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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第3章 彼方の希望
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第47話 依り代

 

 真の姿を現したゼロエンドと、ネヴァーエンドが対面する。

 睨み合う2体は威嚇する様に蒸気を噴き出した。

「天翼……か」

 ゼロエンドの背中に広がる二対の群青色の翼を見て、アレンは歯噛みする。

 ネヴァーエンドはサブアームを用いてバックパックからクラスターライフル二丁を抜く。ショットガンユニットを取り除き、下部にブレードを取り付けたもの。


 先に動いたのはゼロエンド。

 上空へジャンプし、降下しながらライフルを連射する。ネヴァーエンドはそれを躱しつつ、クラスターライフルで撃ち返す。

 互いに数発程被弾するものの、アクトメタル装甲はその程度では傷も付かない。


 直後、ゼロエンドはストレナを突き出した。空を切って放たれた渾身の突きは、交差したクラスターライフルの銃剣に阻まれる。

 カウンターに振り下ろされたネヴァーエンドのクローを寸出の所でいなすと、ライフルを頭部目掛けて連射。しかしそれでも装甲にダメージは無い。

「コクピットを避けているな……何のつもりだ」

「君を殺す気はない!」

「散々兵士を殺して来た奴の言う事か!!」

 銃剣に左腕を斬りつけられ、ライフルを取り落としてしまう。

 しかしビャクヤは怯まずストレナを上段に斬り上げる。クラスターライフルの1つを弾き飛ばすと、飛び上がってそれをキャッチ。空中にいるゼロエンドを狙うネヴァーエンドに、ビャクヤはストレナを投擲する。アレンもそれを躱すが、残ったクラスターライフルが刺し貫かれた。


「俺もお前も、幾多の犠牲の上に立っている人間だ! どれだけ懺悔しようがもう償え切れない!」

「僕はただ出来ることをしたいんだ! 自分が何なのかは分からない。だけどーー」

「お前は……忘れているからそんな事を平気で言えるんだ。自分の正体が分からないなら、俺が教えてやる……!!」

 憎しみが込められた言葉が、ビャクヤに降りかかった。



「俺達は……アリアの依り代になる為に生まれた人間……そしてお前はバイオレストア手術に完全適合し、アリアの人格と記憶を植え付けられた、もう1人のアリアなんだよ!!」



「ーーっ!!?」

 突き付けられた事実。その瞬間、頭を激痛が襲う。


 まるで記憶が、氾濫した川の様に荒れ狂い、ビャクヤを呑み込もうとする。

「人格……記憶……!? もう1人の、アリア!?」

 左腕から、ブチブチと何かが裂ける音が鳴る。パイロットスーツに赤い染みが広がっていく。

「もう二度と天翼の光は発現させない!! それが俺の……依り代にすらなれなかった俺の使命だ!!」

 アレンは立ち尽くすゼロエンドに強襲をかける。


「天翼……光……光…………!! あぁぁぁぐぁぁぁぁああぁ!!!」


 ゼロエンドのアイレンズの紅がドス黒い深血色に染まり、涙の様に溢れ出す。


 キィィアァァァァァァッッ!!


 悲鳴の様な、断末魔の様な甲高い音がゼロエンドから発せられる。泣き叫ぶ様に天を仰ぐ。

 奪い取った銃剣を投げ打ち、右腕でネヴァーエンドへ殴りかかる。

 その時、ネヴァーエンドの鄂部が展開。赤熱した多数の口部ナイフがゼロエンドの右肩口に喰らい付いた。

 火花が弾け、ゼロエンドの装甲が溶け出していく。

 振り払おうとした瞬間、凄まじい衝撃と共にゼロエンドが後方へ吹き飛ばされた。


 ネヴァーエンドの口からは、煙と共に鉄杭が飛び出していた。


 しかし肩に大きな穴を開けたゼロエンドはすぐさま立ち上がる。

「まだ動けるか……」

「……アレン」

 通信機から聴こえたのはビャクヤの声ではなく、女性の声だった。

「その声はアリアか……とうとう引きずり出したぞ」

「私は私の約束を諦めるつもりはない。でも……これだけは言っておくよ」

 ゼロエンドはスラスターを全開にし、後方へ一気に跳躍する。


「ビャクヤも、貴方も、彼女達も……必ず助ける。その時は私も……」

「逃すかっ!!」

 アレンは地面に残ったストレナを引き抜き、飛び去っていくゼロエンドへ投げつける。

 だが槍は軌道を僅かにそれ、ゼロエンドを掠めただけだった。


「クッ!!」

 コンソールに拳を叩きつけ、絶句する。

 ここまでして仕留められなかった、自分が情けなかった。


 アレンの右腕から、涙の様に血が滴り落ちた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 澄み渡る透明な世界。

 目を開けたビャクヤの目の前に広がっていたのは、シミットの戦いの時に見えたあの世界だった。


 そしてあの時と同じく、白いワンピースを着た少女はそこにいた。


「アリア……!」

 ビャクヤは駆け寄り、彼女の肩を掴もうとする。しかしいつかの時と同じく、その手は見えない障壁に阻まれてしまう。

「アレンが言ったこと、本当なの?」

 アリアは答えない。俯いたまま、拳を握り締めて震えている。

 だがビャクヤには分かった。これが、無言の肯定であることが。


「依り代……つまり僕は、君を生き返らせる道具として生まれたってことなの?」

「違う!! 貴方の命は貴方のものよ!」

「じゃあそこまでして君が果たしたい約束って何なのさ!?」

「私はこんな形で約束を守りたかった訳じゃない!!」


 アリアは座り込み、顔を両手で覆う。指の隙間から透明な雫が零れ落ちる。

「私はビャクヤ達を巻き込んでまで生き返るつもりなんてなかった……私はゼロエンドに……」

「だから、その約束はーー」

 その時、空に亀裂が走る。

 やがてガラスが割れる様な耳障りな音を立て、粉々に割れる。それに連なり、風景が一変した。


 目の前に現れたのは荒れ果てた砂漠。常に砂嵐が吹き荒ぶ死の大地へと変貌した。周りには機動兵器の残骸が無数に転がっている。


「私の約束は……」

 砂嵐が一層強まり、遂にはアリアの姿を隠してしまう。

「待って! まだーー」

 意識が現実へ引き戻される最中、遠くなったアリアの声が告げた。



 ーー アンブロシア計画を、成し遂げる事 ーー



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 母艦に戻ったアレンは、機体から降りるとヘルメットを投げ捨てる。普段見ない荒れた様子に周りの兵士達がどよめく。

「いやぁぁぁ、すんばらすぃ!!」

 空気も読まず、トリックフェイスはアレンに駆け寄ってくる。


「初搭乗であれだけネヴァーエンドを乗りこなすなんてさっすがですねぇ! おまけに暴走したゼロエンドも退けるとは、期待以上ーー」



 言葉の続きは、突如降りかかった拳に遮られた。

「あひぃっ」という情けない声を発し、トリックフェイスは地面に叩きつけられる。

「黙ってろ」

 ただ一言吐き捨てると、アレンは去っていった。



「イッタいなぁもぉん……ま、遊びはさて置き……」

 アレンが去るのを見計らったように、歩いてくる人影があった。

 銀髪を纏め、顎の下を金属マスクの様なもので補強した少女。

「これは御機嫌よう、お嬢さん」

「……ちゃんと、仕上げたんだよね?」

「もちのろん。ネヴァーエンドの余剰パーツが結構出たのでね。特別に貴方達屍龍隊だけに回してあげましたよ」


 トリックフェイスはタブレット端末を少女へ差し出した。


 そこにあったのは、かつての少女の愛機を象った機動兵器だった。楕円形の頭部にツインアイは無く、体はかつてと同じ流線形。両腰には二対の細長い足の様なユニットが取り付けられている。


「フレームは新造形。装甲はゼファーガノンとアクトメタル装甲のハイブリッド。貴女の要望をふんだんに盛り込んだ、特注品でっす!!」

「ふーん……」

 興味はないと言わんばかりにトリックフェイスを無視し、少女はタブレット端末を見つめていた。

「んで、ロールアウトはいつ?」

「最終調整は終わりましたので、すぐにでも本国から送られて来ます。その間に貴女は身体に慣れておいたら如何でしょう?」

「慣れるも何も、戦いに使わないし」

 少女は顎の下を撫でる。冷たい感覚が生身の手に伝わって来る。今でも、あの時に感じた感覚を忘れていない。


 海に引きずり込まれる冷たさと、全身を焼かれる様な激痛を。


「今度は油断しない…………待ってろ、紅いEA」


 少女ーーフブキは、窓から戦場の空を見上げた。





「申し訳……ありません……」

「気にすることないわ」

 頭に包帯を巻いた状態でベッドに座るエリーザ。傍ではスティアがその頭を優しく撫でていた。


 アルミラージは中破、自身は怪我。こんな情けない自分が恥ずかしかった。


「少佐はよろしいのですか? 自分などに構っていては……」

「私は外交とか交渉の仕事が専門だから。……実はセノア社とか、兵器会社との交渉は私がしてるのよ」

「流石です。ハリッド中佐もよくお話されてます」

「ハリッドは……中佐は私とアレンが大好きだからね」

 するとスティアは懐から一枚の写真を取り出し、エリーザに見せる。

「これは?」

「小さい頃の私たち。これが私、この子がアレン。こっちの小さな女の子は私の妹」

「妹、さん?」

「今は……遠い所に住んでるの」

 そう話すスティアは笑ってこそいたが、その色は悲しみに染まっていた。

 写真を見ていたエリーザは、あるものに気がついた。

「……少佐、この男の子は?」

 黒髪で銀色の瞳の少年。

 それを見たスティアの指が、ピクリと震えた。

「この子はね……そう、友達」


 スティアは写真をしまうと、車椅子のストッパーを外した。

「それじゃあ。また様子を見に来るわ」

「は、はい。ありがとうございます」

 そのままスティアは病室を後にする。

 残されたエリーザは、スティアから見せてもらった写真を思い出す。


 まだ幼い頃のアレン、スティア、そして見知らぬ少年と少女の姿。

 スティアが3人を抱き締め、アレンは少し恥ずかしそうに笑い、少年は楽しそうに笑い、少女は戸惑った様な表情を浮かべて。


「……」

 何故なのだろうか。

 こんなに妬ましい気持ちになるのは。



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


第48話「償いの涙」


幾ら涙を流しても、大切な時間はもう戻らない。

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