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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第2章 Pride of Ace
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第19話 揺らぐ誇り

「デイレック・ハスト社長、遠路遥々、ようこそ」

「そんな事は、などと建前は言いません。貴方の呼び出しのおかげで今日の予定は全て変更しました」



 二人の男が、テーブルを挟んで会談している。その様相は、いつぞや大統領としていた時とはまるで違った。


 互いに、探り合っているものだ。


「それで、お聞きしたい事とは? さぞかし重要な件なのでしょうな?」

 皮肉めいた言葉をかけるデイレック。しかし総司令官は気にする様子もない。

「お急ぎならば早めに切り出すとしましょう。貴方達ハスト社が、グシオスへ兵器を提供したとの情報を入手いたしました」

「ほう? 根拠は、あるのでしょうな?」

「この画像をご覧下さい」

 総司令官はテーブルのホログラムを起動し、その画像をデイレックへ見せる。

 それは一機のジェイガノンの残骸だった。無残な姿ではあるが、何の変哲も無い。

 だが総司令官が拡大したのは、ジェイガノンのマシンガン。そこには小さく、文字があった。


 〈HUST COMPANY〉


 ハスト社製の武器だった。

 それを見たデイレックは口元を押さえて体を震わせる。

「フフッ、ハッハッハ! まさか、これを根拠にしているとは。いくらでも理由はあるでしょう。貴方達の兵士が横流しをした、グシオスが奪った。ほら、考えればいくらでも出る」

「では、今度はこちらを」

 総司令官はホログラムを指で弾くと、バラバラに弾けとぶ。その一つ一つには、同じようにハスト社のロゴが入ったグシオスの武器が映し出されていた。

 しかし目の前の男は笑みを崩さない。

「これだけの数が横流しされれば、我々も気がつきます。我々の(・・・)管轄下なら…………ね」

「貴方だって全てを把握している訳では無いでしょう? それは私達もね。捜査なら私達も協力しましょう。一部の不貞な輩が絡んでいる可能性が高いです」

「………………まあいいでしょう。今回はこれにて」

 デイレックは一礼すると、部屋を出て行こうとする。しかしドアノブに手を掛けると、振り返る。

 その笑みはまるで、凶暴な獣が獲物を睨むそれと彷彿させた。

「これからも、良きパートナーでありたいですな」



 彼が出て行った後、総司令官は仮面の奥からこもった笑い声を出した。

「これからも良きパートナー、か。アルギネアとグシオスを利用しようとする者のセリフとは思えないな」

 クツクツ、と笑いが止まらない。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 訓練ルームからは銃声が響き続けていた。もちろん、本物ではなくシュミレータからだ。

 仮想空間のフィールドは市街地。そこには市民の姿も、グシオスの機動兵器の姿も無い。

 市街地を駆け回るゼロエンドと、市街地の空を舞うエグゼディエルが交戦していた。


 状況はゼロエンドの防戦一方。空中から降り注ぐミサイルと弾丸を避け続けるので精一杯の様子だった。

「どうした!? 本気を出せ、ビャクヤ!」

「くっ、このままだといずれやられる……!」

 ビャクヤは百八十度反転。スラスターを吹かしてホバー移動しながら大型マシンガンをばら撒く。だが距離が離れているために、ほとんど当たっていない。

 エグゼディエルは再びミサイルを発射。立て続けにサブマシンガンを二丁抜き放ち、降下接近しながら撃ち続ける。何発かは大型マシンガンに敢え無く撃墜されたが、残りはゼロエンドの足元へ着弾。地を抉る爆発、更にサブマシンガンの掃射によってゼロエンドの体勢が大きく崩れる。

「…………がっかりだ」

 ティノンは電磁加速砲下部のバヨネットを展開。青白い光を纏った刃がゼロエンドの胴体へ咬みつかんと迫る。

 その刹那ビャクヤの目が光った。

「ここだっ!!」

 ゼロエンドの左肩のシールドを正面へ構える。シールドに阻まれたその一瞬をビャクヤは見逃さなかった。マシンガンを放り投げ、電磁加速砲を掴んだ。

「何だと!?」

 ティノンは初めて声をあげて驚愕する。思考停止する。頭が回らない。

 ゼロエンドはその馬力を用いて、エグゼディエルから電磁加速砲を奪い取った。そのまま、電光が迸るバヨネットを振り下ろす。

 スパークが弾け飛び、真紅の左腕が宙を舞った。

「よしっ、このまま……!」

「……っ!? これ以上は好きにさせるかぁっ!!」

 突き出された刃をティノンは躱し、右脚でゼロエンドの胴体を蹴りつける。よろけたところへ、間髪入れずに左脚で踵落とし。装甲が薄い首を曝け出した。

「しまっ――」

 エグゼディエルは右腕の機関砲をそこへ突き刺し、連射。

 内側から炎を噴き上げ、ゼロエンドは損壊した。



 シュミレーションコクピットが音を立てて開き、中からビャクヤが転げ出てくる。戦っていた疲労に加えて、撃墜された時の容赦ない振動によって体力をもっていかれた。何とか立ち上がるが、まだフラフラだ。

「ま……またやられた……。で、でもさティノン、今日は…」

 ビャクヤはティノンへ尋ねたその時、心臓が凍り付いた。


 その目は、冷徹な光を灯していた。



 ティノンは無言で訓練ルームを出て行ったが、ビャクヤは何も言う事が出来なかった。ただ壁に寄りかかって、植物のように立ち尽くしていた。

 すると訓練ルームの扉が開いた。しかし、中に人が入ってこない。

 ビャクヤは何事かと扉に注視していると、ヒョッコリ金色の髪が姿を現した。

「ビャクヤさーん、あの、いつものお願い出来ますか?」

「あ、あぁうん、いいよ」

「本当、いつもありがとうございます。まかないご飯、特別仕様にしますね」

 エリスの結った髪がピョンピョン跳ねる。

「…………まあ、忘れよう。きっと機嫌が悪かったんだ」

 ビャクヤはシュミレータを切ると同時に、あの時のことを頭の奥へ閉まった。




「……? 誰か訓練やってたのか?」

 ウェルゼは訓練ルームに用事があり訪れたのだが、シュミレータに新しい記録が残っていたことに興味が移った。モニターを見てみると、最終利用者の名に「ソウレン・ビャクヤ」、「ティノン・ハスト」の文字が。

「ふぅん、どれどれ……」

 そのリプレイを見ている内に、ウェルゼの表情は複雑なものになっていった。成長を喜ぶものと、とある壁を見つけて思い悩むもの。二人にそれぞれの感情を抱いていた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 整備区画では、またしても送られて来た資材にてんやわんやだった。多種多様な武装が大量に、である。これには流石に整備班のメンバーも怪訝な顔をしていた。


「おやっさん、こいつはマジでどうかしてるぜ、こりゃあ」

「………もう勘弁してくれよなあ。安心して寝れねぇ」

 いつもの二人はまたしても大きな溜息。

 確かにハスト社からの支援のおかげで、EAの整備や、グリフィアの改良にも着手出来ているのも事実だ。だが、最近突然に・・・・・、というのが不気味なのだ。それまでは他社とほぼ変わらぬほどだったというのに。

「はぁ~あ、いいところで断ってくんねぇかなぁ。ぜってぇやばいぞこれ」

「ベレッタよぉ、そいつはちょいと違うぜ。むしろ今ーー」

「おじいちゃん! 見て見て!」

 真面目な話に水を差す、底抜けに明るい声。

 その方向を見ると、整備橋の上から手を振るミーシャの姿があった。

「何だクソガキこら。今は真面目な話をだなぁ……」

「ベレッタには言ってない!! EAの新型、完成したの!!」

『何だって!?』

 ベレッタとガロットは声を上げた。


 そこには一ヶ月の状態から進化を遂げた二機の姿があった。


「4」の格納庫にあったEAはエグゼディエルのような可変機。フレームはエグゼディエルと共通化されており、その装甲にはアクトメタルと、グリフィアと同じフェザーメタルが使われている。バックパックには二対の大型スラスターとウイングバインダー、スラリとした手足にまでスラスターが設けられている。


「5」のEAはかなり変わった見た目をしていた。鹿のように枝分かれした一本のアンテナ。肩に二基、バックパックに四基、円盤のような武装が取り付けられ、機体の各部には取り回しの良い武器ばかりマウントされている。



「おお! 流石わしの孫だ、よし早速パイロットを……」

「あぁ、えっとね……」

 ミーシャはバツが悪そうに頬をいじる。

「せっけいず通り作ったんだけど、その……マーシフルのほうがね…………」

「あ? マーシフル?」

 聞き慣れない名に、ベレッタは大仰に首を傾げる。すると彼女はやれやれといった様子で手を振る。

「マーシフル・リッパ―、四号機の名前よ。後、五号機はファンタズマね。……ってそうじゃなくて!! マーシフルのきどうせいに問題があってさ」

「んん? 機動性が悪そうには見えないけどな」

「そのぎゃく。良すぎるせいで、なかの人が耐えられないの。コクピットをかいりょうしないと……」

「またそれかよ……まあ後は俺とおやっさんで見とくよ。お疲れさん」

 それを聞くと、ミーシャは伸びをしながらどこかへ行ってしまった。


 彼女も、頑張ってくれていたようだ。


 ベレッタは自身の顔を叩き、気合を入れる。

「おやっさん、孫の手直しと行こうぜ! 難しい話は後だ」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 こうして料理をまた作ることになるとは思ってもみなかった。

 エリスから誘われて、最近空いている時間に食堂の厨房で手伝いをするようになった。一人暮らしが長かったことが幸いしてか、大抵の料理は作れる。食堂の人たちにとってかなり助かっているようだ。

 すると、エリスから声がかかる。

「ビャクヤさーん、休憩です~」

「うん、分かった」

 洗い終わった食器を元に戻し、休憩室へ向かおうとした時だった。

「ビャクヤ」

「うん?」

 声がしたほうを見る。するとそこには、食券をもったエルシディアがいた。

「オムレツと紅茶」

 ビャクヤは食券を受け取ると、小さく笑った。



 エリスによると、エルシディアは最近になって頻繁に食堂に顔を見せるようになったらしい。具体的に言うと、丁度ビャクヤが手伝いを始めた時期に近かった。

 ちなみに頼むのはいつもオムレツ、ビャクヤがいない日は紅茶だけだそうだ。

「訓練、頑張っているのね」

「へ? 訓練見てるの?」

「…………たまに、ね」

 エルシディアはオムレツをほおばる。表情こそ変わらないが、かなり夢中になっているようだ。少し、嬉しく思う。

「ビャクヤ、勲章が授与される予定だったらしいけど……つけないの?」

「う、うん、何というか……」


 ビャクヤはシミット防衛戦の後、総司令官より勲章が贈られた。初陣にして多数の敵機を撃破したため、だそうだ。だがビャクヤの中では、何か喉元に突っかかる感覚がしたのだ。


「なんだか、ちょっと……人を殺して、貰った勲章を着けたくないというか――っ!!」

 突然何者かに襟首を掴まれ、地面へ引き倒された。顔を強く打ち、食い縛った歯の隙間から呻き声を漏らす。その人物へ目を向ける。

 ティノンが、明確な殺意のこもった目で睨んでいた。

「お前……勲章が人殺しの証だとでも言いたいようだな……!!」

「違っ……そういう事じゃ……」

 しかしビャクヤは弁明する間もなく、壁に押し当てられる。紅い髪と、凛々しさを感じさせる少女の顔が間近に迫っている。肌を切るように、鋭い視線。

「少しは認めようと思っていたが……やっぱりお前のような奴がここにいるのは間違ってる!! いいか? EAがゼロエンドだけじゃなくなった以上、お前がいる必要なんか――」


 パシンッ


 響く音。

 それはエルシディアがティノンへ平手打ちした音だった。

 赤く腫れる自身の頬に触れるティノン。あまりに突然だった為か、目を見開いて呆然としている。

 が、すぐにその狂犬のような眼差しをエルシディアにも向けた。

「エル……お前、またこいつを庇うのかっ!? どうしてこいつばかり――」

「あなたがそんな調子だから。分からない?」

「何だと!?」

「ふ、二人とも……」

 一触即発。ビャクヤは喉を押さえながらも立ち上がり、二人を止めようとした時だった。



「あの~、悪いんだけどさあ」



 食堂の入り口から声が割って入る。

 そこには呆れ返った様子のウェルゼ、怯えて震えているエリス、その頭を撫でるエレナの姿。

「出撃命令出てんだけど……ブリーフィング良いかな?」

「……すいません」

「了解」

「…………」





 ミーティングルームの雰囲気は、心なしかギスギスしていた。主にビャクヤ、エルシディア、ティノンの三人。

 ウェルゼは水と油並みに相容れないその関係にげんなりしながらも、内容を確認し始める。

「次はグシオスの遊び相手になる任務じゃない。なんかEAに興味がある人物がいるから、そこまで行って試験稼動して欲しいらしい」

「そ、それって任務なんですか……?」

 ビャクヤがおずおず尋ねると、彼は任務内容が書かれた紙をヒラヒラさせる。

「しょーじき任務じゃねえな。見たけりゃそっちが来い、って言いたいんだがそうも行かねえんだなこれが。なんてったってーー」




「クライアントは天下のハスト社。アルギネア(うち)の兵器作ってる会社だからな」




「ハスト社…………っ!?」

 上ずった声が発せられる。

 その主はティノンだ。だが様子がおかしい。


 顔面は蒼白で、指先は震えている。


 ビャクヤがどうしたのかと尋ねようとしたが、それはウェルゼの声で遮られた。



「どうした? そんなに実家行くの嫌なのか?」



 続く

ブリーフィング中のエレナ姉さん「ZZZ……」


という訳で19話でした。今回から2章でございます。いやぁ、今日のティノンさんは荒れてましたね。まあ、原因はビャクヤ君にあるわけですが……これはよくある価値観の相違というものです。


それでは皆さん、ありがとうございました!

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