ニーナ・パナケイア
ニーナ・パナケイア。それが私の名前。職種は僧侶見習い。家系の影響でそれしかなれなかったと言うこともある。
私の家系はユークリッド王家に使える王宮治癒魔法士。でも私にはお父様やお母様のような、素晴らしい治癒魔法士にはなれない。
厳しい言い付けを守り、これまで必死に努力しても結果は変わらなかった。
私はパナケイア家の恥なんだ。幼い頃からずっと魔法の練習をしてきたにも関わらず、使えるのは初級治癒魔法と解毒魔法だけ。
両親は早々に私を見限り、妹を溺愛した。妹は私と違って才能に満ち溢れていた。
今では王宮治癒魔法士筆頭として、母の後継として期待されている私とは大違いの妹。
ある日、子供には余る大金を持たされ、パナケイア家から事実上の絶縁を申し渡された。
僅か14歳の子供がたった一人で生きていくと言うのは、あまりにも過酷な現実だった。
そんな時、ユーリ君に出会った。彼はお世辞にも善人とは程遠い外見をしていた。
目つきは怖いし、口も悪いし、なによりめんどくさがりやだった。
それでも、彼は私を救ってくれたんだ。
自分自身、今日の食事すら危うい生活をしているというのに、世間知らずの私にあれこれ世話を焼いてくれた。
「せっかく魔法使えるんだから、冒険者になったら?」
そんな彼の一言で、私は冒険者になった。
別にお金なんて欲しくなかった。地位や名声なんて欲しくなかった。
私はただ、いつも傷だらけの彼の支えになりたかった。
それだけだったのに―――。
「はぁ? いくらなんでもこれはないだろ?」
「魔法もダメ、剣もダメ。ただの荷物持ちなんていらないでしょ」
こんな私をパーティーに誘ってくれた戦士のジグ君と魔法使いのダリア君。
とても優しくて、いい人だと思っていた。だからユーリ君もパーティーに誘おうと紹介したんだけど、彼を見た二人の第一声は侮辱の言葉だった。
少しでもユーリ君の支えになれればと思って紹介したことが裏目に出た。
その時私は、サポーターがどんな扱いを受けているか知らなかった。
「なんだよ。お前も結局一緒か」
あの時の言葉と、ユーリ君の目は忘れる事が出来ない。
全てを諦めたような、何も感情の映っていない冷たい目。
違うと否定した。私は本当にユーリ君の力になりたかった。
「仲間が出来たんなら良かったじゃん。俺みたいな役立たずと組んでくれてありがとう、ニーナ・パーシバルさん。お世話になりました」
それからユーリ君は一言も喋ってくれなくなった。
目も合わせてくれなくなった。
話しかけようとするとすぐにいなくなってしまうようになった。
私はただ―――謝りたかっただけなのに。