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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第6章 終焉の始まり
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第36話(92話) パンデミックの使者

 

「回避しろぉぉぉっっっ!!!」

 ウォーロックが叫ぶのと同時にゴルゴディアスが急旋回。凄まじい風圧をその身に受けながら、ティラントブロスは必死に甲板へしがみつく。


 真横を通り過ぎた触手の正体を確認する。それは内部に群青色の液体が充填されており、先端部には鋭い針が備えられていた。まるで巨大な注射針である。


「あれに刺されたらどうなるか…………いや、考えなくていいか。あんなのにやられたら──」

 直後、更に触手が大挙してきた事を、ティラントブロスのレーダーが知らせた。

 ゴルゴディアスの方でも感知したのか、再び船が大きく揺れる。しかし流石に避けきれず、触手は艦の底を掠めた。

 だが次の瞬間、ウォーロックの耳に信じられないような情報が飛び込んできた。

 [艦底から…………これは、アクトニウム!?]

 [アクトニウムの結晶が……だがゴルゴディアスにはアクトニウム、もといアクトメタルは使われていないぞ]

 [徐々に艦へと侵食しています! 機関部にまで達したら……!!]

 [隔壁を下ろせ。…………まぁ、気休めでもないよりはマシだ。あとは何とかしてビャクヤ君へ連絡して彼を回収…………]

 [攻撃、来ます!!]


 三度艦が急旋回。すっかり通信内容に夢中になっていたウォーロックは、ティラントブロスを踏ん張らせる事を忘れていた。

「あっ、ちょっ、マズイ!」

 気がついた時には既に遅し。甲板から滑り落ちたティラントブロスは真っ逆さまに謎のEAのいる地面へ落下する。


 [馬鹿、ウォーロック!? 何勝手に落ちてんだ!!]

「リムジー黙ってろ!! 落ちちまったもんは仕方ない、このまま彼奴ぶっ倒す!!」

 シールドを両手に構え、様子を伺う。


 落下の衝撃で気がついたのか、ゴルゴディアスへ伸ばしていた触手を一旦戻し、ティラントブロスを睨み据えるEA。ゆっくりと、一歩踏み出した。

「来るか……!?」

 ウォーロックの操縦桿を握る力が強くなる。




 だが、EAは踏み出した瞬間に転倒。立ち上がろうと地面を握りしめるが、再び滑って転がる。




「…………やっぱり、ですか」

 回収のヘリが来るまでの間、ギーブルは7号機──フェロータスの様子を遠方から観察していた。よろよろと立ち上がろうとしては転ぶフェロータスを哀れむようにな目で見つめている。

 その時、自分が外に出るのを待っていたかのように通信が入る。

「はぁい、総司令官?」

 [何処をほっつき歩いているかと思えば……何をしていたの?]

「ま、帰ったら洗いざらい話しますよ。それで……7号機のあれは何です? 貴女がAIに教育を施した筈でしょう?」

 [いいでしょう? フェロータスはゼロとよく似ている。でも、まだ産まれたばかりの赤ん坊なの。仕方ないんだよ]

 我が子を慈しむような表情が、無線機越しにでも分かる。

 兵器は兵器でしかない。そんな考えのギーブルにとって、兵器に愛を注ぐ精神は理解が出来なかった。

「あれが赤ん坊、ね……」

 再び悲鳴のような駆動音を響かせ、フェロータスは立ち上がった。機体は小さく震え、背中から伸びる触手からはアクトニウムが滴り落ちる。



「私には、痛みに苦しんでいるようにしか見えませんが……」




「……さて、そろそろ貴方にも降りて貰うよ、アレン」

 アリアは通信を切り替え、カタパルトでスタンバイしているネヴァーエンドのパイロットへ呼びかける。

 システムをスリープモードに切り替えているせいか中は薄暗く、ヘルメットで隠れた顔からは表情が伺えない。

 [アレン少佐達の任務は、フェロータスの護衛。指定されたポイントまで誘導して。今回はあの子の稼働試験のようなものだから、気楽にね]

 その言葉を聞いた瞬間、アレンのヘルメットの中から歯が軋む音が漏れる。

「隊長……?」

 心配するようなエリーザの声。しかしアレンの耳には届かなかった。


 発進準備完了のコールと共にハッチが開いた。


「……………………」

「エリーザ・ベネトレイ、フィーアバエナ、出ます」

 カタパルトがスライド、2機のEAが地上に降り立った。



「またなんか来たな…………ってか、あの機体なんなんだ? まともに歩けすらしねぇなんて……」

 よろめくフェロータスに動揺を隠せないウォーロックだったが、更に後方へ降り立った2機のEAを見て我に返る。

 [大丈夫かよウォーロック……3機だぞ3機……]

「はっ、問題ないな。そのくらいスペクターが来るまで耐えきってやる……」

 と言いかけたその時だった。


 ティラントブロスの胸部に強い衝撃が走り、大きく後方へ後ずさった。分厚い装甲には大きな焼け跡が刻まれ、煙が微かに上っている。

 [遠方からの狙撃だ。付近に見えねえってことはざっと3、4kmって所か。あの距離からとか化け物だぜ? んで、ウォーロック君、問題はないんだよな?]

 ゼオンからの通信。ウォーロックは歯を噛みしめながら通信機に向かって叫んだ。

「はやく合流しろスペクタァァァァァァァァ!!!」


 通信端末から流れた絶叫に思わず顔をしかめるビャクヤ。ゼオンが言っていた狙撃の正体は、ビャクヤがいる地点からは見えていた。

 広大な平原の中で唯一、少しだけ小高くなっている丘。そこで巨大な狙撃銃を構えたヴォイドリベリオンの姿があった。

 レバーが引かれ、2つある内の前方にあるリボルビングが回転。次弾が装填される重苦しい音が耳に伝わる。

「早く行かないとウォーロックが死ぬな……」

 ビャクヤは移動用のバイクの速度を上げる。流石にバイクの走行音を拾えるような距離ではない。無事にヴォイドリベリオンの横を通過する。


 しかしその時、両軍に衝撃が走った。



 フェロータスが突如前進を止め、ある一点を睨み据える。



 平原を疾走する、ビャクヤのバイクだった。



「エリーザ、あの機体どこ見てんの? バグった?」

「バグ……? EAに搭載されたAIにバグが発生するのかしら……?」

「いや……!!」

 様子がおかしいことに気が付いたアレンが機体を先行させる。

「隊長!?」

 慌ててエリーザも後を追う。


「こっちに気が付いてる!?」

 嫌な予感が脳裏を過ぎったビャクヤは更に速度を上げる。

 だがフェロータスは背中の武装を、あろうことかビャクヤ目がけて撃ち放ったのだ。

「くっ!!?」

 次々と地面に突き刺さる触手。

 何とかバイクを蛇行させて躱し続けていたが、やがて触手の1本がバイクの近くを穿った。衝撃で投げ出されたビャクヤはギリギリのところで受け身を取る。しかしそんな中でも触手は容赦なく襲い来る。


 避けようとするビャクヤ。だが触手によって増殖したアクトニウムは空気に満ちていき、ビャクヤの左腕は激しく出血。眩暈も引き起こされる。

「これは、一体……!?」

 遂に膝をついてしまうビャクヤ。それを待っていたかのように、フェロータスの触手が迫る。



 次の瞬間ビャクヤの耳に届いたのは肉を貫く音ではなく、何かが切断される音だった。


 僅かに開いた目に見えたのは、ゼロエンドとよく似た漆黒の機体がフェロータスに組み付いている光景。

「あれは……黒い、ゼロ……」


「……!!」

 頭の中で否定する。あそこにいる青年の姿を、ある名前と重ね合わせないように。

 だが遅れて届いた通信でそれは否定される。

 [やっぱり、彼に惹かれるのね。中のパイロットの所為かしら。……指令よアレン。ビャクヤを守りなさい]

「ビャクヤ……何故生きて……」

 [薄情な子。昔会った事があるのにもう忘れているのね]

「そんなことはどうでもいい!! 7号機はお前が調整したんだろう!? こんな欠陥機を──」

 [欠陥機? 欠陥品の貴方が言える事? いいから命令に従いなさい。……スティアとも、お別れしたいのかしら?]

「……っ!!」


 ネヴァーエンドのパワーは容易にフェロータスを押し返した。衝撃に驚いたのか触手を背中に戻し、地面を這いずり回る。

「こいつ、まだ……」

 フェロータスはビャクヤを求めている。

「エル……どうしてそこまで、ビャクヤを……」

 呆然と立ち尽くしていた時だった。


 ──キィィィィィィィィィィッ──


 泣き喚く様な駆動音と共に体を反らせ、触手を全方位へと発射。ネヴァーエンドだけでなく付近にいたフィーアバエナやティラントブロスをも薙ぎ払おうとする。

「なっ!? 一体何が……!?」

「うぉぉっ!!」

 触手に触れまいと、ウォーロックはティラントブロスを後退、エリーザはフィーアバエナを高く跳躍させた。触手はそれぞれの盾、戦闘棍を掠める。

 すぐに異変が生じる。


 掠めた部分から、徐々にアクトニウムの結晶が生長を始めたのだ。


「やられたっ、クソッ!!」

「これじゃ使い物にならない……!」


 エリーザはすぐに戦闘棍を投げ捨て、ウォーロックも結晶が生え始めた右の盾をパージする。


 尚も泣き叫ぶような駆動音を響かせるフェロータスは、這い回るような動きでビャクヤを追おうとする。そこへまたネヴァーエンドが立ち塞がり、背部から伸びたテールバインダーを首に巻き付ける。それでもフェロータスは懸命に、ビャクヤへ腕を伸ばす。


「どうして、俺を…………」


 《緊急状態を確認しました。EAをオートモードへ移行。義手の位置座標までの転送、開始》

 突然ビャクヤの右腕がシステム音声を発する。いつ搭載されたのかビャクヤは知らなかったが、空を見上げた時、そんな疑問は消えた。


「心配性だなぁ、ゼオンさん……ありがとう」



「何だ……!? 空から機動兵器の反応が──」


 アレンが気づいた瞬間だった。


 空から振り下ろされた斧槍がネヴァーエンドのテールバインダーを切断。更に胸部を蹴りつけられ、大きく後退する。

 拘束から解き放たれたフェロータスはビャクヤの元へ駆け寄ろうとするが、銀色の腕に頭部を掴み上げられ、空中へと放り投げられた。


「…………行こう、ディスドレッド」

 ディスドレッドは静かな排気音で応え、パイロットを自らの胸に迎え入れた。



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜


「貴方に会いたい」


たとえどんな姿になろうと、どれだけ時が経とうと、絡み合った運命の糸を手繰って、私は貴方に会いに行く。

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