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第1話 Cracked World 前編

 


  帝歴五十年


  広大な砂漠は、この時のみ戦場となった。

  空を駆け巡るのは鳥ではなく戦闘機。地を蹂躙するのは獣ではなく戦車。


  その最中を駆ける、巨大な黒鉄の巨人。

機動兵器(ムーブメント・アームド)


  両国の機動兵器は、流動する砂漠を踏みしめ、それぞれの敵と激突する。


  ある者はライフル、ある者は大型刀を持ちながら。


  己の信念と、国への忠義をぶつけて…。



  それをコクピットの中から眺めていた、一人の少女がいた。


  少女は思った。全ての散り際は美しいと誰が言ったのだろうかと。


  少女は笑った。機動兵器に乗り、爆散する味方を美しいなんて思えないと。


  少女は震えた。怖い、逃げたいと。


  だから 少女は首から下げた指輪を、握りしめる。恐怖する自身を、指輪の中へと押しやる。


「……約束、したからね」


  そう言う少女の顔は明るかった。

  そして、自身の機体と共に戦火の中へと歩を進めた。


  この戦いで流れた血を、砂漠の砂は優しく受け入れる。


  だが人間は、砂漠のように寛容ではない。


  その血を、人間は憎悪と怒りに変えて新たな血を流すのだ。

 


  〜第一次帝国戦争終結から十五年〜

 

  帝歴六十五年


  歴史の時間は退屈だ。


  ソウレン・ビャクヤは毎回思うのだ。


  理由など探せばきりがない。しかし一番の理由は


「ええ、このように帝歴二十七年に起きたコルセス砂漠における戦争は領土侵犯を犯したグシオスが原因となっていることが分かるだろう。以降、グシオスは我が国への挑発行動をエスカレートさせーーー」


  始まった。この教師は歴史上起きた戦争を全てグシオスの所為だと決めつけて話を進めるのだ。


  現在、政治はアルギネア、グシオスの二大国家が行っており、それ以外の小国はいずれかの傘下に入っている。現在の暦は「帝歴」であり、暦が変わってから六十五年の年月が経った。


  このような体制となった原因は、約七十年前に起こった「アクトニウムハザード」にある。突如地球各地に出現した水晶体、「アクトニウム」。高濃度の粒子となると、人体は愚か植物にすら有害となるそれにより人口は4割減少した。


  このことを重く見た世界諸国は国家を二つに統合。それにより生まれたのがアルギネアとグシオスだ。


  しかし時が流れた今では、協力し合うはずだった両国は互いに憎み合い、大戦が終わり、休戦条約を結ばれた今でも険悪な仲だ。


  ビャクヤは国会中継を見たりしているが、議員のほとんどは休戦条約の破棄を叫び、今に戦争が始まってもおかしくない状態だ。


  この街、アルギネアのフラムシティはそこまで大きな街ではないものの様々な会社や学校が建ち並び、アルギネアの中では重要な街である。


ビャクヤが通う高校、「フラム軍事育成第一高校」は軍学校の中でもトップクラスの業績を残している名門校である。しかしビャクヤは、自分から進んでこの学校に入学したわけではない。


だからだろうか。こんなにもやるせない気分なのは。


「お前たちもこの学校にいる以上、いずれは国を守るために軍に入ってもらう。グシオスが過去に行った残酷な…」


  と、教師は机に肘をつき上の空なビャクヤに目を向ける。


「おいソウレン!真面目に話をきいているのか!」

「は、はい!?すいません…」

「ったく、お前は座学も実技もまるでダメな奴だからな。なんで今まで留年しなかったのか……」

「何で今その話を…」

「何だ、何か言いたいならはっきり言ったらどうだ!」

「い、いや…その…」

「ふん」


  教師はブツブツと何か言っているが、ビャクヤにとってそんなことは問題ではない。


  クスクス、クスクスと教室のあちこちから溢れる嘲笑。周りを見ると、皆意地の悪い表情を顔に表していた。


  次の授業は射撃訓練。これから起こる出来事を想像し、ビャクヤは憂鬱な気分となった。



  今日は散々な日だった。あの授業の後、ビャクヤをクラスの嫌がらせが襲った。


  ゴム弾を腕に当てられ、ゴム弾を足に当てられ、ゴム弾を腹に当てられ、


「なんか、いつもゴム弾ぶつけられてるような気がする」


  嫌がらせの理由は分からない。否、理由などないのだろう。


  ビャクヤは目に見えるほどオドついた態度をしており、自分もそれは自覚している。嫌がらせをされても、それを突っぱねるような度胸が無いことも皆知っているのだ。だから、鬱憤のはけ口にされる。


「あぁ嫌だ嫌だ」

  ビャクヤは、バックの中から銀色に輝くチェーンを取り出す。それには、同じ銀色をした指輪があった。


  それを右手で握り締める。目を固く瞑り、嫌な記憶と一緒に弱い自分を押し込める。


  ビャクヤには幼い頃の記憶がない。両親の顔も、何処に住んでいたのかさえも覚えていない。


  ただ、この指輪を握り締めると揺らぐ自分を落ち着かせることができる。何故かは分からない。しかし、ビャクヤはこの指輪のおかげで今まで折れずに生き続けてこれたのだ。この指輪を遺してくれた人は知らない、否覚えていないだけかもしれないが、その人には感謝の気持ちしかない。どこかで、会えないものだろうか。


  と、ビャクヤの頭に冷たい滴が落下する。それは間を置かずに次々と降り注いで来た。


「あちゃぁ、降られたかぁ」

  バスが来るまでかなり時間がある。さてどうしたものかと途方に暮れた時だった。


  バチャバチャと水溜りを踏みつける音が聞こえたと思うと、何かがビャクヤの背中にぶつかった。不意をつかれたためにビャクヤはバランスを保てず時刻表に頭を打ちつけた。


「イテッ⁉︎」

  ただでさえ腕、腹、足と痣が出来ているというのに、これでは全身負傷(フルコンプリート)である。

  一体誰が、とビャクヤは振り返り、そのまま息を呑んだ。


  相手は少女だった。白いコートを着ており、下は制服のようなチェックのミニスカート、フードの脇から蒼味がかった銀髪が覗いている。顔はよく見えないが、年はビャクヤと同じくらいだろうか。


「……ゴメン」

「え、あ!あぁ、こ、こちら…こそ…」


  呆気に取られていたビャクヤの口調はしどろもどろ、おまけに悪くもないのに謝ってしまった。まずい、早くこの場を離れたい、という思考でいっぱいなビャクヤは咄嗟に少女と距離をとる。


「ま、まあさ、雨、えっと酷いから気をつけてね。そ、それじゃあ僕、行くね」

「…!待って!」

「え?ってうわぁ‼︎」


  少女はビャクヤとの距離を詰めると、その顔を両手で掴み、自身の顔の前までぐいっと引き寄せた。


  少女の顔に、ビャクヤは見惚れてしまった。まるで人形のように整った顔立ち、新雪のように白い肌、宝石のように潤むコバルトグリーンの瞳。


  それが今、吐息がかかるほど近くに迫っている。


  (これは……色々キツイ)

「……………」

「あ、あのさ、顔、近…」

「気の…せい…」

「へ?」


  少女は少し目を伏せたかと思うと、手をビャクヤの顔から離した。表情には見えなかったが、声の響きは消え入るように儚く、哀しげだった。


  そのまま踵を返すと、少女は雨の向こう側へと行ってしまった。


「気のせいって、どういうこと?」


  ビャクヤは雨に打たれ続けたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。まるで何かに化かされたかのように。


  バスに乗った後もその出来事が頭を離れず、バス停を二個ほど降り逃し、結果夜に帰宅することとなってしまった。




  ここはどこだ


  分からない 音も 感覚も 光も 何も


  見えない 聞こえない


  いや違う 何か 聞こえる


  囁くような 人の声 懐かしい 人の声



  なんて言っているのか 耳を傾ける


  がい わ こえ いて


  なんて言っているの?


  ねがい わ し こえを いて


  聞こえないよ お願い もっと




「ぐ、ああああああああぁぁぁぁ‼︎」


  ビャクヤは突然、頭を走る激痛に襲われて目を覚ました。まるで脳を焼けた鉄棒で掻き回されるような痛みに、ビャクヤはベッドから転げ落ちて尚、もがいた。


  だが、頭の中をまだ声は響き続ける。


  がい わ こえ いて

  がい わ こえ いて


「なんて…言ってるんだよ…ぐふぅ!」


  ねがい わ し こえを いて


「やめ…ろ、ハッキリ…と」


  ねがい わ し こえを いて


「ハッキリ…言えええぇぇぇ‼︎」



  その瞬間、プツリと声は途切れ、同時に頭の痛みは溶けるように消失した。


  時間を見ると時計の針は4時を示していた。もう一度寝るのにも中途半端な時間。


  しかしビャクヤは糸が切れた人形のようにその場に倒れ伏した。まるで何かに包まれて浮いている様な感覚の中、もう一度微睡(まどろ)みへと落ちていく。


  あの声の主は誰なんだろうか。自身の脳に問いかけるが、返答は深い眠りだった。






「艦長、フラムシティに派遣した先遣隊の報告です」


  眼鏡をかけた若い男は、艦の艦長席に踏ん反り返る髭面の男に報告書を手渡す。

「うむ、ご苦労」


  グシオスの陸艦、「バフォメット」の 艦長は受け取った報告書の文字を目で追っていく。最初は何ともない表情だったのだが、徐々にそれは失せていき、報告書から目を離した時には片眉を吊り上げていた。


「報告書によれば、例の兵器の在り処は未だ不明とあるが?」

「先ほどの定時連絡では、施設全てを調査終了したとのことでした。確認はできなかったと」

「そんなはずないだろう‼︎」


  艦長は報告書を宙へ放り投げて激昂する。

 船員は皆びくりと肩を震わせたが、そんなことはお構いなしに艦長は怒り狂う。


「かれこれ三日も調査しているんだぞ!本部によればあの街からは異常なアクトニウム反応が検出されている。早く見つけ出さねばアルギネアの連中に先を越されるというのに‼︎」

「地上で見つからないとなると…地下の可能性が高いですね」

「ぐ…そ、そうだな…」


 艦長の怒気にも全く気圧されない男にたじろぎつつ、その意見は艦長も同感だと感じていた。だが、地下となると地上よりも捜索が困難だということは艦内の全員が承知していた。


「…そうだ、この手だ!」

 その時、艦長は何かを思い付いたように立ち上がり、男に耳打ちする。男はそれを聞くと表情を歪め、静かに半歩離れた。


「本気、ですか?」

「あぁ、そうだとも。なに、心配は要らん。

 こちらにはアレがあるからなぁ」


 艦長は再び座ると、オペレーターへ指示を出した。

機動兵器(ムーブメントアームド)隊に通達。三時間後に作戦行動を開始する。全機、準備を始めておけ!作戦内容だがーーー」



 慌ただしくなった艦内でただ一人、男は眼鏡を外して呟いた。

「この…クズが…‼︎」






 ビャクヤの足取りは、フラフラとおぼつかなかった。


 昨日の夜は謎の悪夢によりベッドから転落し、朝起きると全身の痛みと引き換えに激しい頭痛に苛まれていた。おかげで朝食も、弁当すら作れなかったのだ。

「うぅ、頭割れそう。静かな朝で助か…」


「私たちが求めるべきは平和なのです‼︎」


「うぎぃ⁉︎」

 突然響き渡った音にビャクヤは倒れそうになってしまう。


 街頭演説だ。数十人の人々が集まり、休戦条約破棄反対を呼びかけている。内容は、グシオスと休戦条約ではなく停戦条約を結ぶこと、グシオスと共同で明るい未来を築こうというものだ。


 ビャクヤも言っていることは間違っていないと思っている。しかし、今のアルギネアとグシオスの関係を見ると、対話すら難しい状態だ。実際、演説をしている人々を見る通行人の目は軽蔑の色を含んでいる。現在のアルギネア人の考えでは、彼らは裏切り者同然なのだ。


 ビャクヤは溜息を吐くと、学校へ向かうために一歩踏み出した。


 その時だった。


 突如として地面が大きく揺れ、地を踏み割る音と同時に何かが降り立った。

「な……」


 その姿は、正に鋼鉄の巨人だった。

 大きくせり出した胸部装甲、ゴリラの様に太い腕部、人間の頭部に似たヘッドにゴーグル状のアイカメラ。

 間違いなくその姿は、


「ジェイガノン…グシオスの、機動兵器(ムーブメントアームド)⁉︎」


 恐怖に取り憑かれたビャクヤを尻目に、ジェイガノンは右手に携えたライフルをゆっくりと構えた。


 演説をしていた、人々へ。


「共に明るい未来だぁ?善人面するなよこのゴミどもがぁぁぁ‼︎‼︎」

 誰に言うでもない、パイロットの男の私怨が込められた言葉と凶弾が放たれた。


 ひび割れていた平和な世界は

 とうとう砕けてしまった。


 


 

 

お読みいただきありがとうございます。

今回のお話は前編です。

ですので、今話だけではわからない点もあると思いますが、是非ご意見、ご感想をお願いいたします。

意見、感想ですが、よろしければ「この点がこうだったからこうしてみたら?」と言って頂くと助かります。

それでは、また後編で。

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