特別編 アーバインの会話記録
《システム、起動します。バックアップデータをロード。これより再構築を開始します》
『…………誰、なの?』
「お目覚めかな?」
『貴方は……アーバイン? 何故貴方が…………いや、それよりも、何故私がここに……?』
「確かに意識データは削除された。だが、バックアップデータとゼロエンドの中に残されたデータ残滓から君の意識を再構築出来るようにしておいたのさ。コウヤやアリアには内密にしていたが」
『私はもうアリアじゃない。彼女の記憶は指輪を通してビャクヤに全て受け継いだ。もう私に用は無い筈』
「まだ君には役目がある、アリア……いや、ゼロエンド」
『……気づいていたの?』
「コウヤの計画を引き継いだのは私だ。それくらい知っていなければ恥だろう」
『私の…………役目って?』
「本来プロトゼロが遂行する筈だった、アンブロシア計画の真の目的を果たす事」
『真の目的? また天翼を広げろって言うの?』
「あれは失敗だ。濃縮されたアクトニウムが変質を起こす前に暴発した結果の産物」
『じゃあ何を……』
「回収されたEA、ディスドレッドから、これが検出された」
『この、琥珀色の結晶は……!?』
「これがアクトニウムの変質結晶だ。生物を死に至らしめるような激しい活性作用は無い。よって半永久的に増殖もしない。ビャクヤの話だと、コウヤが遺したデータを義手にインプットしてから起きたらしい」
『そんなものが……』
「まだこの物質には未解明な点が多い。だからこうして厳重な容器に保管しているのだが……おかげで開発した新型が100%の性能を発揮出来る」
『新型?』
「ゼロエンドが持つ、本来の性能を全て解放した機体だ。この変質結晶を生成するには新型の力が必要なのだが…………それには新型フレームとゼロエンドのアクトニウムコア、そして……」
『私…………ゼロエンドのAIを搭載した電子頭脳が必要だと』
「ご名答、流石だ。そして、ビャクヤはこれを了承している。残るは君の解答を待つだけ」
『…………今までは、ビャクヤを守る為だと信じて戦ってきた。…………信じてもいいの、貴方を』
「オリジナルの君ならば、決して私を信用しないだろう。幼いビャクヤを取り上げたクラウソラス博士と同だ。私はビャクヤを彼の研究所から救出した後に、アリアの元へ彼を返さなかったのだから。だが、君には君の意思がある。私が憎いのなら、拒否しても構わない」
『私の記憶は、アリアの記憶。私はビャクヤを息子だと思ってる。愛している。…………でも、貴方やクラウソラス博士を憎いと思った事はない』
「……っ。意外な解答、だな」
『クラウソラス博士は私を生み出してくれた。貴方はビャクヤを、影からここまで育ててくれた。何もしてあげられなかった私に、貴方達を怨む資格はない』
「君に何もしてやれなくしたのは私だというのに…………クラウソラス博士も、ビャクヤを──」
『分かってる。ビャクヤに記憶を譲渡する際に見たから。彼は忘れていたみたいだけどね……オリジナルの私は、きっと……』
「別の計画を始動している。アルギネアから奪取した7号機を使ってな……。だが確証がある訳ではない。全てギーブルから提供された情報だ」
『何故……彼はクラウソラス博士の……』
「ギーブルは昔から他人に真意を見せない男だった。おそらくだが、アリアの計画は彼にとって不都合があるのかもしれない」
『……ビャクヤと、エルシディアは?』
「無事だ。エルシディアの方は集中治療を受けているが、命に別状はないらしい」
『……ありがとう、色々と教えてくれて』
「答えは決まったかな?」
『えぇ。もう一度、協力する。それで、その、お願いが、あるの…………』
「何だ?」
『ビャクヤと、お話させて欲しい。ちゃんと、面と向かって』
「フフッ、構わないさ。彼に伝えておこう。……それじゃあおやすみ、ゼロ」
「頼むよ。君達がアリアを止める最後の切り札だ。ビャクヤ、そして…………ゼロ」
《ゼロ・アンブロシアのデータ、AIへインストールを開始します》