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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第5章 終わらない宿命
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第3話(59話) スペクター

 

「ふざけた事を!!」

 アークリエルはスピアーを構え、全速力で突進する。しかしディスドレッドは闘牛士の様にそれをいなす。

「躱された!?」

 アークリエルはすぐさま反転する。しかしディスドレッドはすでに目の前まで迫り、大剣を振り回す。

 アークリエルは巨大な盾でそれを受け止めるが、打ち込まれる一撃の重さに徐々に後退していく。


「調子に乗るな!!」

 ケイオスは一瞬の隙をつき、槍を突き出す。頭部を狙った一撃は首を動かして躱される。しかしそのままスラスターを全開にしたシールドバッシュ。

 ディスドレッドは大きくよろけ、大剣を取落した。

 その隙を見逃さず、アークリエルは槍を構えて突進する。


「調子に乗ってるのはそっちだ」


 ディスドレッドの両腿からハンドガンが射出。二丁の掃射をアークリエルの頭部へ放つ。

「何っ!?」

 剥き出しの緑のツインアイが弾ける。動きが鈍った隙に取り落とした大剣を地面から引き抜き、通り過ぎ様に背中に叩きつける。


「グゥッ!!」

 アークリエルは体勢を崩しそうになるがギリギリの所で踏み止まる。しかし、

「コアの限界が近いか……だが目的は果たした」

 ケイオスはそのまま荒野を走り抜け、撤退した。



 青年は深追いしようとはしなかった。

「…………ごめんベレッタ。逃げられた」

 〔仕方ねえ。近くにあった工場は?〕

「破壊されてる。これから生存者を探す」

 〔頼む〕



 蒼い機動兵器のコクピットが開き、中からパイロットが姿を現した。

 人魂の様な、炎を模った奇妙な仮面を付けた男だった。警戒すべき相手ではあるが、敵意はなさそうだ。

 ウォーロックがハッチを開けると、男はこちらに気づいた。


「大丈夫?」

「大丈夫なもんかよ……目、付いてんのか」

「間に合って良かった。まだ生きてる人がいて」

「間に合ってなんかねえよ…………!!」


 自らの後ろで燃え盛る炎を指差し、脱力した様に倒れ込む。


「何にも出来なかったじゃねえか……まだ何も恩返ししてねえよ……ちっきしょう!!」


 青年は空を見上げる。



 美しく輝く月を、空を飛ぶ影と炎が遮った。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「そっか……災難だったな」

 ウォーロック達は輸送船の中に保護され、黒髪の短髪の青年ーーベレッタに事情を説明した。


 自分達の身に起きた、理不尽な出来事を。


「どうして……私達、何もしてないのに…………工場長達まで…………!!」

「ここまで腐った国になっちまったのかよグリモアールは……」

「……」


 ノルンは泣きじゃくり、リムジーとベックは歯を食いしばっている。


「まぁ、なんだ。あんま偉そうな事は言えないが……災難だったな」

 ベレッタはバツが悪そうにする。

「俺達がもっと早く来てりゃ、防げたのかもしれないけど……」


「だが、これは少々面倒な事になった」


 と、ドアが開き、中から白髪混じりの医師が現れた。気怠げながら、眼光は鋭い。

「あんた、誰だ?」

「ゼオンだ。って、お前らの事は後だ後。俺はベレッタに話があるんだ」

 ウォーロックの話を強引に打ち切り、ゼオンはベレッタへと視線を戻す。

「ディスドレッドを奴らに見られ、あまつさえ逃げられたんだ。グリモアールだけじゃない。奴らの後ろにいる何かに勘付かれる可能性もある。いくら何でも、これは軽率な判断だったんじゃないか?」

「おっさん、今こいつらの前でその話はーー」


「何よそれ…………私達を助けたのは間違いだって言いたいの!?」

 ノルンが涙で濡れた顔を上げ、ゼオンに食ってかかる。対してゼオンは表情一つ変わらない。

「あぁ、はっきり言って間違いだ。本来なら奴らの跡を追って、俺達の艦と合流してから戦闘をする予定だったんだ。それを…………なぁ、隊長さんよ」


 ゼオンが投げかけた視線の先を、その場にいる全員が追う。

 ドアが開いた先に立っていたのは、1人の男だった。銀髪と黒髪の混じった髪、黒いコートに身を包んでいる。

 そして何より目を引くのは、炎を象った青白い仮面。まるで人魂のようだ。


「…………まぁ、良いじゃないか。助かる命があるなら、助けてやりたい。そうでしょ、ベレッタ」

「あ、あぁ……悪い。なんか、他人事じゃなくてよ」

「…………なぁ」

 ウォーロックは立ち上がり、謎の男の元へ歩み寄る。リムジーとベックが止めようとするが、彼は止まらない。

「あんた、名前は?」

「俺はスペクターだ。君は?」

「…………ウォーロック。あんたら、何でグリモアールが工場を襲ったのか、そして奴らの後ろにいる何かが何なのか、知ってんのか?」

「ちょっと待てや兄ちゃん。それをお前さんが知る必要はないと思うな」

 ウォーロックの問いをゼオンが遮る。しかしウォーロックはゼオンを煩わしそうに一瞥しただけ。依然スペクターの返答を待つ。

 すると、仮面に篭った低い声が帰って来た。


「あぁ、知ってる。けどゼオンさんが言った通り、部外者に教える事は出来ない」

「ならどうすればいい。どうすればーー」

「お、おいウォーロック……」

 リムジーの額に冷や汗が浮かぶ。得体の知れない相手に対し、ウォーロックが踏み込み過ぎているような気がしたのだ。このままでは、大変な事に巻き込まれる。

「一旦落ち着こうぜ。まずは俺達が今後どうするかを考えなきゃいけないんじゃね? 工場も、ないしさ……」

「俺も、そう思う。これから、どうする?」

 ベックもリムジーに賛同する。


 しかし、これにノルンが反発した。


「私……仇を取りたい」

「ノ、ノルン……?」


 ノルンの表情は先程と違い、怒りに燃えていた。激情ではない。青い炎の様に、静かな忿怒。

「工場長も、みんなも、何も悪い事してないのに……私達を助けてくれたのに……こんな事絶対おかしいよ!! 絶対、絶対許さない!!」

「許さないったってどうするんだよ!」



 混沌とする空間。

 助けを求める様なベレッタの視線に、スペクターはクスリと笑った。

「なら、こうするのはどうだい?」

 スペクターの言葉に、皆が静まり返る。



「ここにいる全員、俺達の部隊に来るというのは」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「新型機の納品が完了しました。これから配備先の決定を行いたいと思います」

「ご苦労」

 兵士が一礼し、部屋を去っていく。


 アルギネア総司令官は軽く息を吐き、地球儀に手を掛ける。

 グシオスとの戦いが休戦して1年。グリモアールでの一件を糾弾され、軍の肩身が狭くなるかと思っていた。

 しかしあの男、ガウェル・ミカザル大佐が1年の間に軍を立て直す手はずを整えた事により、状況が変わった。


 大統領との交渉機会の用意、ハスト社とより多くの中小企業を連携させ、再び軍備増強を行うことが出来るようになった。


「あの男、優秀だが、しかし…………」

 総司令官には一つ引っかかることがあった。

 だが、今それを伝える気はない。現時点ではまだ、使える人材だ。


 グリフィアに代わる新たな機動兵器、ガルディオン。その優先配備先を考えなくてはならない。


 と、VRモニターが目の前に浮かび上がる。回線は秘匿。つまり、彼からの通信だ。

「……どうした?」

 [思わぬ形で新たなメンバーが加わりまして。後でデータを送ります。それと機動兵器を1機、あといくつかの予備パーツの手配をお願いしたいのですが]

「あまり派手な事は出来ない。グリフィアでいいかな?」

 [充分です。では、予定通り合流地点へ向かいます]

 通信が途切れる。

 総司令官は仮面の奥で、クツクツと笑った。





「これでよし」

「これでよし、じゃねえよ。絶対面倒になるぜこれから」

 スペクターの横にゼオンが腰掛ける。いつまでも文句を垂れる彼に、スペクターは肩をすくめる。

「何で一般人を巻き込んだ。下手すりゃ死ぬかもしれないんだぞ。それに……」

「どっちの心配もいらないよ」

「……へーへー、分かりましたよっ。あー、おっさん若者のノリについてけねえなぁ」

 わざとらしく喚いていると、ノルンが偶然通りかかった。眉間にシワをよせ、更には舌を出してゼオンの前から去っていく。

「…………悲しいなぁ。それはさておき、だ」

 ゼオンは頭を切り替え、話題を変える。


「グリモアールの目的がただのテロじゃねえのは今回の一件で確定だな。あの工場、確か新型機の部品製造を任されてた。んで半年前に奪われた6号機、アークリエルを使ってたって事は……」

「グリモアールはこっちの戦力を落とすだけじゃない。再起を狙ってるのか、或いは力を誇示してどちらかにつけ入ろうとしているのか」


「でもそれ、おかしくないか?」


 と、2人の話に割って入って来たウォーロック。その表情は真剣そのものだ。

「グリモアールはただでさえ2年前の戦争で大打撃を喰らってんだ。しかも軍備はグシオスに頼ってた。何処であんな軍事力を?」

「詳しいな。確かお前スラム暮らしじゃなかったのか?」

「グシオスの軍人がよく出入りしてたしな。それで、そこんところ、あんたはどう思ってんだ、スペクター」

 意見を聞かれたスペクターは俯いた。これが何を意味しているのか、仮面のせいでよく分からない。言い辛そうにしていると、ウォーロックは勝手に解釈する事にした。



「そうだね。多分グリモアールの後ろには何かがついてる。グシオスか、それとも…………」


 彼が顔を上げたその時、ウォーロックの眼にはあるものが見えた気がした。



「アルギネア…………かな?」


 虚無感に囚われた、スペクターの姿が。



 続く


次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「新たな同志」


新たな仲間、新たな力、新たな一歩。



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