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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第3章 彼方の希望
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第35話 不穏な始まり

 

 慌ただしくなり始める艦内を駆け抜け、マックスは自らの持ち場、艦長席に飛び込んだ。

「おお! 遅いぜ艦長!」

「艦はいつも渋滞気味だからな。で、状況は!?」

「入国手続きはしていると告げているんですけど、取り合ってくれなくて……」

 リンが必死にコールをした履歴がパネルに浮かんでいた。

 それにしても、何故突然こんなことをしたのか、何故グシオスが駐留しているのか。

 最悪の事態を誰もが予感し始めていた。


「とにかくもう一度取り合ってみます! 何とか敵意がないことだけでも……きゃあ!?」

 艦内が大きく揺れた。艦のセンサーが告げなくとも、敵の攻撃だと全員が理解する。

 最早、話すら聞いてくれないようだ。

「聞き分けのない奴らですねぇ……どうするんですか艦長?」

 クラウンはいつでも砲撃可能だということを知らせるように操縦桿を握っている。

 マックスは一瞬思考を巡らせると、決心したように指示を飛ばした。

「これより、本艦はこの地域を離脱する! 戦闘になることも考えられるため、各員準備はしておけ! ……あ、全員いることは確認しとけよ!!」




「ベレッタ! 出撃命令が出たって本当なの?」

 ビャクヤは騒がしくなる格納庫を駆け抜け、ベレッタの元へ辿り着いた。今はゼロエンドの担当はベレッタだということを知ったのは、ミーシャがむくれ顔で教えてくれたためだ。

 ベレッタはほとほと呆れたように手を振った。

「話も聞かずにすぐドンパチだ。奴ら、殴り合わなきゃ分からないのかね?」

「そんな熱血友情ドラマ、今時見ないよ」

「んなことよりほら、とっとと乗れ! 艦は海を進んでるらしいが、追っ手が来てるんだと! 出撃待った無しってな!!」

 急かされるままに、ビャクヤはコクピットへ飛び乗った。


「システムチェックは……あれ?」

 ビャクヤはゼロエンドを起動すると、あることに気がついた。

「ゼロエンド……ダーズィエン?」

「あぁ、強化したゼロエンドに新しくつけたんだよ。お前ろくに見てねえと思うから軽く説明するとーー」

「あぁー!? なまえ勝手につけたのね!!」

 通信機から思わず耳を外すほどの大声が轟いた。モニターを見ると、ベレッタに組みついているミーシャの姿があった。

「なまえは私がつけたかったのに〜!」

「うるせぇ、いいから自分の持ち場に行け!! ……あぁ、仕切り直すぞ」

 ベレッタはミーシャを体から引き剥がすと、改めて向き直った。

「今ゼロエンドのバックパックにはダーズィエンユニットっつう高機動ユニットを搭載している。元はマーシフルに積む予定だった奴だが、機動力は足りてたからゼロエンドに回してもらったんだ」

「あ、本当だ……出力が上がってる」

 見た目が一体どうなっているのか確認は出来なかったが、新たな武装も追加されているらしい。扱いなれていないのもありそうだったが、戦っていく中で慣れていくしかない。


「エル……大丈夫かな」

「あ? どうかしたか?」

「いや、何でもないよ。じゃあ僕はここで待機してるから、準備が出来たらコールお願い」

「あいよ!」


 改めてベレッタは、自身のコーディネートを確認する。


 頭部のバイザーは鷹の翼のように鋭いデザインになり、両腕には(こて)のような装甲を追加。腰と両腿に姿勢制御バーニアも追加されている。

 そして一際目を惹く、長大なウイングとホバーユニット、左右で合計8基にもなるバーニアユニットを搭載したダーズィエンバックパック。


「最高に決まってるぜ、ゼロエンド」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ティノンはスーツのファスナーをしっかり締めると、紅いフルフェイスヘルメットを手に取る。レーヴァス防衛戦以来の感触だが、この重みは忘れられない。

「行けるか、エル?」

 そこにはパイロットスーツのファスナーを締めないまま、ベンチに座り込んでいるエルシディアの姿があった。

「うん、大丈夫……」

 そうは言うものの、その表情は鬼気迫るものだった。ティノンはとある頼みを思い出す。


 ーー ティノン、エルの事、お願い出来る? ーー


 昔はいがみ合っていた仲だというのに、いつの間にそんな事を任せられるような間柄に見られたのだろうか。

 心の中でそんな事を思いつつ、放って置けない自分自身が不思議だった。

「エル、ファスナー締め忘れてるぞ」

 ティノンは開け放しのファスナーに手を伸ばし、それをゆっくり上げていく。


 が、ある地点でファスナーがピタリと止まった。

「……ん?」

 いくら押し上げようとしても、謎の力で押し戻されてしまう。

 何故だろうかとファスナーを確認した瞬間、ティノンは凍りついた。

「く……は……」

 黒いアンダースーツの上からも分かる豊満な胸が進行を止めていた。

 エルシディアは最初、どうしたのか分からない様子だったが、自分の胸元を見てとうとう気づいた。

「……ごめんなさい」

「謝るな!!」

 コンプレックスを抉られたティノンが苦痛の叫びを上げると、エルシディアの口元に安心したような笑みが浮かんだ。

「……がとう」



「お姉ちゃん、大丈夫?」

「そうだね〜……んっしょ、はい、ありがと〜、エリス」

 お揃いの黄色いパイロットスーツをキッチリと着用し、エレナとエリスは戦闘準備を整える。

 いつも通り、エレナの手伝いをエリスがして。

「やっぱりエリスがいないとダメだね〜、私」

「……本当に?」

「当たり前だよ〜。私にはエリスがいなきゃダメなんだから〜。さ、行こうか〜」

「……」


 この言葉が本当だと、素直に信じられない自分はおかしいのだろうか。

 信頼する姉の顔を見つめていると、どうしたの、といった顔で自分を見つめ返す。

 その表情に後ろめたさや嘘をついている色はない。

「お姉ちゃん、私……」

「ん?」

「い、いや、何でもない」

 エリスはそんな不安を胸にしまい込み、無理矢理はにかんで見せた。

 それを見て微笑み返したエレナと共に、最後になるやもしれない戦いへと赴こうとしていた。



 続く

短っ! 本編短っ!


というわけで35話でした。区切りのいいところで終わってみたら、あらビックリ、いつもの半分でした。

次回の戦闘パートはボリューム満点にしますのでお許しを。


それでは皆さん、ありがとうございました!

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