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第9話 岐路

  カラカラカラ、カラカラカラ


 一人黙々と、地球儀を回し続ける男がそこにはいた。

 その表情は、異業の仮面によって阻まれて分からない。だがおそらく、仮面の向こうにあるものは、〈虚無〉だろう。



  カラカラカラ、カラカラカラ

 まるで機械の様に規則正しく回り続ける地球儀。

 男には、地球がこう見えているのだ。

 例え生物破滅の始まりがあったしても、決して自身の法則を変えたりしない。




 無慈悲で、無関心で、

 だからこそ、この青き星は美しいと。



 すると、男の机の上にデジタルモニターが浮かび上がる。

 マックスだった。


「総司令官殿、特務隊、無事任務を達成致しました。例の機動兵器は本部の整備区画へ輸送完了しております」

「そうか、御苦労」

 総司令官は応対している間も、地球儀を回す手を止めない。

 マックスはその独特の雰囲気が少々苦手だったが、一切表情には表さない。

「例のパイロットは?」

「それが……意識を失ってしまいまして。現在、医療班に預けております」

「そうか」


 すると、地球儀の回転をピタリとを停止させる。


「意識が戻り次第、応接室へパイロットを送ってくれ、私が応対しよう」

「そ、総司令官殿自らが……でございますか⁉︎」

「何か、不服なことが?」

「い、いえ……」

 マックスはただ、理解が出来なかったのだ。


 グシオスの追撃を退けた後、例のゼロエンドのコクピットから引きずり出された少年の姿は、どう見ても軍人とは思えなかった。

 普通なら軍法会議にかけられるものを、総司令官の指令により不問、更には総司令官自身が出向いての面会。


 何かが、おかしい。


「で、では、私はこれにて」

 マックスが一例すると同時に、モニターは消失する。


「ビャクヤ、君は選べるかな?」

 ただ広い部屋を、一人の男の声が木霊する。



 まるで、楽しんでいるような響きで

 まるで、悲しんでいるような響きで






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 人生の内、何回あるだろうか。


 意識が戻ったと同時に、腕に拘束器具をつけられて何処かへ連行されるのは。

 しかも今回は美少女一人では無く、屈強な軍人の男達数人。

 呼吸することさえ畏怖を感じる空間に、ビャクヤは慣れる事など出来そうに無かった。


 今度こそ殺されるのだろうか。


 ビャクヤが苦悩していると、ある部屋の手前で男達が動きを止める。

「総司令官、例のパイロットを連行しました」

 先頭の男が声を掛ける。

 返事の代わりに、無言で扉が横にスライドしてはけていく。


 その向こう側に待ち構えていた男の姿に、ビャクヤは息を呑み込んだ。

 その奇異な格好に驚いたのではない。





 ビャクヤは知っていた。この人物を。


「病み上がりの所を、済まなかったね。……君達、彼の拘束具を外したら下がりたまえ」

「監視の者をつけますか?」

「必要ない」

 前の軍人が一礼すると同時に、後ろの軍人達がビャクヤの手の拘束を解く。

 そして男達は一糸乱れぬ敬礼をして、部屋を後にした。


 無音の空間の中、ビャクヤと総司令官が相対した。

 総司令官は自分の向かい側の椅子に向けて手を差し出す。


「かけたまえ」

「…………どうして、貴方が」

 ビャクヤは(うつ)いたまま、ポツリと声を発した。

「どうして貴方がここに?」

「君とこうして会うのは10年ぶりだね。確か、君をフラムシティの軍学校へ推薦した時だったか」

 総司令官は質問には答えず、まるで昔を懐かしむかのように話し始める。

 ビャクヤは真意を掴めない総司令官の素振りに困惑する。

「そう、ですね。……正直、嫌でしたけど」

「あの時の君は、嬉しそうに見えたがね」

「なっ!?」

 総司令官が口にした言葉は、ビャクヤの言葉と真逆だった。

「純粋な瞳で、私を見つめて言ったよ。『僕は軍人になれるの?』 とね」

「そんなこと……!」


 そんなことある訳がない。

 自分は普通に生きたかった。

 なのにある日、目の前の男がやって来て言ったのだ。

 これから君は私が指定した学校に行く事になる、と。

 行きたい訳がなかった。


「私が頷いたら君は、微笑んだ。そしてこう言ったよ」

「違う……違う……!」

「『僕は頑張って強くなって、みんなを守ってあげるんだ』とね」

「そんなの嘘だ!!」

 ビャクヤは目の前のデスクを叩き、悲鳴のような怒声をあげた。

「そんなこと、僕は言ってない! 僕は普通に生きたかったんだ! なのに……」


 眼から溢れ出た涙も気にせず、異形の仮面に向けて自身の行き場のない怒りをぶつけた。

「貴方がそれを僕から取り上げたんだ!! グシオスとアルギネアの戦いに巻き込まれたのだって偶然で……僕には関係ない!」


「関係ない、か。確かに君があの機体に出会ったのは偶然かもしれない」

 総司令官の声には、相変わらず温度がこもっていなかった。

「君に戦う意思が無いと言うのもよく分かった。だが、君の中にいる少女(・・・・・・・・)はどうだろう?」


 ビャクヤは耳を疑った。

 自分の中の少女とは……

 アリアの事を言ったのだろうか。



「何を、言って……」

「まるで死を恐れていない、訓練された兵士の戦い方だったとグリフォビュートのメンバーから聞いたよ。君にそれができるとは、私は思っていない。そしてこれはエルシディア少尉からの報告だが、『女性の声が聞こえた』と」



 仮面の奥から響く重い声は、まるでビャクヤの心を見透かすような言葉を紡ぎ出す。

「これが本当なら、彼女(・・)はどうしたいのだろうね」

「だけど……」


 黙り込んだビャクヤを見ると、総司令官は懐からあるものを差し出した。

 IDカードと、1枚の用紙。

「今は君が機動兵器を扱ったことについて不問にしている。が、それは君が軍人にならなければ適用されない」

「っ!? それはつまり……」

「つまり、そういうことだ」


 自分がこの条件を呑まなければーーーー

 極刑は免れない。


 自分は迫られている。

 軍人となるか、死ぬか。

 選択肢を選ぶことを。

「くっ……!!」


 その時、脳内に声が反響する。



 ごめんなさい、私のせいで……



 アリアの声は、微かに震えていた。

 ビャクヤは、ある言葉を思い出した。





 〈約束〉を果たす時が来た





 アリアと、ゼロエンドが果たさなければならない約束。

 アリアが、自分を護るのは何故なのか。

 何一つ事情を知らない自分が、彼女の為に出来ることは。



「僕はーーーー」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 整備区画では、あちらこちらで大騒ぎだった。

 搬入されたゼロエンドを取り囲むメンバー、送られて来た未知のフレームや装甲を取り囲むメンバー。


「すげえなぁ、この合金のサンプル。ハスト社もやるもんだねぇ」

 ベレッタは数人のメンバーと共に感嘆の声を漏らす。

「当然だろうよぉ、ハスト社つったらアルギネアの工業会社の大将見てぇなもんだぞ?」

 背後から歩み寄ってきたガロットはやれやれといった雰囲気だ。


「にしてもよぉ、送られて来た資材でゼロエンド(これ)の複製機体を作れなんて、何企んでやがんだ?」

「あの総司令官だしな。でも機体はいいにしても、エンジンが分からねぇんじゃあ……」

「あぁ、それは心配いらねぇ」

「は? それどういうーー」

 ベレッタが尋ねようとした時だった。



「おじい〜ちゃ〜ん」



 幼い声が響き渡ったかと思うと、浅緑色の髪をした少女がガロットに飛びつく。


「おぉミーシャ! 元気しとったか?」

「うん! ちゃんと待ってたし、みんなのお手伝いしたよ!」

「そうかそうか、お利口さんだなぁ、ガッハッハッハッ!!」

 ミーシャの顔を見た瞬間、ガロットは人が変わったように上機嫌になる。


 しかし反対に、ベレッタは極端に顔をしかめる。

「うわっ!? 来やがったなミーシャ!」

「へーん、ベレッタにはハグしてあげないも〜ん!」

「いらねえよクソガキのハグなんか!」

「何だベレッタ! 可愛い孫に向かってクソガキだと!? お前の方がクソガキだろうが!!」

「あああああ、面倒くせぇぇぇぇ!!」


 一気に騒がしくなった3人だったが、突然ミーシャがゼロエンドを見上げた。

「おじいちゃん、あれなに?」

「ああ、あれは大事なものだから、触ったりしたらダメだからな〜」

 よしよしとガロットは頭を撫でる。

 しかしミーシャはとんでもないことを口にした。



「……かいぞーしたい!」



「お、おぉん!?」

「やべぇ、始まった……」

 ガロットは顎が外れんばかりに口をあんぐり開け、ベレッタは地に両手を着く。

「おじいちゃん、あれ、かいぞーしていい?」

「い、いや、だからあれは……」

「ダメ?」

 わざとらしく両手を合わせ、目をウルウルさせながらミーシャはガロットを見つめる。



「ハ、ハッハッハッ! い、いいともいいとも! じゃあ、紙に設計図を書いて来なさい」

「わぁ、ありがとう! おじいちゃん大好き!」

 ミーシャはピョンとガロットの腕から抜け出すと、脇目もふらずに走って行ってしまった。



「こんの……クソジジイ!!」

 ベレッタの叫びは、鉄の天井を突き抜けていってしまった。





 続く


ゼロエンド、魔改造計画スタート!


という訳で、第9話です!

さて、またまた恐怖の非戦闘パートが始まりました。グダつかないようにがんばります(切実)



それでは皆さま、ありがとうございました!

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