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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第2章 Pride of Ace
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第28話 Re . Flight

「ちっきしょ、まだ来ねえのかよ!」

 ウェルゼはレーダーを睨む。援軍を示す反応は、まだ来ない。

「これじゃあビャクヤがもたねぇ。ったく、遅刻で全員ボコボコにすんぞこのーー」


 瞬間、ファンタズマは振り返りざまにショットガンを二発発砲。

 忍び寄っていたヴァルダガノンは、胴を穴だらけにして倒れ込んだ。

「……こっちもあまり持ちそうにねぇ」




 飛び散るスパーク、焼ける装甲。

 シミットでの戦い以来、忘れもしなかった銀色のEA。


 ジオ・ギルファが突き出したZ.Kは、ゼロエンドが突き出したストレナの穂先とぶつかり合う。


「クッ、やっぱり僕だとこの機動兵器には……!」

 ストレナはリーチがある。ジオ・ギルファのサブアームの射程外にいるが、馬力がゼロエンドと互角の為に油断出来ない。

 自分とこのパイロットでは実力差がある。


 すると、通信機からノイズがかった音が聞こえた。ウェルゼからだと思い、ビャクヤは回線を開こうと手を伸ばす。

 だがその必要はなかった。


 [応答しろ、EAのパイロット]

「っ!? 誰だ……この人」


 聞いたことのない声。

 しかしその声を聞いた瞬間、頭に激痛が走った。

「ぐっ……あなたは……?」

 [今すぐ武装解除して、その機体を引き渡せ。それでこの作戦は終わる]

「まさか、目の前の機動兵器から……ぐ、ああぁぁぁ!!」


 頭痛に続き、左手の薬指を絞めつける様な痛みが襲う。

 骨が軋む。

 ビャクヤのお守りであった指輪からは、血が流れ出していた。




「どう、したの……? アリア、何が……」

 [アリア……? 何を言っている?]

「教えてよアリア、どうしたのさ……っ!?

 ああああああぁぁぁぁ!!」




 パリン

 ガラスが割れる音を最後に、ビャクヤの意識は闇に引きずり込まれた。





 突如ゼロエンドは槍を振り上げ、ジオ・ギルファは体勢を崩した。

 嫌な予感が頭をよぎり、アレンはジオ・ギルファを後ろへ大きく飛び退かせる。



 ゼロエンドが振り下ろした一撃が地面を砕いた。



 アレンは、あることを感じ取った。

「戦い方が変わった……」


 ゼロエンドは再びストレナを構え、突進。突き出された必殺の一撃を、ジオ・ギルファは闘牛士の様に躱す。

 そして腰のサブアームを展開。ストレナの柄を過ぎ去りざまに掴んだ。


 ゼロエンドは槍を取られまいとするが、その右肩にZ.Kが突き立てられる。

 アクトメタルの強固な装甲はそれを弾くものの、衝撃でストレナから手を離してしまった。


「今、返してやる」

 アレンは誰に言うでもなく呟き、奪い取ったストレナをゼロエンドへ突き刺そうとした。


 しかしゼロエンドは両肩のミサイルポッドをパージ。それらを機銃で撃ち抜く。

 残弾と内部機器に引火し、熱風が双方に襲いかかる。


 視界とレーダーを赤い風が覆う。

 その中から銀色の拳が突き破ってきた。


 アレンは動じない。ジオ・ギルファの厚い腕部装甲は、ゼロエンドの拳を受け止めた。

 装甲が悲鳴をあげる。頑強なアクトメタルが、ジオ・ギルファの腕部にめり込んでいく。


「聞こえなかったか? その機体を引き渡せと言っている」

「この子は渡さない。ビャクヤも、ゼロエンドも渡さない!」

「女の声……? さっきは確かに男だったはず……お前は一体……?」

「私は……私の名前は……」



「私の名前はアリア。覚えてる? アレン・クラウソラス」

「っ、何、だと!?」


 一瞬生じた隙。

 アリアはそこを見逃さず、ジオ・ギルファのサブアームへ手を伸ばす。


 関節を握り、強引に引き千切った。


 直後、それに気づいたアレンがゼロエンドの右腕を斬りつける。銀色の装甲が弾け飛び、黒いカーボン筋肉からフレームが覗く。


「何故だ……」

 アレンの声はいつもの無感情なそれと違った。



 煮え滾るマグマの様に、怒りがドロドロと言葉になって噴き出していた。



「何故生きている……アリア!?」




「はぁ、はぁ、こいつはきついぜ」

 肩で息をするウェルゼの顔には、汗が滲む。


 最早、市街地全体を防衛するなど無理な話だ。港側で戦力を持って行かれたのか、増援は一向に来る気配がない。


「仕方ねぇ、せめていけすかねぇ奴の本社(ねじろ)くらいは守らなきゃな」

 ファンタズマの背中から、充電を終えたガーズが再び飛び立った。


「行ってらっしゃい、いい仕事期待してるぜ」


 だが、その期待は刹那の内に裏切られる。

 突如、ガーズが空中で爆散したのだ。


「あぁっ!? 誰だ! こんなこと……」


 ウェルゼの目の前に、それをやった張本人がいた。


「本社はあそこか」

 ハリッドはファンタズマに視線を向けながら、意識はハスト本社へと向けていた。


「ちっ、またあんたかよ、面倒だな!」

 ウェルゼは、ショットガンをゲオルガイアスへ構える。

 だがその行く手をふさぐように、ジェイガノンが現れる。

「な、おい、邪魔だテメェら!!」


「ここは任せたよ」

 ゲオルガイアスはそのままハスト社の敷地を歩んでいく。地を鳴らしながら迫るその姿はまるで巨人。


 デイレック亡き後、EAのデータとハスト社を手に入れなければならない。

 面倒ごとは山積みなのだ。



「おい待て!!」

 ウェルゼが叫ぼうと、ハリッドの耳に入ることはなかった。




「さて、デイレック・ハスト」

 ハリッドはコクピット越しに語りかける。



 本社のテラスから、こちらを睨むデイレックへ。



「ゲームクリアだ」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ボードゲームでも、スポーツの試合でも、接った戦いの方が盛り上がる。


 例え、負け試合だろうと。



「社長! 危険です、早く避難を!!」



 外で部下が叫ぶ聞こえたが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。



 この試合(ゲーム)、グシオスの勝利だ。



「さぁ、私を殺してみせろ!! それでお前達の勝利だ!」

 声高々に叫んだデイレックの顔は、笑っていた。



「何と哀れな……」

 ハリッドはその様子を見て苦笑する。

 この男は、チェスのキングでも気取っているのだろうか。


 この街の惨状。

 王は民を守る責務がある。だからこそ、この男は王ではない。

 街を守るためにはあの要求を呑むべきだった。

 だが、彼にはその発想すらなかっただろう。



 正に周りも自分も見えていない、裸の王。



「だがフィナーレくらいは派手に演出してあげよう」

 ゲオルガイアスの背中から、分厚い鉄板の様な大剣が引き抜かれる。



 裸の王には勿体無い演出。



 デイレックの顔に恐怖の色は無い。

 否、彼はむしろ清々しかった。このままあの鉄塊にこの身を粉々にされようと、決して惨めとは思わない。


「だってそうだろうイリシア? 私の死はお前より誇り高いもののはずだ! 戦いの駒として死んだお前とは違う、私は戦いの支配者として……死ぬのだ!!」



「……狂人の考えだな。吐き気がする」


 ハリッドは仰々しく口に手を当てる。

 振り上げられた大剣が、ゆっくりと重力に引かれる。

「望み通り、譽れのある死を」




 形容しがたい音が響く。

 それは大剣が弾き飛ばされ、遥か後方に落下したものだった。


「…………」

 ハリッドは一瞬それに気を取られたが、すぐに音がした方向へ盾を構える。


 するとまたしても見えない衝撃が立て続けにゲオルガイアスを襲う。

 城壁の様な盾に無数の弾痕が刻まれ、その巨体を後ろへ押し返していく。

「……ほう、これは」



「…………!?」

 デイレックは空を見上げ、そして目を見開いた。



 太陽に重なる、紅蓮の機体の影。


 蒼く輝くツインアイ、両肩に取り付けられた小型のマシンガン。

 緋色の機体に走る、眩い金色のライン。


 その手に握られているのは、電磁加速砲だった。




「戻って…………来た」



 緋色の髪の少女ーーティノンは一言発し、



 紅蓮の緋鷹(エグゼディエル)は大きく、炎の翼を広げた。



 続く

ティノン 「待たせたな!」


というわけで28話でした。今回は短めです。さて、二章もそろそろフィナーレです。

戦闘パートは後1、2話くらいかな? 長々と申し訳ないでありんす。


それでは皆さん、ありがとうございました!

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