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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第2章 Pride of Ace
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第29話 消えぬ因果

 

「エグゼディエル……なのか!?」

 ウェルゼは自身の目では信じられず、識別コードを確認する。


 称号結果はエグゼディエルのコードと一致した。

「てことは……パイロットは奴か……?」

 喜ぶべきなのか、心配するべきなのか。

 ウェルゼには判断が出来なかった。



「おやおや、まだナイトが残っていたようだな」

 ハリッドは乾いた笑いを浮かべる。対してその目は全く笑っていなかった。

 ゲオルガイアスのバックパックのハッチが開口、ミサイルが射出される。

 それらは空中で弾け、さらに無数の小さなミサイルとなって大挙する。


 エグゼディエルはそれらの大半を両肩のマシンガンで叩き落とす。だが、それらを掻い潜った残党がエグゼディエルを撃ち墜とさんと肉薄する。


 ティノンはそっと、目を閉じた。

「大丈夫」


 直後、エグゼディエルはまるで力を抜いた様に自由落下。

 当然ミサイルもそれを追いかけ、エグゼディエルと共に地面へ落ちていく。


 しかし地面へ叩きつけられる直前に、バックパックから蒼白い炎が噴出。

 まるで空中でバウンドしたかの様にフワリと急上昇した。


「うわぁ、ありゃ凄え」

 ウェルゼが目の前の敵の存在を一瞬忘れてしまうほどのフライト。

 ミサイルはとうとうエグゼディエルを追えなくなり、次々と地面へ消えていく。


「曲芸飛行か。楽しむのは大いに結構!」

 ハリッドはスラスターを逆噴射。吹き飛ばされた大剣の元へ行き、重い音を響かせながら引き抜く。

「だが遊ぶ相手を間違えていないか!?」

 迫り来るエグゼディエルへ大剣の切っ先を向ける。



 両者がすれ違う。



 刹那の出来事の結果はすぐに現れた。



 ゲオルガイアスの炸裂装甲が爆音と共に崩れ落ち、貫通しなかったライフル弾が胴体に残る。

 エグゼディエルの左腕の装甲に亀裂が入り、破片をこぼす。


「っ!?」

 目に走る痛み。

 万全ではない状態で長時間戦うのは無茶と知ってはいたが。

「もう少しだけだ、もう少しだけ……」

 [おいティノ……ティノンだよな!?]

 無線機から聞こえる、懐かしい声。


「……はい」

 [おう……その声、また聞けて良かったよ]

「その話は後でお願いします。隊長、指示を」

 [えぇ……なんか悲しいわ]

 ウェルゼはがっくりと肩を落とした。

「そうだな……」

 敵の様子を見たウェルゼはあることに気づく。

 二機の機体の姿が確認できない。

「ならさーー」





「フフ、やるなぁ」

 弾丸を撃ち込まれた衝撃で額を切ったが、ハリッドは笑みを崩さなかった。

 [中佐、 港側から連絡が入りました。徐々に押し返されているそうです。これ以上の戦闘続行は危険かと]

「……時間をかけ過ぎたか」


 タイムオーバー。



 思わぬ邪魔が入ったこともあるが、それ以前に緑色のEAに時間を稼がれた。


 ここに来て、アルギネアの方へツキが回って来たようだ。


 [全軍に通達。これより現戦域を離脱する。被害が少ない部隊は退路を確保せよ!]

 艦長からの通達。

 引き時をわきまえなければ、無駄な被害が増えるのみ。今回の上司はそれを分かっている人間のようだ。

 口惜しいが、今は引かねばならない。

「フフ、悪運の強い男だ……デイレック・ハスト」



「撤退だと……!」

 レーダーに映った信号を見たアレンは唸る。こんな時に撤退など出来るはずがない。


 憎き相手が目の前にいるというのに。


 激しくぶつかった槍と剣。互いに身を削り合う音を立て、相手を喰らわんと欲している。

「今更現れるとはな……亡霊が」

「アレン聞いて! 私は……」

「貴様に貸す耳は無い」

 ゼロエンドとジオ・ギルファは反発しあうように後方へ飛び退く。


 どちらもスラスターで突っ込めば十分射程内。


「私は貴方と戦うつもりなんてない! 私はただ……」

「シミットで俺を殺す気でかかった後によくもそんな嘘を言えたな」

「それは貴方がグシオスにいるなんて知らなかったの! ましてや軍人だったなんて……」

「そうなったのも全部貴様のせいだ……」

 アリアの言葉は一切届かない。モニターにアレンの顔は映っていないが、おぞましいほどの憎悪が伝わってくる。


 こうなってしまったのも、自分のせい。


「でも私は貴方たちに償わなきゃいけない……一生かかったって消せない罪を、貴方たちに……」

「……」

 無線機から声は届かない。だが憎悪の念を感じなくなった。

「だから私はーー」

「ふざけるな!!」

 感じなくなった憎悪は、身を裂く様な殺気へと変貌した。

「償えると思っているのか!? 俺達の家族の運命を狂わせ、決して解けない呪いで縛った貴様に!」

「っ!?」

 アレンの言葉を聞いた瞬間、頭の中に流れ込んでくる悪夢(トラウマ)



 ーー広がっていく群青の風ーー


 ジオ・ギルファは動かないゼロエンドへ突貫。左肩へ刃を振り下ろした。


 ーー塗り替えられていく砂の大地ーー


 放心した様に動かないゼロエンド。耳障りな金属音が大きく響き、Z.Kが徐々に飲み込まれていく。


 ーー掻き消されていく悲鳴ーー



 そして、


 6つのコバルトグリーンの光の下に、三日月の様な切れ目が入る。

 ケタケタ笑いながら、それらはこう言った。



 ーーゼッ対にユルさナいーー


「私は…………」

 パリン、と頭の中でガラスの弾ける音。

 意識がプツリと途切れると同時に、


 ゼロエンドの左腕は千切れ飛んだ。


「これで終わりだ! 呪いを断ち切……っ!?」

「うああぁぁぁぁ!!」


 アリアの意識が消えた時、ビャクヤの意識が浮上。

 残された右腕でストレナを握りしめ、がむしゃらに振り抜いた。

「アリアァァァッ!!」

 アレンは血を吐かんばかりに叫び、Z.Kを振り抜いた。


 ゼロエンドは右足が切り裂かれ、

 ジオ・ギルファは頭部と左腕が切り裂かれ、



 爆炎を巻き上げた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 戦火は消えつつある。

 グシオスの戦艦の数は少なくなりつつあり、中には撤退を始めた艦も見える。


 だが未だ、激闘を繰り広げる機体の姿があった。

「撤退しなよ! もうあなた達の負けだって!」

 エレナの叫びと共にインプレナブルのガトリングが咆哮を上げる。左腕は使えなくなっているが、まだこちらは戦える。


 一方アルミラージは目立った損傷こそないが、エリーザの疲労が限界に来ていた。

「時間は稼いだ……ここまでね」

 今から水上の艦隊に回収してもらうのは不可能。市街地側を行くしか方法はないが、エネルギー残量的にかなりギリギリだ。

 下手な戦闘続行は危険。


 アルミラージは脚部のシリンダーを作動。高圧の蒸気が噴き出すと同時に天高く跳躍した。

「あ、逃げる! エリス、拡散榴弾込めて!」

「了解、拡散榴弾を装填!」

 インプレナブルの砲塔がアルミラージを捉えたその時だった。


 アルミラージのパイルバンカーがいつの間にか向けられていることに気づく。

「でも射程外だよ。構わず撃ってーー」

 しかしその予想は大きく外れることとなった。


 なんとパイルバンカーはランチャーを離れ、弾丸の様に発射されたのだ。


「そんな、お姉ちゃん!!」

「ちょ、それは反則だって!」

 エレナは急いでバックしようとするが、キャタピラが回転を上げた時には既に遅かった。

 撃ち出された杭はキャタピラユニットを直撃。小爆発を起こし、甲高い音と共にスパークが弾けた。

「くはっ、ウサギさんは!?」


 先程まで宙を舞っていた兎は、姿を消していた。エリスが申し訳なさそうに肩をすくめる。

「ごめんなさい、逃しちゃったみたい……」

「あちゃー、でも仕方ないか。エルの援護に行こ!」

「そうだね。……エルさん、応答お願いします」


 ノイズが走るのみ。エルシディアの声は二人の耳に入らない。


「エルさん? エルさん!?」

「……エリス、グリフォビュートに連絡して」

「え、でも」

「早く!」

「は、はい!」

 焦りを帯びた姉の声に、エリスは思わず敬語で応対した。




 口から流れる血が、パイロットスーツを赤く染め上げる。

「はぁ、はぁ……っけほ!」

 エルシディアの肺は折れた肋骨が深く喰い込み、呼吸するのがやっとの状態だ。

 ヴォイドオブザーバーが中々隙を見せないせいで、エルシディアの方が先にガタがきてしまった。

「使う……しか、ない」

 エルシディアはあるレバーへ手を伸ばす。

 マーシフルに備わっているシステム。



 それはゼロエンドの機構を模した、リミッタ

 ー解除機能。



 だがそれは機体とパイロット、双方の命を削る諸刃のシステム。今使えば、身体の至る所が潰れるのは明らか。

「……行くよ、マーシ……ゲホッゲホッ!!」

 操縦桿すら握れない。

 何故意識を保っていられるのか不思議なくらいだ。

 白昼夢を漂う感覚が次第に脳を支配していく。



「はぁ、はぁ、ふざけんなよ……!!」

 フブキの苛立ちは頂点に達していた。

 撤退命令、そしてヒラヒラと狙撃を躱す蒼い機体。

 喉を割って出そうな罵詈雑言を何とか飲み込み、スコープを覗く。


 蒼い機体は、空中で静止している。


「くたばれ」

 震える指でトリガーを引く。

 必殺の威力を持ったライフル弾は、マーシフルの胴体を寸分の狂いなく捉えていた。




 だが突然二機の間を、紅蓮の影が横切った。



 その影は左腕を振り上げ、エルシディアを庇う。ライフル弾は装甲を砕き、フレームに食い込んで止まった。


 その機体の面影を見た瞬間、エルシディアは全てを理解した。

「エグゼ、ディエル…………ティ、ノン」

 掠れた声でその名を呼ぶと、通信機はその名の主の声を届ける。

「エル、大丈夫か?」

「大丈夫……ではない、けど……」

「そうか、なら撤退してくれ。殿は私がやる」

「それは…………いや」

「?」

 エルシディアは精神力を絞り出し、操縦桿とレバーを握る。口元の血を拭う。


「貴女に……借りを残したくない」


 ティノンは一瞬驚いた顔をした後、やがて静かに笑った。


 何処か、嬉しそうに。


「そんなこと言ったら、私はみんなに大きな借りを作りっぱなしだな」



 するとエグゼディエルのコクピットから、マーシフルと同じようにレバーが現れる。


 目を走る激痛に耐えながら、その手をレバーに掛けた。



『リミッター、解除』


 〈Limiter cancellation〉



 二機に変化が生じた。胸部の装甲が開き、内部のアクトニウムコアが隙間から顔を覗かせる。

 腰部と脚部の装甲も開き、エグゼディエルにはスラスター、マーシフルにはブースターが出現。

 そして頭部のフェイスカバーが閉じ、エグゼディエルはモノアイ、マーシフルは雷光の一閃のようなアイレンズとなった。


「紅い……? 何で、何で……!?」

 事態を全く飲み込めず、フブキの心は揺れていた。仕留めたはずの紅い輝きが、目から離れない。


 マーシフルのブースターが点火、エックス型の焔が空間に焼き付き、凄まじい速度で迫る。

「あぁ、もう…………みんな死ねばいい」

 放心状態に近いフブキは、スコープに収めたマーシフルを撃ち抜こうとした。


 だが突如、その姿が消えた。


 次の瞬間、ヴォイドオブザーバーの頭部を対艦刀が刺し貫いた。


「あああああぁぁぁぁぁ!!! いい加減死ねよお前ぇ!!」

 ヴォイドオブザーバーはサブアームを振り回してマーシフルを追い払うと、上空のエグゼディエルへライフルを構えた。


 ティノンはエグゼディエルのライフルを、ゆっくり向ける。

 スコープは、覗いていない。


 静寂は訪れない。

 フブキが迷わずトリガーを引いたためだ。



「…………さよなら」

 ティノンはトリガーを引いた。


 発射された弾丸はヴォイドオブザーバーのライフル弾を掠め、その軌道を変えた。


「……嘘」

 フブキの言葉が終わると同時に、




 ヴォイドオブザーバーは腹部を撃ち抜かれ、爆散した。



 続く

リベンジ、果たしたぜよ


というわけで29話でした。今回で一応戦闘パート終了です。

補足ですが、最後にジオ・ギルファが斬ったのはカーボン筋肉です。装甲は切れんぜよ、アクトメタル製じゃきに。

それでは皆さ……え? ゼロエンドどうなったって? 最後、巻き気味だったんじゃねって?


………………。


それでは皆さん、ありがとうございました!

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