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第10話 選んだ道は

 正面の扉を前にして、どれくらい経ったのだろうか。

 恐らく1分もないだろうが、ビャクヤにとってかなり長い間に思えた。




 おめでとう

 君の選択はきっと、間違ってはいない

 これからよろしく頼む、ビャクヤ准尉(・・)



 未だ脳内に残る総司令官の言葉。

 〈正しい〉ではなく、〈間違っていない〉

 これが何を指しているのかは分からないが、今は目の前の課題が優先だ。




 あの紙に捺印し、正式に特務隊に配属になった。

 そのため、これからメンバーと対面するのだが。

「ああ、ヘタレな自分が恨めしい……」

 さっさと行けばいいものを、ビャクヤの足は進むことを拒否し続けている。まるで地面に根を下ろしている様だ。

(こういう時は……)

 ビャクヤは左薬指についた指輪を握りしめる。いつもの、おまじない。


 ゼロエンドに初めて乗った時以来、何処にいってしまったのか分からなかった。

 しかしよく見ると、いつの間にか左薬指についており、外せなくなっていたのだ。

 不可解だったが、これで失くす心配はしなくて済むと思い、そのままにしていたのだが。



「よし、行ける!」

 なけなしの勇気を出し、その扉を開けた。






 パーン パーン パーン

『初めまして! 特務隊にようこそ!!」



「………………ハイ?」

 舞い散る紙吹雪とクラッカー、歓声。

 ビャクヤはポカーンと硬直していた。





 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あれ?」

 歓声をあげていた1人の男が素っ頓狂な声をあげる。

「た、隊長、これ引いちゃってるんじゃあ……」

「いやいやいや! そんなこと無いって! きっとそうだよ、うん!!」

「2人共落ち着いて下さいね〜〜」

「…………」



 この部屋にいたのは4人だった。

 先ほどから慌てふためいている、モスグリーンの髪色をした男。

 同じようにあたふたしている、レモン色の髪を左に結っている幼い少女。

 それをなだめる、レモン色の髪を右に結っている少女。


 そして、それを部屋の奥で他人ごとのように見つめている蒼銀の髪の少女は、ビャクヤも知っている人物だった。


「あ、あの……」

 ビャクヤは奥にいるエルシディアに声をかける。

 が、何故かそれに反応したのは男の方だった。

「あぁ、悪い! 出迎える側がこれじゃあ不安になるよな。よし、今から自己紹介するからちゃんと聞いとけよ!」

「え? いや、そうじゃなくて……」

「じゃあ、俺から始めるぜ」

 ビャクヤの話は置き去りにされ、自己紹介が始まってしまう。


「俺はウェルゼ・アイウォスレーズ。一応、特務隊(ここ)の隊長だ。何かあったらまず俺に相談してくれ」

 そう言うとウェルゼは、親指を立てて得意げな表情をする。

 背も高く、正に兄貴分といった出で立ちだ。

 正直今までの雰囲気を見ていて、ビャクヤはあまり安心出来なかったが。


「え、えっと、私はエリス・アリアードです! そして……ちょっと? お姉ちゃん?」

 エリスと名乗った幼い少女は、隣で放心している少女の頬を突っつく。

 すると、ハッとしたような仕草をとる。

「あ〜、私はエレナ・アリアードです〜。隣のエリスちゃんの姉です〜」

 やけにゆっくりと、間延びした話し方をするエレナ。こうして見ると、妹のエリスの方がきちんとしている。

だが、やはり姉妹というだけあって、見た目がかなり似ている。背丈もあまり差がなく、パッと見では区別がつかない。

「えっと、どう見分ければ……」

「垂れ目で右結いがエレナ、パッチリ目で左結いがエリス、で覚えれば楽だぜ」

 何故か助け舟を出したのはウェルゼ。隊長だからか、メンバーの事については詳しいようだ。


「次は……。エルの番だな」

「私は彼と面識があるから要らない」

「えっ、そうなの?」

「は、はい、まあ……」

 そっぽを向いてしまったエルシディアを見て、ビャクヤはバツが悪そうに俯く。確かにそうではあるが、やはり自己紹介は要らないと言われると少し心が傷む。

「エルさん、そうだとしてもここはちゃんと自己紹介しましょうよ……」

 そんなビャクヤの様子を見たエリスはそう促す。

 しかし、エルシディアは懐から小さな本を取り出し、それに目を落とす。どうやら、彼女にエリスの言葉は届いていないようだった。

「……まあそんなわけで、あいつはエルシディア・ゼイト。良い奴だから邪険にしないでやってくれ、な?」

 ウェルゼはそう言うが、明らかに彼女はこの部隊に馴染んでいない様に見えた。

 まるで、興味が無いといった感じだろうか。




「ウェルゼさん、あの人は?」

 エリスはウェルゼに尋ねる。

 その問いに対し、ウェルゼは少したじろいだ様子を見せた。

「あ〜、あいつならそろそろ来るんじゃないか? なんかえらく不機嫌だっーー」



 ガチャッ

 バサバサ



 ウェルゼの声に被さったのは、その2つの音。

 扉の開く音と、紙のような物の落下音。

 何の音かと、振り向いたビャクヤは凍りついた。



 その人物もまた、ビャクヤを見て硬直していた。

 紅いポニーテールに、見開かれた金色の瞳は怒りと驚きの色が混じっていた。




「何で……お前がここに……!!?」

 ティノン・ハストが発した声は、震えていた。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ビャクヤ以外、ティノンが来たことに驚いてはいなかった。


「ティノンさん、お疲れ様です。今、新しく来た人の……きゃっ!」

 ティノンは駆け寄ってきたエリスを片手で押しのけ、ビャクヤに詰め寄る。

「何でここにいるんだ! 本来なら軍法会議にかけられているはずだろ!?」

「おいちょっと待てよティノン! 軍法会議って何だ? こいつ新人なんじゃあ……」

 ウェルゼの問いかけに答えず、ティノンはビャクヤの胸ぐらを掴み上げる。

 そのしなやかな腕は、見た目に反して強い力だった。


「一体何をしたんだ、答えろ!!」

「な、何もしてないよ……! 総司令官って人に、軍に入るか、裁かれるかって……」

「総司令官!? デタラメを言うつもりか……っ!」

 ティノンはビャクヤの胸ポケットにあるIDカードを見つける。それを引き抜くと、ティノンは絶句した。

「特務隊……准尉!?」

総司令官(あのひと)に……渡された」

 しばらくIDカードを見つめていたティノンだったが、その手を離した。



「なるほどな……」

 ティノンがビャクヤを見つめる目は先ほどまでと違い、軽蔑の色だった。

「命欲しさに入隊した、そういうことか」

「…………」



 黙っている他はなかった。

 そんな事情を聞いたら、誰だってそう思う。

 ビャクヤにとって、この入隊のメリットは極刑を免れること以外無いのだから。



 ティノンはその様子を見ると、舌打ち混じりに言い放った。

「私は、認めないからな……!!」

 ティノンが部屋を出る(さま)とは裏腹に、ドアは静かに閉まった。


「ティノンさん……」

「大丈夫だよ〜、エリスちゃん」

 心配そうに見送るエリスを、エレナは後ろから抱きしめる。


 ウェルゼの表情には、呆れのような色が含まれていた。

「なんか……済まないな、本当」

「いえ、そんなことはないです」

「ティノンも良い奴……なんだが、あの性格でな。一回決めつけると、意地でも曲げようとしない。あの様子だと、相当何かあったんだな」



 ビャクヤはウェルゼと、否、この場にいる全員と目が合わせられなかった。

 極刑を免れるために入隊した。

 例えそれがきっかけで信用されなくとも、今はそう言うしかない。

 本当の理由は、誰にも言えないのだから。



 しかし誰一人、ビャクヤの事を追求しようとはしなかった。

「俺からあいつに言っておくよ。だから心配すんな」

 ウェルゼがビャクヤの肩をポンっと叩く。どうやら、表情に出ていたようだ。




「あいつにとってもいい機会だし、言ってみるか」

「え?」

「ああ、いやこっちの話」

 そのにやけ顔は、何か企んでいるのが見え見えだった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「じゃあ、今回はこれでお開きだ。もう一度言うが、これからよろしくな」

 ウェルゼの宣言により、ビャクヤの歓迎会は終了した。

 ウェルゼはさっさと手を振りながら部屋を後にし、アリアード姉妹も後を追うように出て行った。

 部屋を静けさが包み込む。

「僕も戻ろう……」

 疲労感でヨタつきながら、ビャクヤが部屋を出ようとしたその時だった。



「待って」

 エルシディアの声が静かに響く。

 振り返ると、彼女は本をしまい、ゆっくりビ歩み寄る。

「な、何?」

「見て欲しい物がある」

「見て欲しい……物」


 彼女が何を考えているのか、ビャクヤには分からない。

 だがその瞳を見つめていると、頭を針で(つつ)かれる様な感覚が訪れる。



 アリアは、彼女を知っているのだろうか。

 いや、そもそも自分はアリアの事をちゃんと知っているのか。



 もしかすれば、アリアについて何か知る手がかりがあるかもしれない。



「……分かった」

 ビャクヤは頷いた。

 エルシディアの言う物が、自分の知るべきものと信じて。





 続く

ビャクヤ(ていうか何であんなに嫌われてるんだろう……)


というわけで10話です。

やっと主要メンバーが出揃いました! いやぁ長かった。(代わりにロボットが空気に)

そして今回は、ティノンが暴れましたね。…………悪い意味で。

でも、悪い娘じゃあないんです(保護者感)

どうか今後にご注目ください。


それでは、ありがとうございました!

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