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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第5章 終わらない宿命
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第2話(58話) 報復

 

 働いた後に食う飯は美味いということを知ったのは、ここでの生活が始まってからだ。

 それまでの、ゴミ箱の中から引っ張り出した残飯なんかとは比べるのも馬鹿馬鹿しい程のものだ。


「んんん!! 工場長の作るカレー美味しい!!」

 カレーを口いっぱいに頬張りながら足をばたつかせるノルンに対し、ウォーロックは不快そうな視線を向ける。

「チッ。うるせえ奴がいると折角の飯が台無しになるな」

「はぁっ!? それ私に言ってんの!?」

「うるせえ自覚があるなら黙って食え」


「まぁ2人とも落ち着けよ」

 いがみ合うウォーロックとノルンを仲裁したのは、桃色の髪をした色白の青年だった。

「痴話喧嘩は犬も食わない。ついでに言うと、俺も食わなくなる」

「いや、そういうのマジでやめてリムジー。美味しいカレー戻しちゃいそう」

「ほら、ベックを見てみろ」


 リムジーが指差したのは、見るからに体格の良い青年。栗色の髪に、三白眼の巨漢は、こんな状況でも黙々とカレーを食べ続けている。

「ベック、今何杯目だ?」

「……2杯目」

「いや、早すぎない? 私まだ食べ始めたくらいなんだけど」

「美味いから、箸が進む」

「使ってんのはスプーンだけどな」


 賑わいを見せる3人にウォーロックが呆れていると、無精髭を生やした男が豪快に笑った。

「すんません工場長、うるさい奴らで」

「いいぞいいぞ! 飯は楽しくなきゃな! それにまだ他の奴らは働いてるから気にすんな」

 工場長はウォーロックの肩をバンバンと叩く。そしてまだ半分ほどしか食べていないカレーに、更に追加される。

「どんどん食って、バリバリ働けばいい! こんな吹けば飛ぶようなちっちぇ工場にとって、お前ら若い奴らは大事だからなぁ!」

 ガハハと笑う工場長に、ウォーロックは苦笑いで返す。

 吹けば飛ぶような、と言ってはいるが、ここはアルギネア軍の管轄に置かれた立派な工場だ。


 そんな場所に必要とされている自分達が、ほんの少しだけ誇らしかった。



「はぁ、今日も働いたなぁ!」

 ノルンが大きく背伸びする。

 ウォーロック達は今日の分の仕事を終え、工場から少し離れた宿舎に向かっていた。

「働いた後ってよ、なんか、こう、良いよな! な!?」

「おう」

「んだよ、何でベックしか反応しねえんだよ!? おいウォーロック!」

「………………あ?」

「あ? じゃねえよ。お前上なんて見て、なんかあんのかよ?」

「別に」

 そう言いつつ、またウォーロックは上を見上げる。


 空では、月が輝いていた。


「…………月なんて見て楽しいか?」

「楽しくねえよ。楽しむものでもねえ」

「なら、何で見るの?」

「自然と目が惹かれるんだよ。何故かは分からないけどな」


 ウォーロックの発言に、3人はシンと黙り込む。ノルンとリムジーに至っては、眉を潜めている。

「……何だよ」

「いや、なんていうかさ…………」

「正直、気持ち悪い」

「お前ら死にたいのか」

 こめかみに血管を浮かべ、拳を握り締めたその時。


 何か重い駆動音が、遠くから響いてくる。


「なんか、音が……?」

「音? そう言えば……」

 ウォーロックにつられ、リムジーとベックも耳をすませる。

 しかし、ノルンにとってその音は記憶に刻み込まれた音だった。



「これって、機動兵器ーー」



 直後、轟音と同時に工場から火柱が噴き上がった。

 続け様に尾を引く何かが撃ち込まれ、更に火柱の数が増える。


「な、おいあれって!?」

「工場が……」

「そんな!! まだ中に工場長達がいるのに!!」


「あれは……!?」

 ウォーロックは何かが飛来した方向に目を向ける。

 そこにはライフルを携えた、巨大な人型の影が月明かりで映し出される。


「ゼファー……嘘、どうして…………」

「グ、グリモアールってことかよ…………何でこんな…………ってゼファー以外にも何か……!?」

「話は後だ。今はーー!?」

 ベックは工場に向かって走り出していくウォーロックの姿を見た。

「ウォーロック!!」




「目標、沈黙」

 純白に彩られた機動兵器に乗ったパイロットは淡々と告げた。

 腰部のスラスター、身の丈に迫るほどの盾とスピアーを装備した、守護天使の様に美しい姿だ。

「へ、何だ、楽勝だったな。機動兵器工場の癖に護衛の機動兵器もいやしねぇ」

「小規模な工場だからな。だが幼虫は潰しとかないと」

「全員私語は慎め。生き残りがいないか確認する」

 純白の機動兵器が指示を出すと、他の2機は燃える工場に向かって歩き出す。


「何だケイオスの野郎。てめえが乗ってるのがEAだからって調子に乗りやがって」

「うまくないぞ。さっさと終わらせてーーっ!?」


 と、何かがゼファーガノンに衝突する。見るとそれは、燃え盛る瓦礫だった。

「何だ?」

「あれは……」

 2人の前に立ち塞がっていたのは、所々に錆が浮かんだグリフィアだった。その手には製造途中の品か、歪な形の対艦刀が握られている。


「プ…………ハッハッハッハ!! 何だあのグリフィア! ガラクタみてぇじゃねえか!」

「フ……薄汚い旧式で戦うとはね」


「ぜってぇ許さねえ……!!」

 ウォーロックは対艦刀を構えて突撃する。がむしゃらに繰り出した突きはアッサリと躱され、頭部を殴られる。

「グァッ!!」

「おまけに素人かよ!! オモチャだぜオモチャ!」

 ゼファーガノンはスレッジハンマーを背部から取り出し、頭部へ振り下ろす。火花が散ると同時に頭が潰れ、更に追い打ちの蹴りで背を地面につける。


「クッソ!!」

 すぐさま立ち上がろうとするが、胴体を踏みつけられ、押さえつけられる。跳ね除けようとするがびくともしない。

「さぁってと、じゃ、死ね」


 ゼファーガノンは再びハンマーを振り上げる。グリフィアが必死にもがくのも虚しく、コクピット目掛けて振り下ろされようとした。

「こんな所で死ぬのかよ、俺は……!!」




「…………っ!? 2機に告げる! 正体不明の機体が上から来る! 一旦下がれ!!」


 ケイオスが気づいた時には遅かった。



 ゼファーガノンの頭部に分厚い大剣が突き刺さったかと思うと、コクピットを踏みつけられる。蜘蛛の巣状に亀裂が入り、液体が漏れ出る。


「…………何だ…………お前…………」

 ウォーロックはその正体を間近に見た。


 月明かりに照らされて輝くダークブルーの美しい装甲。猛禽の翼のように長大な背中のウイング、ヒールを履いた様な細い脚部。そしてV字型のアイガード。


 その姿はまるで、美しい戦姫だった。


 戦姫は屠った獲物から大剣を引き抜くと、刀身に付いた油と残骸を払う。


「な、何だ貴様っ!!」

 もう片方のゼファーガノンはクラスターライフルを構える。

 しかし謎の機動兵器は大剣を掲げ、凄まじい速度でゼファーガノンへ強襲。


 刹那、渾身の振り下ろしが襲い来る。


「ヒッ!?」

 情けなく倒れ込んだことが功を奏し、大剣はクラスターライフルを携えた腕のみを叩き斬った。

 だが間髪入れず、戦姫は大剣から手を離し、ゼファーガノンの頭部を左手で押さえつける。

 そして右腕から銀色のブレードが伸び、首筋に突き立てられた。

「や、やめろォォアアアアアアア!!」

 そのまま胴体を斬り裂かれ、血と油の混じった飛沫が降りかかる。


「何なんだ、お前…………」

 ウォーロックはただ、呻くことしか出来なかった。

 美しい姿に似合わない、鬼神のような戦い方に圧倒されて。



「…………何処の所属だ。何が目的だ?」

 ケイオスは蒼い機動兵器のパイロットに問う。通信は繋がっているが、パイロットの顔は識別出来ない。


「応えろ! アルギネアか!? グシオスか!?」


〔EAー0006 アークリエル〕

「何?」

 返ってきた低い声にケイオスは困惑する。

 何故自分が乗っている機体の名を知っているのか。


〔返してもらう。EAは大切なものなんだ〕


 蒼い機動兵器のアイガードが開き、中からツインアイが紅い光を放つ。



「ディスドレッド、お前の敵は何処だ?」

 唸る様な排熱音を発し、機動兵器(ディスドレッド)は答えた。



 目の前にいると。



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「スペクター」


その者は守護霊か、悪霊か。

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