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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第2章 Pride of Ace
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第27話 突き動かす衝動

 未だ格納庫にまで被害が及んでいないのは、敵を抑えてくれている証拠だ。


 しかし、伝えられてくる撃墜報告の数を聞く限り、戦況が良いということは決してない。



 そしてその中、もう一つの問題が生じていた。


「おい誰だ!? 勝手にマーシフルを持ち出した馬鹿たれはぁ!?」

 ガロットの憤慨した声が爆音に負けじと響き渡る。

 マーシフルがあった場所には、天井に斬り裂かれた跡があるのみ。整備橋で倒れていたベレッタは気絶しており、事情も聞けない。


 調整不足の機体では何が起きても不思議ではない。誰かは分からないが、一刻も早く止めさせなければ。



「ガロットさん、緊急連絡です」

「あぁん!? 今忙しいんだ、無視しろ!!まったく、誰だこんな時に……」

「いや、それがですね……」

 駆け寄ってきた整備員は気まずそうに続けた。



「はぁ? 何だと!?」

「ど、どうしますか? やはり断った方が……」


 ガロットは考え込む。

 いや、本来なら考えるまでもない事だ。しかしガロットには、一蹴する事は出来なかった。


「…………まったくよぉ、年寄りの寿命を縮めるような奴ばっかだな」



 瞳には、緋色に輝く機体が映り込んでいた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「カイエン、状況はどうだ!?」

「かなり押し込まれています。数は減っているんですが……」


 グリフォビュートは現在、港の格納エリアからの援護に徹していた。前線に出れば砲撃に晒されるという、アイズマンの考えを参考にしたためだ。


「レーヴァス第3部隊、通信ロスト!」

「おいおいおいおい、まずいってこりゃあ!!」

 リンとビリーの言葉を聞いてなお、マックスの顔に焦りの色は無かった。何かを考えている、いつもの表情のままだ。

「なぁ、アイズマン」

「何でしょう?」

「グリフォビュートは水陸両用艦だったよな?」

「えぇ、確かにそうですが……まさか」

 アイズマンの額に汗が浮かぶ。

 マックスのその眼には、ワクワクしているような色が見えたためだ。


「グリフォビュートは輸送艦じゃないんだ。引きこもってちゃあ戦況は変わらんだろ!」

「本気で言ってるんですか艦長!?」

 砲手のクラウンが引きつった顔で問うと、マックスはニヤリと笑った。



「やってやろう、私達だって彼らに恥じない戦いをしなきゃならん!!」


 やれやれと言わんばかりに首を振るアイズマン。他のメンバーも、何処か諦め気味に苦笑していた。

「…………仕方ないですね。これより本艦は敵艦隊へ向けて進行する! 総員、仕掛けるぞ!!」






「お姉ちゃん、グリフォビュートの方から通信。敵艦隊に進行して攻撃を仕掛けるって……」

「うぇ〜マジで? 無茶するなぁ……」

 エレナは嘆息する。

 グリフォビュートのしんがりを務めようにも、インプレナブルでは役者不足だ。海に浮かぶ艦隊が相手では固定砲台同然。


「エル、グリフォビュートの直掩についてくれる? インプレナブルじゃあキツイかも」

[……了解]

「ごめんね〜。……嫌な顔一つしない所、私好きだよ」


 モニターからエルシディアの顔が消えた後、独り言のようにエレナは呟く。



 最初の頃は真意が掴めず、何処か不気味だったのだが。



「お姉ちゃん! 港の格納庫に敵が!」

「え、うぁぁ、ヤバイ!!」

 見るとそこには、格納庫に向けてバズーカを構えるヴァルダガノンの陰があった。


 インプレナブルは上半身を起こし、両腕を展開、EA形態へと変形。

 シミット防衛戦の時とは違い、その両腕はガトリング砲に換装されていた。


 インプレナブルのキャタピラが唸りを上げて回転。まるで暴れ牛のように猛進する。

「エリス、シートベルト締めてるよね!?」

「ま、待ってお姉ちゃん、ちょっと待って、まさか!!」

「突貫じゃあぁぁぁぁ!!」

「きゃあああああぁぁ!!?」

 エレナの雄叫び、そしてエリスの悲鳴と共に、インプレナブルの体当たりがヴァルダガノンに直撃。


 装甲の厚いジェイガノンならいざ知らず、細身のヴァルダガノンでは、この超重量の体当たりを受け止められなかった。


 グシャリと胴体が潰れ、吹き飛ばされた機体は海へと転落した。


「も、もう、お姉ちゃんの馬鹿!!」

「ドヤァ!! ざっとこんなも……」

 だがそのインプレナブルを爆風が襲った。

「ひゃ……!?」

「うわっ!?」

 ガクン、と揺れるコクピット。金色の装甲には、黒い痕がこびりついていた。



「あの蒼い奴は取り逃がしたけど……まぁアレは彼女に任せるとして」



 赤く光るゴーグルアイが、インプレナブルを捉えている。

「あの戦車もどきは、ここで始末しないとね」

 エリーザは発した言葉を実行するように、パイルバンカーのトリガーを引いた。


 だがエレナの咄嗟の判断により、インプレナブルをバックさせて直撃を回避。胸部がゴッソリ削られたが、致命傷は免れた。


「どうしようアイツ…………。エリス、スモーク散布して!」


 インプレナブルの各部の装甲に隙間が出来ると、そこから煙が一気に噴き出した。みるみる内に、視界を濃い煙に塞がれてしまう。


「面倒な……」

 エリーザは舌打ちすると、アルミラージの脚部シリンダーを作動。地面に亀裂が走り、その巨体を空中へ押し上げる。


 予想通りだ。

 機体から出た煙は、濃い分密度が高い為、上へと上昇しない。

 上からはその目立つ機体色がよく見える。

「パイルはリロード中だけど、何とかなるわね」

 エリーザは左腕のランチャーを構え、先ほど抉り取った胸部付近を狙う。そこを潰せば、いくら重装甲を持っていようと関係ない。



 しかし、予想もしない事が起きた。


 煙の中を突き破り、黒い砲塔が姿を見せたのだ。

「なっ!?」



「炸裂弾、装填! 近接信管に設定、敵機ロックオン…………ファイア!!」

 高らかに上がったエリスの号令に合わせ、インプレナブルの砲身が火を吹いた。

「くっ、うあぁっ!?」

 左腕のランチャーで機体を庇うも大きく体勢を崩し、地面に叩きつけられる。

「何て……無茶苦茶な……はっ!?」

 しかし、インプレナブルの攻撃は終わらない。そのままアルミラージを轢き潰そうと猛突してきたのだ。


「これで終わりだよウサギさ……っ!?」


 エレナが勝利宣言したその時、倒れていたアルミラージからパイルバンカーが突き出してきた。



 胴体を狙ったそれは、不安定な姿勢のせいでインプレナブルの左肩を穿った。

 キャタピラがストップする。しかしインプレナブルの左腕は吹き飛ばされることなく、未だ健在。



「さっすがインプレナブル……でも……」

「…………この人、強い」

 姉妹は顔も知らぬパイロットに、悪寒を抱いた。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「主砲、撃てぇい!!」

 マックスの号令と共に、グリフォビュートの主砲が発射。

 放たれた砲弾はグシオスの輸送艦の横っ腹に命中。黒煙を上げる。


「輸送艦が多いおかげか、意外と善戦できている気がします」

「ほんっと、豆鉄砲みてぇな機銃しか撃ってこねぇしよぉ」

 クラウンの言葉に便乗するように、ビリーも表情を緩める。

 現状、クラウンの言う通り抵抗が少ない。輸送艦だからと言えば、それまでなのだが。


「おかしいですね。機動兵器をこちらに差し向けませんし……」

「単にこっちに回す兵力が無い……か? 分からん」

 マックスとアイズマンは腑に落ちない。敵の作戦ミスか。それならばむしろ幸運なのだが。



「まぁ、今はこのまま維持か。リン、エルシディア少尉に連絡してくれ」

「了解しました。エルシディア少尉…………エルシディア少尉?」

[……敵機発見、前線に出ます]

「え!? あの、少尉!?」

 リンが慌てている間に通信は切れてしまう。


「…………機動兵器なんていなくねえか? カイエン、どうよ?」

 それを聞いたカイエンはレーダーを確認したが、反応は輸送艦のみ。

「いえ、特にはな……」


 ガギャアン!!


 直後、何かが破砕する音と共に船体が大きく揺れる。

「ど、どうした!?」

「うぅ……しゅ、主砲一門大破! 何処からか狙撃されたようです!」

「長距離狙撃……まさか!?」

 マックスはすぐに思い立った。



 ティノンの眼を奪った、あの機動兵器だと。




「ちっ、腰巾着女、遅ぇんだよ……」

 フブキはヴォイドオブザーバーのライフルをコッキング。重い排莢音と共に空弾薬が落ちる。

 見れば、味方の数も敵の数も少ない。ほとんど消耗戦だ。


 こんな終わり際に出撃させたエリーザが憎たらしい。



「だけど、今回は許してあげるよ。最後にとびっきりのご馳走を用意してくれたんだし!!」

 再度ライフルを構え直し、サイトの中に獲物を捉える。


 発射と同時に撃鉄が撃ち鳴らす音が耳に響く。どんなハードロックよりも耳に来る重い音。


 弾丸はグリフォビュートの主砲をまた一つ破壊した。

「キッヒヒヒヒ、次は艦橋だよ〜。さっさと逃げたほうが…………あ?」

 ふと、空に煌めく光が目に入る。尾を引く流星のようなそれは、真っ直ぐこちらへ向かって来た。


「狙撃手を発見。これより撃破します」

 機械音声のような声の温度。それはマーシフルが抜き放った対艦刀のように冷たかった。


 だがマーシフルの腕を、バックパックマニピュレーターが挟み込む。対艦刀はヴォイドオブザーバーには届かなかった。

「今度は青い鳥か……あの赤い鳥のお友達?キャハッ!」

[……趣味の悪い笑い方]

「は? 何この声、誰…………あ、ヤバ」

 どうやらいつの間にかオープン回線になっていたらしい。これではだだ漏れだ。


「まあ、いいよね!!」

 ヴォイドオブザーバーはサブアームの力を強くしていく。

「これなら直接悲鳴が聞こえるってことだしさっ!」

「…………」

 だがそのまま突っ立っているはずがない。マーシフルが脚を大きく振り上げると、足底から鋭いサーベルが突出。

 サブアームを切り捨てると、胴体へ蹴り込む。

「ナメんなコラァァァァッ!!」

 フブキの叫びと同時に、ヴォイドオブザーバーは体を捻って直撃を回避。

 空振りの隙をついて、マーシフルの頭部をライフルで殴りつけた。

「うく……!!」

 衝撃で頭がぐらついた。目の前が揺れる。


「くたばれ!!」

 ヴォイドオブザーバーはライフルを突きつける。

「……っ」

 しかしマーシフルは右腕装甲からナイフを射出。ライフルを支える左肩に咬みつく。


 照準がずれた一射は、マーシフルの脇腹を掠めただけだった。


 マーシフルはその隙に変形。水を跳ね上げ、再び天高く舞い上がった。


「クソがっ! 手こずらせやがって!」

 フブキは少女らしからぬ、歪みきった顔で睨む。



 気に入らない。気に入らない。気に入らない。自分の思い通りにいかないなんて。



「お前も赤い奴と一緒にしてやるよぉ! キャッハハハハハ!!」



「………………殺す」

 エルシディアは少女らしからぬ、熱のない瞳で見つめた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 真っ白な病室の中では、その出で立ちがよく目立つ。


 無音の病室の中では、しっかり踏み出す足音がよく響く。



「……君も分かっているとは思うが、本来はまだ戦える状態じゃない。これだけは言わせてもらうよ。私も一応医者なんでね」

 白髪の混じった男が自虐のように笑う。普段の自分の所業を知っていればこそだ。

「地下通路を使うから途中で爆死するこたぁないだろう。では行ってらっしゃい」




「…………あぁ」

 彼女は微笑む。



「世界が、見える……」



 続く

またしても主人公、出番無し!!


というわけで27話でした。

皆さんはどちらが怖いですかね。エルシディアの様に静かに「殺す」と言われるか。はたまたフブキの様に口汚く罵られるか。


あ、人によってはむしろ気持ちい(ry


それでは皆さん、ありがとうございました!

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