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第8話 敗が舞う戦場

最初に言っておく!今回はかーなーり長い!

それではどうぞ!

  〜機動兵器格納庫〜


 戦闘による振動は、格納庫内にも重く伝導していた。

 そこかしこで整備兵が慌ただしく動いている中、ガロットだけが黙々とゼロエンドの解析を進めていた。

「クソジジイ!今じゃなくていいだろそんなことすんのは‼︎」

 他の整備兵と同じく作業をしていたベレッタは、その様子を見て声を荒げた。


 現在ゼロエンドは腕部や脚部などの一部の装甲を剥がされ、所々カーボン筋肉が剥き出しの状態だった。


 ガロットはベレッタの発言を無視し、カーボン筋肉の構造を調べていた。

「こいつは……やっぱり15年前のだ。どういうことだぁ?」

「ダメだあのジジイ、聞こえてねぇ。早くなんとかしないと……」

 と、ベレッタがガロットの元へ行こうとした時だ。


 整備橋を駆ける人影を見たのは。


 その人影は、事もあろうにゼロエンドのコクピットへ向かっている。

「お、おい!止めとけって!今そいつに乗ったらやばいから‼︎」

「うるせぇぞ、ベレッタ‼︎ 人が真剣に考えーーー」

 激昂したガロットも、コクピットが閉まる音と、ゼロエンドのフェイスガードが降りる音で気がついた。

「おいおいおいおい!そんな状態で出たらスクラップになるって……おわぁ‼︎」


 整備橋が格納されると同時にゼロエンドは歩み出し、咄嗟にガロットは横へダイブ。

 発射カタパルトへと真っ直ぐ進行していく。


 止めようがなく、ガロット達整備兵は黙って見送る他無かった。





 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 右腕部損傷率86%。

 モニターに映し出された数値が最早意味などなしていないことに、エルシディアは気づいていた。

 対艦刀を握りしめたままの右腕は無残にも地面に転がっており、元々右腕があった場所は激しくスパークしている。

 そして、最大の問題が生じていた。


「姿勢制御バランサーが死んでる…」


 機動兵器の生命線とも言えるバランサーシステムが反応しないのだ。パイルバンカーを受けた時の衝撃なのか、はたまた吹き飛ばされた時に損傷したのか。


 どちらにしろ、このままではただの鉄人形。なぶり殺しにされてしまう。


「エルシディア少尉!機体はもう限界です、脱出してください!」

 通信機からリンの声が響く。

 しかし、エルシディアには考えが一つあった。


「……まだ大丈夫。何とかする」

「何とかって……どうする気ですか⁉︎」


 エルシディアはコンソールパネルからシステムオプションへと繋ぐ。

 ノイズ混じりのモニターに、迫り来るヴァルダガノンの姿が映る。


 だが、エルシディアのパネルを叩く指に一切の焦りはない。

 自分が死ぬかもなどという恐怖、もうとっくに麻痺している。


「右腕部へのコントロールシステムシャットダウン、システム出力をバランサーへ集中。ホバーシステムもシャットダウン、同システムへ集中」

 するとモニター内に、〈SISTEM RICOVERY〉と浮かび上がる。

 エルシディアは残った左腕を支えに、グリフィアを立ち上がらせる。多少不安定に揺れているが、そこは自分の技術で何とかするほかない。



「まだやる気なの?」

 エリーザの声は、驚きよりも呆れの色が濃かった。

 その状態ではまともな挙動などとれるはずがない。

 すると、アレンの声が通信機から響く。

「エリーザ、任せられるか?」

「アレン隊長⁉︎ まさか1人で行かれるのですか⁉︎ 陸艦の機銃に……」

「フブキが潰した分で事足りる。陸艦に張り付いたスナイパーの注意が向いていない間に一気に攻め落とす」

「しかし……⁉︎」

「俺が信用出来ないか、エリーザ?」

「っ‼︎」

 エリーザは黙り込む。アレンの事を一番信じていると思っていただけに、その一言は重かった。


「………信じてますからね」

 エリーザの言葉を聞くと、アレンは単騎、グリフォビュートへ突貫した。


「一機、グリフォビュートへ接近。こちらからは追えないから何とかして」

 自らの脇を通り過ぎたヴァルダガノンを見たエルシディアは、リンに呼びかける。

「は、はい!」

「でも、ちょいと難しいね。結構機銃やられてるし、グリフォビュートの連装砲を動いてる機動兵器に当てられる自信ないし」

 別の回線からはクラウンの焦りを帯びた声。

 どのみち機体がこれでは、目の前の敵をどうにかするしかない。


 その時、奇妙な通信が聞こえた。




「えっ⁉︎ どういうこと、パイロット応答してください!出撃許可は出ていません!」




 が、そんなことを気にする暇などなく、エルシディアはグリフィアを突進させる。

「くっ……!」

 パイルバンカーはまだリロードされていない。

 エリーザは咄嗟に左腕の小盾(バックラー)で機体を庇う。

 機体重量の軽いグリフィアでは、体当たりも満足な威力を出せない。だから、エルシディアは


 左腕にもう1本のみ残されていたナイフを装甲内から射出した。


 細いナイフは盾の隙間を縫うように飛翔し、ヴァルダガノンの頭部へその刃を突き立てた。


「何っ⁉︎」

 予想外の不意打ちに、エリーザはエルシディアの接近を許してしまう。


 エルシディアは突き刺さったナイフを左腕で掴み、更に押し込める。

 バターを切るようにすんなり入る様子とは真逆に、ギィィィという耳を引き裂くような音が鳴り渡る。

「このままコクピットを……」

「させるか!」


 エリーザはグリフィアの腕を掴み、ヴァルダガノンの馬力を用いて引き抜こうとする。

 グリフィアは徐々に押し戻され、左腕にもヒビが入り始める。

「ティノン……早く……」

 残された時間は、短い。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 思った通り、陸艦の弾幕が薄かった。

 アレンはそう心で独白すると、ヴァルダガノンの両肩ブースターを点火させる。

 申し訳程度に打ち出される機銃は、装甲が薄くなっているヴァルダガノンの飛行を妨害することさえままならない。


「ティノン中尉!一機取り付こうとしてる、妨害出来ないか⁉︎」

 クラウンは機銃で止まらないと勘づき、ティノンへ援護を呼びかける。

 ティノンのグリフィアは完全に頭部がひしゃげており、モニターはほぼ砂嵐状態だった。

「この状態で⁉︎」

「頼む、一発、いや当たらなくていい!取り付かれる隙を失くしてくれ!」


 しかしわざわざスコープから視界を外し、再度狙いをつけるなどしていては、取り付かれてしまう。


 ならば、外さなければ良い。


「ウァァァァ‼︎ 当たれぇぇぇぇ‼︎」

 ティノンはスコープを覗いたまま、グリフィアを右に90度回頭。

 先ほどまで1000m先の目標を狙撃していた倍率。普通なら、飛翔して急接近する目標を収めることなど不可能に近い。


 しかし、ティノンはヴァルダガノンの胴体、それもコクピット部を正確に捉え、強力な一撃を発射した。


 だが聞こえたのは装甲を貫く高い音ではなく



 グリフィアの両腕が引き裂ける鈍く、低い音だった。


 何が起きたのか、当のティノンすら理解できなかった。


「い、一体…何が……!」


 アレンのヴァルダガノンの手には2振りのZ.Kが握られており、その内の1本の刀身に小さな焼け跡が刻まれている。


 つまりこの男は、音速も超える狙撃弾を刀で弾いたのだ。


 成す術なく立ち尽くすグリフィアに近づくアレンの感情は、〈無〉そのものだった。

 これを潰せば、後は無防備な陸艦を墜とし、機動兵器を回収するだけだ。


 そしてZ.Kを突き出し、グリフィアのコクピットを、ティノンの身体を、







 貫けなかった。


「なっ…………⁉︎」

「何だと…」


 そこには、突き出された凶刃を片手で止めた、白銀の機動兵器が降臨していた。


「……あいつか⁉︎」

 ティノンはすぐさまゼロエンドの回線へ繋ごうする。しかし、そこから聞こえるのはノイズばかり。

「おい!応答しろ!……何で繋がらない⁉︎」


 アレンは己が一撃を受け止めた機動兵器を見た瞬間察した。

「これが……EA…」



 あくまで目的は鹵獲。

 だが、無傷でとは言われていない。



 すぐさまもう片方のZ.Kを振りかざす。

 が、その先の行動は叶わなかった。

 ゼロエンドが放った蹴りがヴァルダガノンの脇腹を直撃し、甲板から投げ出される。


 地面へ激突する前に全身の各部スラスターを吹かし、それを避ける。

 だが、今度はゼロエンドが甲板から身を投げ出して襲い来る。

 その手には、ティノンのグリフィアの狙撃用ヒートライフル。

 ゼロエンドはそれを槍のように鋭く突き出してきた。


 アレンは後ろに飛び退き、それを回避。

 そして着地ざまに両肩ブースターを最大出力にして渾身の突きを繰り出す。

 しかし、ゼロエンドは長大なライフルを片手で持ち、渾身の突きを繰り出す。



 それぞれの一撃は、それぞれの頭部へ命中し、火花と金属片が宙に咲く。

 2つの機動兵器は、全く引かない。




 先に動いたのはゼロエンドだった。

 突きつけたライフルの銃口でヴァルダガノンの頭部を押しやると同時に前蹴り。

 そのしなやかな機体からは想像もつかない威力のそれに、ヴァルダガノンは踏ん張りきれずに地面を脚で削りながら吹き飛ばされる。


 が、その瞬間、アレンはある欠陥を発見していた。

「脚と腕の装甲が少ないな…」

 腕と脚からは筋肉のようなチューブが露出しており、本物の筋肉の様に膨張収縮を繰り返しているのが分かる。

 そこを狙えば。



「そんなこと、分かり切ってるわ」



 ビャクヤ、もといアリアはまるでアレンの思考を呼んだかのような独り言を発した。

 片手に持った狙撃用ヒートライフルを構え、その銃口をアレンへと向ける。


「近づけると思わないでよ」

 その瞬間、重い発射音とともに銃口が刹那に輝く。


「っ‼︎」

 初めてアレンの表情に走る。

 反射的にZ.Kを振るったが、弾き切れずに頭部を掠める。

 しかし、恐怖はこれからだった。


 本来、狙撃用ヒートライフルはとてつもない反動があるため連射は出来ない。



 だが、目の前の機動兵器はすぐさま2射目を放ったのだ。

 それも、片手で。



 弾丸はヴァルダガノンの右手を撃ち抜き、Z.Kの1本諸共吹き飛ばした。

 凶弾は止まず、ゼロエンドが踏みしめる地面は悲鳴のような音を立ててひび割れていく。


「隊長!」

 エルシディアと組み合っていたエリーザは異変に気付き、アレンの元へ駆けつけようとする。

 アレンのヴァルダガノンは各部に風穴が空き、何とか1本のZ.Kで(しの)いでいる状態だった。

 が、エルシディアはグリフィアの腕でヴァルダガノンの首を掴み、引き剥がされないようにする。

「行かせは……しない」

「クソッ‼︎」



 エルシディアはゼロエンドを見る。

 一体誰が乗っているのか、何故か彼女は確信していた。

「どうして彼が…」



「邪魔を…するなぁ‼︎」

「うぁ……!」

 と、エリーザのヴァルダガノンは右腕のパイルバンカーユニットでグリフィアを殴りつける。凄まじい衝撃に、グリフィアは残った左腕も千切れ飛び、地に背中をつく。


「隊長ぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 半ば狂乱気味に叫ぶエリーザの目には涙が浮かぶ。

 彼女の心中には様々な黒いものが渦巻き、最早理性のタガが外れてしまっていた。

「エリーザ、待て!」

「死ねぇ!死んでしまえええぇぇ‼︎‼︎」


 右腕のパイルバンカーをゼロエンドへ向け、必殺の一撃を放つ。




 ゼロエンドはそれを、半身になるだけで躱した。


「えっ……?」


 次の瞬間、エリーザのヴァルダガノンは頭部、脚部、腰部を撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちる。


「エリーザ!くっ、フブキ!カバー頼めるか⁉︎」

 アレンの問いかけに帰ってきた反応はノイズ混じりだった。


「畜生……バルーンの……分際でぇ…!」

 フブキのヴァルダガノンは頭部を吹き飛ばされ、腰のバランサーを撃ち抜かれ、輸送ヘリもまともに飛行出来る状態ではなかった。


「悔しい…悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいクヤシイ……‼︎」

 コクピットの中でただ涙を流し続ける姿は、天才スナイパーのそれではなく、13歳の少女だった。


「俺たちの……負けだな」

 アレンは呟くと、Z.Kをゼロエンドへ投擲。

 アリアはそれをヒートライフルの投擲で防ぐと、連続射撃のガタが来たのか暴発。




 爆風が晴れた時、コクピットブロックを片手に抱えて飛び去っていくヴァルダガノンの姿が地平の彼方へ消えていった。



 アリアは黙ってそれを見つめ、無音に包まれた空間の中でたたずむ。



 大破し、原型を留めていないグリフィアの中で、エルシディアとティノンは呟いた。






「私達の……負けね」

「私達の……負けだ」




  続く

敗は容赦なく、戦士達に降り注ぐ。


というわけで第8話、どうでしたでしょうか?ご意見ご感想ご指摘、いつでもどこでもバッチコイです‼︎


7話、8話と戦闘が続きました。実は僕自身、日常パートがグダつき気味になっているのに最近気付きました。なので戦闘くらいは……と書いていたのですが。


何だか、8話も長いわりにグダついちゃったかな、と反省しております。日常パート諸共、これからも勉強していきたいですね。


それでは皆さま、まだまだ発展途上な本作を読んでくださり、ありがとうございました!

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