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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第3章 彼方の希望
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第46話 永遠の罪

 

「私が思うにねぇ……」

 トリックフェイスは、出撃準備をしているアレンに付きまとい、ペラペラと語り始める。

「人間はどんなに綺麗事を言っても、やっぱり本能に生きる動物なんですよぉ」

「……」

「ただし、種類が分かれます。それは家畜タイプと野生タイプ。この意味、分かりますか?」

「さっぱりだ」

 アレンはそう切り捨てると、ヘルメットを片手に立ち上がった。


 いつも着ていたパイロットスーツよりも重苦しい。だが間接の部分にきちんと柔らかい素材を使っているのか、動き辛いという訳ではない。


「私が言う家畜タイプってのは、世間一般で言う富裕層のことではありません。外敵のいない環境で、何の不自由なく育ち、そして社会へ出荷される。ですがそれを恥じたり忌むことはお門違いで……って、ちょちょちょっと待ってくださいよ」

 訳の分からない演説を無視し、アレンは格納庫へと急ぐ。


 グリモアールの本拠地は陥落。戦況はアルギネアの方へ傾きつつある。

 既に出撃しているハリッドとエリーザも気になる。


「ですがねぇ、野生タイプは生まれも環境も劣悪だったとしても、その中でもがき、足掻いて、やがて家畜タイプと同じように社会へ発つ」

「お前は何が言いたいんだ。まるで自分が神のように語って」

 論点があやふやな話に苛立つアレンに対し、当のトリックフェイスはケラケラ笑った。

「神……そう、その言葉を聞きたかったんですよぉ〜」


 アレンは、新たな乗機の目の前に立った。

 見るだけでも忌々しいその姿に、アレンは拳を握り締める。

 アレンの記憶を蝕み、戦場で何度も相対した、巨大な騎士。


「私達研究者や開発者は、あらゆる技術や物質を作り上げてきた。アクトニウム……地球が生態系をリセットするために作り出した物質でさえ、自らの探究心や理想、利益の為に利用しました。……地球の意思すら糧にする私達は、最早神なのではないでしょうか?」

「驕るなよ、マッドサイエンティスト風情が」

 突き刺すような眼光で睨みつける。しかしトリックフェイスは怯む様子を見せない。それどころかヘルメットの中で一層甲高く笑って見せた。


「目の前にある君の機体は、君の心の形を表してあげたんですよ。君は野生タイプでも家畜タイプでもない。過酷な環境で育ち、そうでありながら生きる為に姉弟共々国に飼い慣らされている。そのうち君の心は、この機体のように禍々しい獣の形を取った」

 アレンは目を見開いたが、やがて漆黒の機体に乗り込んだ。


 システムを起動した瞬間浮かび上がった機体の名を、アレンとトリックフェイスは同時に呟いた。


『エヴォルヴアーマー、アナザーナンバー1……………………ネヴァーエンド』




「……」

 驚くように立ち尽くすゼロエンドを目の前に、アレンは複雑な表情を浮かべていた。

 憎むべき相手を討つ為に、憎むべき相手と同じ力を用いる。他人の事をとやかく言う資格はもう無くなった。


「……聞こえているか、ゼロエンドのパイロット。いや、ソウレン・ビャクヤ」

「っ!? その声、やっぱり、あの時の……!!」

 ビャクヤが思い出したのは、グリモアールで出会ったあの二人。自分とエルシディアの名に反応した人物だ。

「どうして、その機動兵器は!?」

「お前のゼロエンドの左腕からここまで作り上げる奴がいたんだ。……認めたくはないが」

「左腕から……!? だってコアは……いや、そんな事じゃない!!」

 ビャクヤは通信機に向かって叫ぶ。

 この機を逃したら、エルシディアの手がかりを手に入れるのは不可能になる。


「君は何者なんだ!? アリアの事も、エルシディアの事も、僕の事だって知っている!一体君は……」

「エルシディアは、俺の妹だ。そしてお前とアリアは俺達の敵」

「ぼやかさないでよ! 君はもっと知ってる筈だ。エルが何に苦しんでいるのか、過去に何があったのか……僕はエルを助けたいんだ!」

「助ける……か」

 アレンは静かな声を発した。しばらくの静寂。


 次の瞬間、ネヴァーエンドの両腕のクローが展開、滑るような動きでゼロエンドに斬りかかった。


「なっ!?」

 咄嗟に両腕の籠手で受け止める。凄まじい馬力で押さえつけられ、身動きが取れなくなる。

「分かったような口を聞くなっ!! エルシディアや姉さんが苦しんでる理由は他でもない、俺と、お前と、アリアの存在そのものなんだよっ!!!」

「どういう事さ!? 僕や、君までってーー」

 ゼロエンドは受け流すようにして押さえつけるネヴァーエンドを躱す。そのままストレナを前方に構え、スラスター全開で突撃。

 ネヴァーエンドはストレナの穂先をクローの刃と噛み合わせるようにしてこれを受け止めた。

「アリアがバイオレストアを生み出さなければ! 俺やお前がバイオレストアに完全適合していなければ、奴等をつけ上がらせることはなかった!」

「そんな!? まさか……ぐっ!」

 抉られるような頭痛がビャクヤを襲う。


 ーー ビャクヤ、私に代わって! このままだと…… ーー


「アリア……」

 頭痛は徐々に増していき、意識が沈みそうになる。

 しかしビャクヤは操縦桿を握り直すと、それを振り払った。

「アリア、今は僕にやらせて」

 ーー ダメ! 貴方は知らなくていい、エルの事は私が ーー

「そうやって誤魔化す気じゃないのか!? 知らなくていい事なんて、分かっていなきゃーー」

 気を逸らしたその時、コクピットが衝撃に揺れた。


 ネヴァーエンドのバックパックから展開されたサブアームが、ゼロエンドの首を絞め上げたのだ。

 サブアームはゼロエンドの腕によく似た形状で、メインアームのように強力な力。

 隙間からゼロエンドのフレームに食い込み、持ち上げていく。


 ーー ビャクヤ!! ーー

「いいから、アリアは黙って見てて……今は……!!」

 ネヴァーエンドは右腕を引くと、ゼロエンドの胴体目掛けて爪を突き出した。



「今は僕がやる!!」



 ビャクヤの叫びに呼応し、フェイスガードが砕け散った。


 ネヴァーエンドの胴体を蹴り、束縛から脱出。

 スラスターが空になったダーズィエンユニットをパージし、左手にライフル、右手にストレナを携える。

 そして、その背から群青を纏った翼が生えた。


「君を倒して……真実を聞かせてもらう!!」

 ゼロエンドが唸るように排気し、真紅の瞳を輝かせた。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 天使と悪魔の邂逅。

 蒼い十字架を背負ったマーシフルは、両手両足に剣を構え、アンドラスに強襲する。

「EAめ!! 仲間が殺されたことがそんなに憎いか!!」

 キーレイは掌からの機銃で牽制する。だがマーシフルは怯むことなくインファイトを仕掛ける。

「だったら貴様も送ってやる! 惨たらしい鉄屑にしてーー」

「うるさい」

 閃光のような剣閃が走る。


 対艦刀の斬撃は、アンドラスの左腕を斬り飛ばした。


「何だとぉっ!?」

 斬り落とされた左腕が地面に落ちるのをキーレイは目撃する。

「図に乗るなEA!!」

 すぐさま右腕のスピアを突く。しかし既にそこにはマーシフルはいなかった。


「な、私の反応をーー」

「いちいち」

 直後、振り降ろされたブレードが右腕を切断。千切れ飛んだケーブルとオイルが生々しく飛び散る。

「喋らないで。鬱陶しい」

「貴様ぁぁぁぁっっ!!」


 怒り狂った悪魔は咆哮を上げ、脚部のクローを展開、闇雲に突進してきた。

 しかしそれすら、脚部に対艦刀二振りを突き立てられ、失敗に終わる。


 最早アンドラスに、使える武装は残っていない。

「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁっ!?」

 キーレイが頭を振り乱している間に、マーシフルは腰部からナイフを引き抜く。

 そしてそれをアンドラスの頭部へ突き刺す。何度も、何度も、頭部が原型を留めなくなるまで。

 そしてそれが終わると、今度は肩口に脚部ブレードをねじ込み始めた。


「何故だ!? 何故殺さない!?」

「だって……仇討ちだから」

「…………は?」



「仇討ちなのに、楽に殺したら意味が無いじゃない。フフ、フフフ」



 無垢な声で笑う天使の声に、キーレイは戦慄した。

「この、外道がぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 脚部ブレードにより、肩口が抉り取られる。そのままアンドラスのウイングスラスターも切断。



 翼を失った悪魔は地球に引かれ、地上に叩きつけられた。




「ガ……グフ…………ぐ……!!」

 しかし辛うじてキーレイは生きていた。コクピットの中は凄惨な光景になっていたが、幸い急所は外れていたらしい。

「ハ、ハハ……なんて私は、幸運なんだ……大丈夫だ、生きていればチャンスはある……まずは救難信号を……!」


[そんなに甘くない]

「っ!!?」

 地面に横たわったアンドラスに、青い影が跨った。

 電光のようなアイラインが、無様な姿を嘲るように光を放つ。


「良かった。念のため死んでいるか確認したんだけど……回線が生きてるのに気づかなかった?」

 するとエルシディアはアンドラスに刺さった対艦刀を一振り抜く。

 それをコクピットに突きつけると、印をつけるようにコンコンと小突いた。


「や、やめろ……やめろ!!」

「貴方、何故殺さないって言ってたよね? 今、望み通りにしてあげるから」

 ゆっくりと、剣先をコクピットに向けたまま振り上げていく。


 恐怖心は、彼自身の理性を破壊した。

「やめろぉぉ!! 殺さないでくれ!! 私はまだ、まだ生きていたいんだ!! だから助けてくれぇぇぇぇぇっっっ!!!!」



「さようなら」




 振り降ろされた対艦刀はアンドラスのコクピットを刺し貫き、溢れんばかりのオイルと血を噴出する。

 その直後、アンドラスは爆発四散した。


「フフフ、フフ、アハハハ」

 身が捩れるような快楽と興奮。

 情けなく叫び散らし、その癖呆気なく死んだ。

 まるで、幼き日の自分を殺してやったみたいだ。



「フフフアハハハハハハハハ」

 笑いが止まらない。興奮が冷めぬままティノンへと通信を繋いだ。


[こちらティノ……!? 何、笑ってるんだ、エル……!?]

「たった今エレナを殺した機動兵器を破壊した。仇は討った。アハハハハハハハハ、アハハハハハハハハ」


 仇討ちという大義名分の元、己の破壊衝動を満たした。


 燃え盛る火炎に照らされた青い鎧。

 返り血に純潔を汚された戦乙女は、笑っていた。



 続く

悲報、アンドラスくん、天使にボコられる。


というわけで46話でした。インガオホーとはいえ、酷い……。やっぱり悪いことしちゃいけないね。


それでは皆さん、ありがとうございました!

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