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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第2章 Pride of Ace
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第26話 天を駆る隼

「港の部隊は上手く引きつけてくれているようだな」



 市街地前、ハリッド率いる別動隊は侵攻を開始していた。


 読み通りほとんどの部隊は港に集結しており、おかげで呆気なく防衛線を突破。


 [ここまで来ると、逆に不安ですね]

「あぁ、まだ何かあるかもしれない。索敵は怠るな」

 [了解]


 進軍を開始した数機を、ハリッドは見送る。

 と、その中に紛れていたアレンのジオ・ギルファに目を留めた。

「アレン、君は行くな。何があるかまだ分からんからな」

「……全くこの人は」

 スティアのこともあるのだろうが、過保護が過ぎる。いい加減にして欲しいとまで思ってきた。

「静かすぎるんだ。何か違和感を感じる。下手に先行しすぎると……」


 ズガァァァァアン


 鼓膜を叩く爆音と共に、前方から黒煙が上がる。

 [中佐! 先行した一機が大破! 砲撃もないのに何故……!?]

「……こうなるってことだ」

 ハリッドは苦笑した。




「……うし、一機撃破」

 建物の影に、ファンタズマの姿があった。

 その背にある円板状の特殊工作兵器、「ガーズ」を用いて街の各所にトラップを仕掛けていたのだが、上手くいったようだ。


「とはいえ、あの数を一人じゃなぁ……」


 ウェルゼは嘆息する。残念なことに、ファンタズマ単騎の戦闘力は決して高くない。

 増援が来るまで、ちまちまと片付ける他ないのだ。

「こんな時ティノンが……っていけねえ」


 ティノンに頼りっぱなしではいけない。

 彼女がいない今、彼女の帰る場所を守らねばならない。

 この危機でこそ、隊長である自分が踏ん張らねばならないのだ。

「例え実家があれでも、特務隊(ここ)くらいは俺が守っといてやる」


 いつでも帰れる場所を。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「一か八かだ!」


 囲まれた状況下、ビャクヤは覚悟を決めた。


 両肩のミサイルをアルミラージへ向けて発射。

「くっ、悪足掻きをしたって……なっ!?」

 ミサイルに気を取られた一瞬だった。ゼロエンドは跳ね起き、アルミラージへ手を伸ばしてきたのだ。


 アルミラージは咄嗟にパイルバンカーを射出、続けて周りのヴァルダガノンもマシンガンを撃ち放つ。


 だがパイルバンカーはゼロエンドの右ヒートライフルを撃ち抜いただけだ。

 ゼロエンドはアルミラージの頭をつかみ、それを軸にして前方に我が身を投げた。


「よし、上手くいった!!」

 包囲網を脱した。

「抜けられたっ!? だけど!」

 エリーザはすぐさま反転、左腕のミサイルランチャーを構える。

「牽制している間に回り込め!」

 エリーザの指示に従い、ヴァルダガノンがゼロエンドに迫る。


 ゼロエンドの肩から機銃が火を吹く。しかしヴァルダガノンは止まることはない。

「どうする……どうする!?」

 焦りがビャクヤに襲いかかる。冷静な思考にストップがかかり、判断が追いつかなくなった。


 小型ミサイルがゼロエンドの頭部を直撃。フェイスガードにヒビが入り、大きく仰け反る。


 その隙を逃さず、ヴァルダガノンがヒートアックスを振りかざした。

「しまっ……!?」




 ズシャッ


 金属が裂ける、不快な音。

 だがそれは、ゼロエンドが発したものではなかった。



「あ……れは……?」



 ヴァルダガノンのコクピットに刃を突き立てる、蒼色の機体がそこにあった。

 流麗ながらも刺々しいシルエット、ホワイトのツインアイ、腰のサイドスカートアーマーから覗くバーニア。背には雄々しくも美しい4枚のウイング。


 まるでその出で立ちは、戦乙女(ヴァルキリー)の様だった。



「4号機!?」

 ビャクヤは驚愕の声を発する。ベレッタからは、まだ各所の調整が終わっていないと聞いていた。

 だとしたら、一体誰が乗っているのだろうか。



「また新型か! 次から次へと厄介なものを!!」

 エリーザはしばし呆気にとられていたが、やっかみを払うように頭を振るとアルミラージのミサイルを発射する。


 しかし蒼い機体は止まり木を離れるようにゆらりと浮遊。


 機体をひねるようにして、その身を飛行形態へと変形。

 直後、急加速した。

 尾を引くアフターバーナーが流星のように輝く。


 その速度はミサイルを振り切るほどだった。


「あの速度……あれじゃあパイロットが持たない!」

 ビャクヤは急ぎ通信を4号機へと繋ぐ。

 だがモニターに現れた人物を見た瞬間、ビャクヤは絶句した。


「どうして……」




 胸を圧迫するG。視界が揺らぐ速度。

 普通の人間ならば不快感を催すそれらが、エルシディアにとってこの上ない快感だった。


「動きが止まった敵を狙う、かな。……ついておいで、マーシフル」


 マーシフルは空中で反転。地表のヴァルダガノン目掛けて急加速する。

「来るぞ!!」

 ヴァルダガノンは撃ち落とそうと、マシンガンを撃って弾幕を貼る。

 しかしマーシフルは全てを舞うように躱し、一気に懐へ飛び込む。



 そのまま人型へ急速に変形。対艦刀二振りを抜き放ち、



 回転しながらヴァルダガノンを斬り裂いた。


「お、おい! 応答し……ゲボァ!?」

 マーシフルはその速度を殺す事なく、立て続けに3機を斬り捨てた。


 やがて地面へ着地。火花を散らしながら、地面に足を突き立ててブレーキをかける。


「っ!? ゲホッ!!」


 急に変形したせいで身体に負担が掛かってしまった。ヘルメット内部で吐血し、視界が真っ赤に染まる。

「動きが止まったぞ! 挟みこめ!」

 その一瞬に、ジェイガノンとヴァルダガノンが躍りかかる。

 エルシディアは急いで場を離脱しようとするが、またしても咳き込む。避けられない。


「せやぁっ!」

 ゼロエンドは背中にあったストレナを投擲。飛翔した槍は、ヴァルダガノンの腹部を深く貫いた。


「ビャクヤ……!」

 エルシディアは刹那、ヴァルダガノンからストレナをすぐさま引き抜き、目の前のジェイガノンを薙ぎ払った。

 分厚い装甲に阻まれ致命傷には至らなかった。

 が、背後からの援護射撃により、その身は無残に砕け散った。


 インプレナブルの砲身から、一筋の白煙が上っていた。


「ありがとう、エリス、エレナ」

 [合点! 礼はビャクヤ君とエリスに言いなよぅ!]

 [ビャクヤさんのフォローもあったからですよ]



「エル……」

 ビャクヤは心配が拭えない。ヘルメットを濡らす赤い液。


 やはり調整が間に合っていないのだ。


「無茶しないでよ! エルまで怪我したら……」

「今度は、私が……」

「え?」

 ヘルメットを脱ぎ、その美しい顔が露わになる。

「港側は任せて。貴方は市街地に」

「でも……」

「大丈夫」

 するとゆっくりと、どこかぎこちなく、エルシディアは微笑んだ。


 ビャクヤは、もうそれ以上言えなくなってしまった。


「…………約束だよ」

 ゼロエンドは踵を返すと、市街地へ向かった。


「うん……約束」

 憂う様な、どこか嬉しそうな。


「ち、ちょっと〜、お二人さん?」

「ど、どうしたんだろうね……?」

 見たことのないエルシディアの表情を見て、エレナとエリスは首を傾げた。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 敵の無線機から拾った情報を頼りに、罠を仕掛けながら逃げ隠れする。


 だがだからこそ、見えない恐怖を敵に植え付けることが出来る。


 [クソ、何処にいるんだ! ……うわ、ぁぁぁぁっ!!?]

 [もう限界です! ハリッド中佐、建物を破壊してあぶり出すしか……]

「それはダメだ」

 ハリッドは頑としてその要求を呑まない。


 その理由は至極簡単。

 自分の美学に反する、それだけだ。


 [ですがこのままでは何時まで経っても敵が……]

「……はぁ。全機、その場を動くな。私が仕掛ける」


 そういうと、ハリッドは操縦桿を握る。ゲオルガイアスは欠伸をするかのように排熱し、両肩のブースターを用いて市街地へ繰り出した。


「おっとデカ物が動き出した。進路は……よし、罠の方に行ってる」

 ウェルゼはガーズから受け取ったデータを確認すると、ファンタズマのステルス装甲を起動。まるで透明人間のように空間に溶け込む。


「姿が見えない。おまけにレーダーに反応無し……厄介な」

 ハリッドは顔をしかめる。見えない敵、幽霊とでも戦っている気分だ。


 カツン


 小さい何かがぶつかる音がした刹那だった。


 ゴォォォォォォ



 モニターを埋め尽くす爆炎。



「クッ、まさか……機雷っ!?」

 ゲオルガイアスの分厚い装甲は炎を物ともしない。



 しかし、それはあくまで前菜に過ぎなかった。



「あばよ、デカ物さん」

 爆炎を突き抜けてきたナイフが、ゲオルガイアスの胴体に突き刺さった。

「この感覚は入った! 決まったぜ!」

 ウェルゼは小さくガッツポーズ。いくら図体がでかく装甲が厚くとも、コクピットを突けばそれも無意味だ。


 だが、その考えはハズレだった。


 突如ゲオルガイアスの装甲が爆裂、ナイフ諸共ファンタズマを押し返した。

 爆発の衝撃で、ステルスが切れてしまった。

「何だとっ!?」


「……残念、作戦としては完璧だがね」


 ウェルゼは見た。その装甲に貼り付けられた、小さな板を。

「炸裂装甲かよ、面倒臭ぇな!」

「なるほど、そこにいたか」


 ゲオルガイアスは腰からハンドバズーカを取り出し、発射。炸裂装甲の反動で動けないファンタズマの左肩に弾頭が直撃。


 弾け飛んだ装甲からフレームが顔をのぞかせた。


 猛攻は止まない。ゲオルガイアスはその右腕でファンタズマの頭を掴み、残る左腕で胸部を殴りつけようとする。

「いい加減にしろよ……っと!」

 ウェルゼはファンタズマの脚を振り上げ、ゲオルガイアスの左肩を蹴って脱出。

「ほう、中々」

 距離を取るファンタズマに対して、ゲオルガイアスは再びハンドバズーカを向ける。


 しかし、ハンドバズーカに何か見えない力が働く。

「んっ!?」

 不意を突かれたハリッドは、ハンドバズーカを離してしまう。


 左腕を突き出していたファンタズマが、それをキャッチした。

 よく見ると細い線がハンドバズーカを捉えている。

「ワイヤーか」

「いい武器持ってんじゃないか。こいつでその分厚い装甲吹っ飛ばしてやんぜ!」

 その砲身を元の持ち主であるゲオルガイアスへ突き出す。

 トリガーに指を掛けた時だった。



 ビィィィ ビィィィ

 鳴り響く警告音に、ウェルゼは反射的にレーダーを見る。



「ふふ、ナイスフォローだ、アレン」



 ファンタズマが振り向こうとした時、鈍色の刃がその手甲を貫いた。

「しまった!?」

「出しゃばりすぎたな、工作兵」


 ジオ・ギルファのゴーグルアイが、睨みつけるようにギラリと光った。

 そのまま残る腕に携えた刀を、ファンタズマの頭部へ振り下ろした。


 だが、その凶刃を受け止めたのはファンタズマではなかった。




「ゼロエンド!? ビャクヤか!」




「……またお前かっ!? 銀色のEA!!」


 ゼロエンドとジオ・ギルファ。

 ビャクヤとアレン。


 両雄が再び、巡り合った。



 続く

〜一方その頃〜

フブキ「しゅーつーげーきー!! まだー!?」


というわけで26話でした。来たぞ、人殺しロボット、マーシフル・リッパー! 自身のパイロットをも苦しめる諸刃の剣!

次回は、遂にあの人が……?


それでは皆さん、ありがとうございました!

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