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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第4章 あの日の約束へ
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第51話 叛逆の凶弾

 

 出撃シークエンスに入り、フブキは久しぶりの愛機のOSを起動させる。かつての形式番号とは違う、HF-HAFVではなく、EA-AN0002の番号が浮かび上がる。

 これであの紅い機体と同じ力で、対等な立場で戦うことが出来る。

「期待を裏切るような事だけはしないでよ……ヴォイドリベリオン」

 操縦桿を握ると、熱い感覚が伝わって来る。まるでヴォイドリベリオンも復讐に燃えてるかの様な錯覚に陥る。かつて自らを海に沈めた敵に怒るようにも感じる。

「いいねぇ。乗り気じゃん」



 その横では、もう1機のEAが立っている。サメの様に尖った頭部、ダークブルーに彩られた本体は、かつてのアルミラージの面影を残しつつも、所々にスパイク状の突起が追加されている。

 そして何より目を引くのは、腕に一対ずつ、計4本取り付けられた大型のパイルバンカーユニット。以前のものとは違い、通常のマニピュレーターに干渉していない形状だ。

「これが……私の……」

「気に入っていただけましたかぁ? アナザーナンバーの3号機、フィーアバエナ。貴女の新たな力ですよぉ」

「私の力……」

 エリーザはフィーアバエナのツインアイに目を向ける。

 いくらこれの性能が良かろうと、活かせなければ結局あの時と何も変わらない。


 すぐ隣に視線を移すと、コクピットに乗り込む憧れの人が目に入る。視線に気がついたのか、アレンの目がエリーザに向く。

 あの時自分に見せてくれた笑みを思い出し、胸が締め付けられる。


 今度はこそ、あの人の力になりたい。そしてもしそうなれたなら、この気持ちを打ち明ける。


 エリーザはアレンに微笑んだ。行ってきますの意味を込めた、明るい笑顔で。



「……エリーザ?」

「彼女、良い娘だな」

 コクピットに乗り込もうとすると、ハリッドが後ろから声をかける。

「確か彼女は君が助けたんだっけかな? だからかは知らないが、アレンによく懐いているじゃないか」

「エリーザは優秀な奴です。あんな所で死ぬべき人間じゃなかった。そう思っただけです」

「君にとって、かなりお似合いの女性だと思うな」

「……お似合い?」

「分からないならいい。忘れてくれ」

 若干呆れた様に首を振るハリッドに、アレンは疑問の表情を浮かべていた。



「ふふふ。彼が好かれる理由が分かった気がするな」

 ゲオルガイアスへ乗り込んだハリッドは写真を取り出し、思い出に耽る。


 そこに写っているのは、楽しげに笑うハリッドとスティア、そして無愛想な顔をしたアレン。

 何気ない日常の中で撮った、何気ない写真だ。


「彼は……私を義兄と認めてくれているのだろうか」

 [もちろんですよ]

 すると通信機から、愛する女性の声が聞こえてくる。

「スティア……何故機動兵器の通信機へ?」

 [少しだけブリッジの通信機を借りてるんです。誰にも聞けないようにしてありますから大丈夫。それで、話は戻りますが……アレンは人との距離の取り方があまり得意じゃないんです。でも心は、誰よりも優しい子です]

「それは私も分かる。……だからこそ、なのかな。もっと人を頼って欲しい。私は君と彼の力になりたいんだ」

 [ハリッド……]

「今は、中佐だ」

 ハリッドは通信機をコツンと弾く。それが伝わったように、スティアはクスリと笑った。

 [申し訳ございません、ハリッド中佐。……いってらっしゃいませ]

「あぁ、行ってくる」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ティノン姉、もう大丈夫?」

「大丈夫だ。久々にぐっすり眠れたからな」

 ティノンは小さくガッツポーズを見せ、ミーシャと笑い合う。そしてハイタッチ。

「いってらっしゃい。エース!」

 ティノンはミーシャに手を振ると、エグゼディエルの元へ駆け寄る。

 2日も戦場から離れてしまった。現在特務隊で戦えるのは自分とエルシディア、そしてウェルゼのみ。2人に負担をかけたぶん、取り戻さなくてはならない。


 とその時、丁度マーシフルが帰還する。風が巻き起こり、それが収まると同時にコクピットから蒼銀の髪がフワリと現れた。


「エル! お疲れ」

「ティノン? もういいの?」

「いつまでも寝てるわけにはいかないからな。今から出撃して来る」

「そう。行ってらっしゃい」

 エルシディアはすぐさま走り出そうとする素振りを見せる。


 エルシディアがどこに行っているのか、実はティノンは知っている。

 見るつもりはなかった。偶然だった。

 数日前、エグゼディエルの整備で休息している間の事だった。トレーニングルームで体を慣らしている時、その窓から走っているエルシディアの姿が見えた。何か急いでいる様子だったのが気になり、窓の隙間から彼女の行き先を目で追った。


 そしてエルシディアが、ビャクヤの部屋に消えたのを目撃した。



「……エル!」

「? どうしたの?」

 突如名を呼ばれたエルシディアは少し驚いた様に振り向いた。

「……ビ、ビャクヤ。あいつのこと、どう思ってる?」

「どう、思ってる?」

「よ、要するにだな、その……」

 聞けない。聞く勇気がない。


 ビャクヤの事が好きかなんて。


 何故なら聞いてしまえば、自分も答えなければならなくなる。それに、もしエルシディアが「好き」と答えたら。否、きっとそう答える。


「い、嫌なんでもない!」

 ティノンは逃げる様にコクピットに乗り込み、左胸を抑える。

 心臓がばくばくと鳴り響く。

「何でエルは……いや、でも……やっぱり、エルも私もビャクヤの事がーー」

 [ティノン中尉? 発進シークエンスの開始いいですか?]

「わぁぁぁっ!? わ、わぁぁぁっ!! い、いつから聞いてた!?」

 [え? え!?]

 慌てふためき取り乱すティノンとリンの動きはシンクロしていた。




 今迄隠れながら戦っていただけに、前線で戦うことに違和感を覚えていた。

 ギールアイゼン部隊が構えたシールドの影に隠れながらマシンガンを撃ち放つ。ジリ貧な戦い方だが、敵の前線が崩れていない今はこうする事が最善策だ。

「人手不足なのは分かるんだが……俺にもファンタズマにも重荷なんだよなぁ」


 現在のファンタズマはガーズユニットを全て取り外し、40mmマシンガン、4連装ロケットランチャー、対機動兵器ショットガン2丁に換装した完全戦闘仕様。ステルス装甲に対応した武装がない為に潜入任務はほぼ不可能だが、継戦能力は高くなっている。


「ちゃんとした戦闘なんて何年振りだ? ったく、感がまだ戻らないし」

 [まだ30にもならない奴が何を言っているのやら]

 と、通信機から男の声が聞こえてくる。発信元は背後で待機しているグリフィアからだ。

「1番隊の方々はお喋り禁止な。そもそもお前だって俺と同い年だろうが」

「この歳で隊長を任されたもの同士、いや、()同僚同士だな」

 ウェルゼの顔が一瞬苦しそうなものになる。しかしそれはすぐに乾いた笑いへと変わった。

「もうこの話はやめだ」

 ウェルゼは操縦桿を握り直し、ファンタズマをギールアイゼンより前に進ませる。

 弾丸が機体を掠めるが、それに怯まず4連装ロケットランチャーをジェイガノンへ発射。装甲の一部が焼き焦げるが、完全に機能停止はしていない。尚もマシンガンを放とうとする。

 そこに間髪入れずマシンガンを撃ち返し、物言わぬ鉄屑に変えるとすぐさま前進。ショットガン2丁に持ち直し、敵部隊の前に躍り出る。


「そらそらっ!! 敵さんのお出ましだぜグシオスの皆さん!!」

 ショットガンを撃ち放ち、ジェイガノンの頭部と胸部を破壊。こちらに向かってマシンガンを向けた別のジェイガノンにワイヤーを飛ばし、それを引き戻す勢いで急接近。装甲の隙間にショットガンを撃つ。


 ファンタズマに翻弄されている敵前線部隊の様子を見た第一部隊隊長はニヤリと笑った。

「相変わらずなんだな。……全員に通達、敵前線に攻撃を仕掛ける!」

 第一部隊隊長の号令がかかり、グリフィア指揮官機を筆頭に多数のグリフィアが流れ込む。

 乱戦となった戦場から、密かにファンタズマは抜け出していた。

「ここから奇襲して、掻き回してやろ……っと?」

 ファンタズマの広域レーダーが何かを捉える。

 熱源反応は4つ。しかしその内3つは該当するデータがない。すぐさま近しいデータを照合する。

 弾き出された照合結果を見たウェルゼは目を見開いた。


「EAだと!? しかも3機……まずい!!」


 スラスターを全開にし、反応がある位置へ向かいながら第一部隊へ通信を飛ばす。

「第一部隊!! やばい奴らが来る! 一旦そこを離れーー」

 直後、グリフィアの胴体が見えぬ何かに貫かれ、爆散した。

 そしてその直後、ファンタズマが手に持っていたショットガンが1丁破壊された。

「グッ!? 何処から狙撃してるんだ!?」

 ガーズがない今、あまり広範囲を索敵することは出来ない。目視出来ない距離にいるのか、それとも射程範囲にいるのか、それすらわからない。


 だが、脅威はそれだけではなかった。

 [ご機嫌如何かな?]

「その声はまさか!?」

 反射的にウェルゼはファンタズマの身を捻る。すると振り降ろされた一撃が4連装ロケットランチャーを掠めた。

 振り向いた勢いのまま4連装ロケットランチャーを全弾発射。そしてロケットランチャーをパージする。

「おいおい。何本気出して来てるんだよ今更……!」

 爆煙が晴れると、大剣を盾にしたゲオルガイアスの姿があった。剣を払って煙を払い、その切っ先をファンタズマへ向ける。

「あの時のリベンジマッチだ。幽霊さん」

「本当に気に食わねえな。その遊び半分の態度がよお!」

 ファンタズマはショットガンとマシンガンを持ち、ゲオルガイアスへ発砲しようとしたその時、


 音速で飛来した弾丸が、ゲオルガイアスの足元を数発穿った。


「……邪魔者が」

「ティノンか!?」


 電磁加速ライフルの遠距離モードを用いて、ティノンはゲオルガイアスへ標準を定める。

「次はコクピットをーー」

 [見つけたぁぁぁ!! 紅いEAぇぇ!!]

「っ!」

 突如通信機から絶叫が響いたかと思うと、空を裂く弾丸がエグゼディエルの頭部を掠めた。

 躱そうとエグゼディエルを、更に畳み掛けるように弾丸が殺到する。

「なっ!? 狙撃銃の連射力じゃない!?」

 舞うように回避するが、避けきれずに右肩の小型アサルトライフルを撃ち抜かれる。着弾のインパクトで態勢が崩れるが、すぐさま持ち直す。


「ちっ、次こそは……!」

 ヴォイドリベリオンは狙撃銃を中折れさせ、一気に排莢。その中に弾丸を一気に装填する。

 するとエグゼディエルの方から反撃の射撃が飛ぶ。

「ハッハ! いいよいいよ、殺しがいがあっていいよ!」

 フブキは笑うと、ヴォイドリベリオンのフロントスカート、サイドアーマー、リアスカートを展開。ホバーユニットが露出し、地面を滑るように移動する。


「今度こそ、私が勝つ!!」

 ヴォイドリベリオンの頭部カバーが2つに割れ、内部のオレンジのツインアイが獰猛に輝いた。



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「霊が哭いた日」


怨霊を突き動かすのは、過去の傷と、あの日の涙。

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