思を曲げないだろう。


 よく知っているから、分かる。


「で、俺はどうしろと?」

「ディスドレッドを特殊仕様にしたいんだ。希望をリストにまとめてある。頼めるかな?」

 スペクターから転送されたリストに目を通す。ベレッタは先より更に苦い表情をすると、リストを突き返した。

「ダメだ、こんなの認められない。整備兵としてパイロットが死ぬ可能性が高いカスタムは認めらんねえ」

「君の妹分ならやってくれそうだけど?」

「あいつと一緒にすんな。……とにかくダメだ」


「いいじゃねえかベレッタ。やってやろうぜ」


 と、奥からガロットが現れる。その後ろにはノルンの姿もあった。

「どれどれ。なぁんだ、3人でやりゃすぐ終わる!」

「はい! 任せて下さいスペクターさん!」

「おいお前ら、このカスタムは……!」


 だがベレッタの言葉など届かない。


 スペクター、ノルン、ガロットの3人はスクラムを組み、ジリジリとにじり寄ってくる。



「わ、わ、分かった分かった!! くたばっても 知らねえからな!」

「うん、頼んだ」



 リストに再び目を通す。


 レッグブースターやプロペラントタンク、長射程特殊ライフルとその追加弾倉。


「さて、と。ちゃんと帰って来れるようにしなきゃな」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 一方、傭兵部隊はもう1つの基地に辿り着いていた。


 シュランは現存戦力を確認する。グリモアールを頭数に入れたとしても、アルギネアやグシオスと事を構えるには足りない。


 だが傭兵部隊のスポンサーは1つではない。個人的な支援を行っている人物が、グシオスの上層部にいる。



「イヤッハァ!! お元気ですか〜っ!?」



 と、その相手が来たようだ。

 ヘリから降り立ったフルフェイスヘルメットの男がシュランの元へ訪れる。姿も中身も奇妙奇天烈な男だが、報酬も支援も充実している。

「悪いなトリックフェイスの旦那。基地をやられちまってこのざまだ」

「あーあー、問題ナッシング。私の実験にご協力頂くだけで感謝感激ですので。この前の7号機強奪、改めてお礼致します。報酬と次回の支援は弾ませてもらいますよ」

「いや、仕事だからな。……んで、あの機体は順調かい?」



 シュランが目を向けた先にいたのは、死神。そのコクピットブロックの上に立つパイロットだった。



「えぇ、順調すぎるくらいですよぉ……やはりアクトニウムは神が与えた人類への救済なのです!! この技術が確立されれば、遂に人は死すら超越した存在となる!! キーッヒヒヒヒヒィハハハッ!!!」




「…………目的地ニ、到着。次ノ命令マデ、待機行動ニ移ル」


 モスグリーンの髪、白く濁った瞳。


 2年前、幽霊(ウェルゼ)だった男がそこにいた。変わり果てたかつての愛機(ファンタズマ)と共に。



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「私が見ている姿」


人が憧れるものは、人によって異なる。例え決して手が届かないものであっても。

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