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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第5章 終わらない宿命
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第5話(61話) 戦いの覚悟

 

 数日後、ゴルゴディアスのブリーフィングルームにウォーロック達は集められた。部屋の中ではマックスとスペクターが待ち構えており、重々しい雰囲気を纏っていた。


「……俺ら、何かしたっけか?」

「何かしたも何も、私達ちょっと前に来たばかりじゃん。何も出来ないし、する気もないよ」

 リムジーとノルンがひそひそ話す中、ウォーロックとベックは無言でスペクターたちを睨み据えている。


 それを感じ取ったのか、マックスは笑顔を浮かべながら話を切り出し始めた。

「やあ諸君。早速だが、君達の分の制服が届いた。まずはそれを受け取ってほしい」

 マックスは4人に制服を渡す。だがその制服にはアルギネアの国旗や軍の紋章はない。

 代わりに、竜、或いは悪魔の様な異形の怪物の髑髏が刻まれていた。

「晴れて君たちもこれでこの艦のメンバーだ。共に戦う仲間として、力を振るってほしい。さて、次は各員の配備先なんだが……」

 マックスは横目にスペクターを一瞥すると、小さく溜息を吐いた。

「艦長としてかなり情けない話だが……全て彼に一任させてある。彼が決めさせて欲しいと志願したからな。だから言ってしまえば私も知らん。この一件については彼に交代しよう」

 マックスが退くと同時にスペクターが前に出る。彼が今何を思っているのか、表情はおろか動きからも感じ取れない。


「それじゃあ。まずは戦闘部隊、つまり俺と一緒に戦ってもらう人だけど……これは事前に言ってあるよね」

 スペクターはウォーロックの方を向く。彼はそれに対し、軽く頷くのみだった。

 その時ウォーロックは、ノルンから視線を送られたことに気がつく。


「じゃあ次。まずベック。君には艦橋にて索敵を行ってもらう。大変だけど頑張ってね」

「……へい」

「リムジーは……炊事係」

 あまりに意外過ぎる配置に、リムジーは口をあんぐり開けて驚く。

「は、えぇ!? 何で……!?」

「不満?」

「いや、だって、ベックとウォーロックは命張る仕事なのに、俺は飯作るのが仕事!?」

「炊事は重要な役目だよ。士気にも関わるしね」

「いやでもーー」

「さて次は……」

「おい待って!! ホントに俺飯係!?」

 騒ぐリムジーを尻目に、スペクターはノルンに配属先を告げた。


「ノルンは……整備班」

「……」

「能力的にも君が整備班に居てくれた方が助かるし、異論はないね?」

「……ちょっと待ってよ」

 話を切り上げようとしたスペクターの声を遮る。ノルンの表情は怒りに染まっていた。

「私はグリモアールに復讐するために来たの! 私も戦闘の方に移して!」

「……残念。配属しようにも機動兵器がないんだ」

「だったらウォーロックじゃなくて私にして!! 覚悟なら出来てる!! 私は仇を取りたいの!!」

「覚悟は出来てる……か」

 スペクターは含みのある声を発する。ウォーロックはそんな2人の様子を、ただ静かに見守っていた。



「じゃあ見せて貰おうかな」



 ノルンの額に、ヒヤリと冷たい感触が突きつけられる。

 その正体を見る前に、ガチャリとスライド音がなった事で気がつく。自分は今、拳銃を突きつけられている事に。


「…………!!」

「どうしたの? これで狼狽えてたら戦いどころじゃないよ?」

「おいあんた、何やって……!!」

 リムジーとベックは止めに入ろうとする。しかし、


「やめろ2人共。そいつは本気だ。下手に手を出したら本当にノルンの頭を撃ち抜く」

 ウォーロックの一言に、2人の動きがピタリと止まる。

 スペクターはほんの一瞬顔をウォーロックに向けた後、すぐさま目の前で怯えるノルンに視線を戻した。


「さて。銃を奪うなり、俺を何とかするなりしなければ君はここで死ぬんだけど。何もしないの?」

「何とかって何をよ……こんなのどうしようもないじゃない……!!」

「…………ラストチャンスだ。この状況で、君は生きるのを諦めないでいられるか?」

 ノルンの身体はそれを聞いてなお、動こうとしない。どれだけ身体を動かそうとしても、か細い呼吸音が漏れ出るのみ。

 無意識下で、既に彼女は諦めてしまっている(・・・・・・・・・)



「…………はぁ。もういいよ」

 呆れ果てたスペクターの溜息と共に、銃声が甲高く響き渡った。


 暗くなる視界、聞こえなくなる耳。

 しかしそれらの感覚とは裏腹に、痛みはなかった。


 ノルンはゆっくりと目を開く。開くことが出来た。


 スペクターの携えた銃口は横にいるウォーロックの方を向いていた。彼の立っている場所の横の壁には、硝煙を上げる穴が開いている。だがウォーロックは身動ぎ一つしていなかった。

「よく避けなかったね、ウォーロック」

「いきなり撃たれて避ける暇がなかっただけだ」

「それはすまなかった。……ノルンも脅すようなことをしてすまない。君を戦場に出すわけにはいかないんだ。君にしか出来ない仕事がたくさんある」

「……私にしか?」

 腰が抜け、立てなくなったノルンをスペクターは抱きかかえる。仮面越しではあるが、2人の顔の距離が急に近くなる。顔を赤らめる彼女に対し、スペクターは優しく語り掛ける。

「整備は戦いの勝敗を決めると言っても良い。君の想いを、俺とウォーロックに託してくれ。……いいかな?」

「は、はい……」

 最早ノルンの表情は恋する少女のそれと化している。さっきまでお前を銃で脅していた男だぞ、とリムジーとウォーロックは首を横に振る。しかしそんな様子も目に入っていないようだ。

「早速、整備区画に向かってもらえるかな?」

「はい! ま、任せてください!!」

 そう言うとノルンは一目散に部屋を出て行ってしまった。


「……さて、本題に入ろうか」

 すぐさまいつもの口調に戻ったスペクターに対し、3人はおろかマックスまでげんなりしていた。

「まずこれからの事なんだけど、俺たちはグリモアールが半年前に強奪した機動兵器の奪還、或いは破壊を命じられている。そして重要なのが、この任務は隠密である事。つまり友軍にも知らされていないし、援軍を呼ぶことも出来ない。孤立無援状態での戦いになる」

「うへぇ……過酷すぎんでしょそれ」

「戦闘は俺とあんただけか。だが補給物資は誰が提供している? 俺のグリフィアを送った奴か?」

「それは心配ない」

 ウォーロックの質問に対し、マックスが返答する。

「こっちにはお偉いさんがハスト社の極一部の部門に話を通してあるから物資は定期的に送られてくる。食料とかも同様にな」

「ハスト社って、あのハスト社!? すげぇ、超大手企業じゃん!!」

 リムジーがはしゃぐ一方で、マックスは苦笑いをスペクターに向けていた。

 これも全部、総司令官とこの男が手配したものだ。一体あんたは何者なんだと目線で質問してみるが、当然返答はなかった。


「だけどかなり厳しい状況下で戦うことに変わりはない。……改めて、覚悟を決めてほしい」

「とっくに決まってる」

「……うっす」

「俺も……まぁ、飯当番だけど」

 各々の覚悟を聞いたスペクターは小さく頷くと、一転して気さくな口調で話し始めた。


「それじゃあ、各員自由時間。それと、これから戦う仲間だ。船員に挨拶くらいはしておいた方がいいよ」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……え、ここ、整備区画……?」

 想像していたものと違っていた。

 ただ機動兵器がたくさん押し込められているだけだとばかり考えていたが、実際は様々なコンテナが行きかい、機動兵器は奥にある2機以外に見えない。

「拍子抜けだったか?」

 突如背後から声をかけられ、ノルンの肩がびくりと跳ね上がる。

 声の主はベレッタ。輸送船で既に会っているが、話す機会がなかった為に驚いてしまった。

「も、もっと大きいかなとか思ってた。機動兵器とか、武器とかたくさんあってさ」

「ロンギ―ルの方に行けばもっと本格的なものが見れるんだけどな。今ここにあるのはディストレッドと……オルトべロスしかないな」

「……? え、機体名?」

「他に何があるんだよ?」

 ノルンは首が曲がらんばかりに捻っている。ベレッタは何故か得意げに名の由来を話し始めた。

「ディストレッドは花言葉、そして円卓の騎士の名前からとったんだ。んで、オルトべロスは冥界を守るといわれる魔犬からとった。どうだ?」

「ふーん」

「ふーん、て。何かもっとこう……ないの?」

 渾身の名をスルーされたベレッタはがっくりと手すりにもたれかかった。


「これ2つとも、あんたが設計したの?」

「まあな。機体と武装は俺、んで他はおやっさん達がやった。ディスドレッドはまだ良かったんだが、オルトベロスは苦労したんだぜ」



 ノルンは改めてオルトベロスへ視線を向ける。



 頭から察するにベースはグリフィアだが、装いは全く異なっている。せり出した胸部、膝と脛にブースターが増設され、両腕には小さな盾。


「これさ、盾の中に何か仕込んでる? 盾の先っちょになんかの穴? みたいなのが……」

「あぁ、それな……余りパーツで作った。ウォーロックの要望でな……はぁ…………」

「何で溜息つくのよ?」

 武装の詳細を知らないノルンはまたしても首をひねるが、ベレッタは説明しようとはしなかった。



「浪漫兵器を実戦機で要求すんなよな……作っちまった俺も俺だが…………」



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「戦争の需要」


戦いは本当に、無意味で必要のないものなのか。

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