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第6話 騎士の心臓

「何の用だ…エル?」

 そう話すティノンの口調は今までの重みのあるものへと戻っていた。

 馬乗り状態から解放されたものの、未だ手が自由に使えないためビャクヤは何とか廊下の壁を背に立ち上がった。


 もう既にアリアの記憶は全て受け取った。

 だが、到底受け取れるものではなかった。

 このことが本当ならば


 自分は人を殺して……


「彼、顔色が悪い」

 静かに発せられたエルシディアの声にビャクヤはハッとした。

 エルシディアはゆらりと近寄ると、その手を優しく包んだ。

 心地よい冷たさが、手を刺激する。

「ティノン、事情は私が聴いておくわ。……

 何か、知ってるんでしょう?」

「あ、う…うん」

 ビャクヤはつい二つ返事で了承してしまう。

 それを聞いたティノンは、驚いた表情を見せる。

「おいちょっと待て!さっきまでお前何も知らないって言ってただろ‼︎」

「え、えぇっと…」

 ビャクヤは迷う。

 真実を告げたとして信じてくれるのか?


 もう一つの人格の記憶がたった今共有されて

 自分が何をしたのか思い出した。


 ダメだ。本当の事なのにかなり嘘くさい。


 すると、エルシディアが横目でティノンを見つめる。表情こそ無表情のままだが、その瞳には呆れの色が表れていた。

「いきなり尋問された挙句、手錠を掛けられて乱暴に振り回されて、素直に話すと思うの?」

「まだ尋問はしていない!これから営倉に入れて、それから始めようと…」

「一般人を営倉送りにしようとすること自体おかしいことに気づきなさい。それとも、艦長か誰かにそうするよう言われた?」

「そ、それは、だな…」

 ティノンは初めて戸惑うような仕草を見せたが、すぐに食ってかかる。


「お前は一番近くでガイオ中尉と一緒に見ていたんだろ⁉︎ なら知ってるはずだ、こいつがあの機動兵器を…」




「そう、怖くなったのね」




「なっ…⁉︎」

 エルシディアはビシリと突きつけた。

 その言葉は、冷たいナイフのようにティノンの心を切り裂いていく。


 自分は恐れている

 あの兵器を

 目の前の男を…⁉︎


 認めたくない。認めるものか。


 言葉も出なくなり、ただ憤怒を込めた視線を二人に送りつけることしかできない。


「……」

 エルシディアはそれを一瞥すると、ビャクヤの手を引いて歩き出した。

 手錠をされているせいで、後ろ向きに歩かねばならなかった。故に見てしまった。



 壁を殴りつけ、歯を砕かんばかりに食いしばるティノンの姿を。








  〜アルギネア中心都市ロンギール〜

  アルギネア軍最高会議室内


「……これが君の要件か?」

「正確には、要求というべきでしょうか」



 ここにいる人数は十数人、しかし会談をしているのは二人のみ。



 一人はアルギネアの政権を束ねる男、ノイマン・マルデュー大統領。


 もう一人はアルギネア軍を束ねる男、アルギネア軍総司令官。


「……私には到底信じられないのだが」

「信じてくれるまで何度でも説明しましょうか?」


 言葉を震わせるノイマンとは対照的に、総司令官の言葉には一切の抑揚がない。


 二人を隔てる机の上には数枚の用紙が規則正しく並んでいる。


「グシオスに対抗する軍事費をを国家予算から出せと?」

「全てを負担してくれ、という事ではありません。原材料等の費用は我々が、政府にはパイロットや整備員の人件費等を願いたい」


 ノイマンは額の汗を拭う。

 フラムシティがグシオス軍により壊滅的な被害が出たことは無論知っている。今頃はメディアが必死に市民へ向けてこの事を発信しようと躍起になっているのだろうが。


「今回の一件はもう隠蔽など出来ませんよ。貴方は平和を愛する素晴らしい御仁です。が、そこが貴方の愚かな面でもある」


 この男は痛いところを突いてくる。

 確かに戦闘自体は今回が初めてではない。ここ最近、市街地以外では何度か小競り合いのようなものは起きていた。


 だがそれはノイマンの理想である、「グシオスとの和平」の障害となってしまう。だからこそ、情報操作によって隠し通してきたのだ。


 だが、今回ばかりは…


「…世界平和はもう、実現しないと?」

「貴方は手を差し伸べ続けた。だが、その手を払ったのはグシオスです。……それでも尚続けるのなら、アルギネアは地球儀からその名を消されることになるでしょう」


「君の言うEA(エヴォルヴ・アーマー)とやらは、この現実をなんとか出来ると?」

「………出来ますとも。現在(いま)も、そして」


 総司令官の男は、懐から新たな用紙の束を取り出した。

「これからもね」





「………君は、一体…⁉︎」

 ノイマンはその用紙を見たとき、絶句した。


 



  アクトニウムコア研究資料

  最も永久機関に近い半永久機関の開発を、この研究の終着点とする。

  アクトニウムには生物を死に至らしめる謎の性質がある。しかし、この他にもある性質があることを我々は実験から予想した。

  それは、「あらゆる原子間の結合力及び熱エネルギーを増大させ、それを単体で保持する」ことである。

  この性質を利用した半永久機関「アクトニウムコア」を提唱する。

  アクトニウムを用いた大変危険な計画となるが、健闘を祈る。

 

  ※ 本項目は最重要機密とし、一切部外秘とす

  ※この計画は帝歴51年3月をもち、凍結









  〜グリフォビュート内〜

 

「今、紅茶を淹れてくる。そこに座って」

「うん……」


 ビャクヤはフラフラと部屋にある小さな調理台(見た所水道しかないが)に向かうエルシディアを見送ると、同じく小さな椅子に座る。

 訪れる途中に、エルシディアからいくつかの事情を説明してもらった。


 ここはアルギネア軍特殊任務用陸艦「グリフォビュート」の中であること、今はアルギネアの中心都市「ロンギール」に向かっていること。


 そして、自分達の任務はビャクヤが乗っていた機動兵器を回収するものだったということ。


 何故、一般人であるビャクヤに任務の事を説明したのかは分からない。

 実は口で一般人とは言ったものの、彼女もビャクヤの事をもう事態の関係者と見ているのだろうか。


(でも僕は人を殺してなんか…いや、アリアがやったことは僕がやったことになるのか?それに…)


 自分の左腕に触れる。生々しい亀裂の感触が手に訪れるが、やはり痛みは無い。

 骨折が治っていることについても分かっていない。最早、自分に何が起こっているのか理解が出来ない。


「顔色が悪い」

「え、うわ⁉︎」


 いつの間にか目の前に突きつけられたマグカップにビャクヤは飛び上がった。


「…話を聞いてもいい?」

「あ、うん」


 エルシディアはテーブルを挟んでビャクヤと向かい合うように椅子に座る。


 何の紅茶なのだろう。ほんのり漂う香りは、ビャクヤに心に落ち着きを与えた。


「えっと、僕に聞きたいことがあるんだっけ?」

「……一つ目」

 この温度を持たない声。どこか不思議な雰囲気を感じるとビャクヤは一人考えていた。



「どうして私の名前を知っているの?」

「…‼︎」



 てっきり、あの機動兵器の事などを聞かれると思っていた。が、この質問は逆に厄介だ。

 知っていたのはビャクヤではない。アリアだ。



 何故かは分からないが、安易にアリアの存在を他言してはいけない予感がした。



 何とか誤魔化さねば。


「それは…あのティノンって人が言ってたから…」

「ティノンは「エル」としか呼んでない。それに…」

「そ、それに……?」



「私はフラムシティの戦闘中に、名前を呼ばれたの。女性の声でね」



 鋭い。

 先程から放たれる言葉は、槍で急所を的確に突くように鋭い。


 早くも誤魔化せなくなった自分の脳内引き出しを恨みながら、ビャクヤは黙り込んだ。


「……話せない、と」

「……………」

「通りでティノンがあそこまで過剰に警戒する訳ね。………まあいいわ」


 エルシディアは紅茶を一口飲むと、言葉を続けた。


「二つ目、貴方の名前を教えて」

「えっと、ソウレン・ビャクヤ…です」

「ソウレンが名前?」

「いや、ビャクヤの方が名前」



「…変わってるわね、昔あったニッポンのタイプなの」



 興味深そうにエルシディアはビャクヤに顔を近づける。

 ビャクヤは後ずさろうとしたが、椅子に阻まれる。

「瞳は銀、だけど髪は黒…ニッポンのハーフ?」

「いや、あのさ…」



 エルシディアは立ち上がると、後ろに回り込み、ビャクヤの髪を触り始める。



 余りに密着しているため、ビャクヤの首筋を柔らかい感触が包む。



「特に変わりは無し。一体何が違うのか…?」

「あ…当たってる……以外と大きいの当たってるから……‼︎」

 エルシディアはビャクヤの悲鳴に近い訴えを聞いていない。


「…まあ、今はこれくらいにして」


 エルシディアが離れ、安心したのか残念なのかよく分からない気持ちがビャクヤを襲う。

 気分を紛らわせようと、紅茶に手を伸ばす。

「次の質問は………」


 と、エルシディアは言葉を止める。

 どうしたのだろうかと思いつつ、ビャクヤは紅茶を口にする。


 香りも味もとてもいい。更に気分も落ち着いていき、少し眠たくなってきたが、それも一瞬だった。


「どうしたの?」

「いいえ、何でもないわ」

 エルシディアはそう言うと、部屋を出ようとする。

「少し用事があるの、すぐ戻るから貴方はそこにいて」

「あ…うん」



 エルシディアは扉を閉めると静かに独白した。





「あの睡眠薬…並みの人間なら数秒で昏倒するはずなんだけど」










「大尉、追撃作戦の準備は出来ています」

「了解」

「本当に三人でよろしいので?」

「グリフォビュートが今格納しているグリフィアは現状二機だ。フラムの防衛軍は復興に回されて、グリフォビュートの護衛に回せない。十分」

「今回は新型です。御武運を」

「目標は…アルギネアの新型機動兵器だ。各員、俺の援護を任せる」

「了解」

「了解で〜す」


 そして、陸へ二機の機動兵器、空に一機の機動兵器が戦場へ放たれた。



 続く




( ・ω・)



というわけで6話でした。

5話の後書きのうち、ちゃんと守れたのはいくつあったでしょうか。

EAについてはほぼ分からず、おまけに名前が出た新キャラは大統領のみ。

結果、ビャクヤとエルシディアの絡みしか後書き守ってません。

………ちょっと自爆してきます。


さて、冗談はさておき近い内に機体の紹介を載っけたいと思っています。7話と並行してゆっくり書きます。

ゼロエンドや他の機動兵器の形状もそこで詳しく書こうと思います。本編にねじ込むとまた長くなりそうですし……。

登場人物は…もう少しお待ちを。


それでは、また7話でお会いしましょう。


追記

DDDを全ての召喚法に対応させたら、超量にボコボコにされました(なんの話だ)

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