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在る男の再生、あるいは転換――  作者: ゆきのいつき
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9 理由

 嵐のような理事長室訪問をなんとかこなした俺は、次なる試練の場、教室へと向かうことになった。


 この神坂学園は富裕層の温室育ちの子女が通う、いかにも金持ち校らしいシステムが採用されていて、幼年部は別として、小学部が1年から6年、中学部は7年から9年、そして高等部の10年から12年へと進んで行き、当然その先の大学へも試験無しで進学出来、更には大学院への道まで用意されているっていう、まさに至れり尽くせり苦労知らずのぬるま湯システムだ。ま、もちろん全部が全部、中身のないぼんくらばかり……だとは言わないがな。ごく一部のマジもんのエリートは権力かねに物言わせて怖いばかりの実力者になることもあるからな。(俺も男の頃は散々煮え湯飲まされてきたから笑えない)


 ま、とは言うものの、へたすりゃ俺もそんな奴らの仲間入りってことになる(どっちの仲間になるかは、まだ想像もつかないが……)から、ぬるま湯に浸りきらないよう気を付けたいもんだ。


 この際、それもいいのかもしれないが……。


 なんか話が脱線しまくったが、そんな訳で小さな女の子になってしまった俺はなんとも虚しいことに7年生(世間一般で言うところの中一だ)からのスタートとなり、自分の入るクラスに立ち向かうべく、おばあ様が呼び出した、俺の担任になるって女性の先生に教室へと案内してもらうことになったわけだ。


 別れを惜しむおばあ様や摩耶姉さんを無視しかとし、俺は先生に早く行こうとばかりに先を促して、理事長室を後にした。(いやマジ、赤の他人、しかも男だった俺になんであそこまで執着するんだって話だ、勘弁してくれ)


「神坂本家の方が今頃編入してくるだなんて珍しいですね。カナンさんは摩耶さま……、いえ、摩耶さんの妹さんってことですけど、その……」


 担任だという先生(名前は咲川未希さきかわみきって紹介された)は、斜め後ろに付いて歩いてる俺をチラチラ見つつそんなことを言う。ふっ、なんとも俺と摩耶姉さんの関係を知りたいことが見え見えで、あからさまな態度に俺はある意味すがすがしさすら覚えた。

 ま、俺の姿見たら素直に姉妹だなんて思えないよな、やっぱ。先生の驚きようったら半端なかったし。それに神坂本家の家族構成だって周知の事実だろうし。


 まあいい、それならそれで摩耶姉さんが父親と考えたっていう設定を話すまでだ。思わず引いてしまうくらいの勢いで嬉しそうに俺に言って聞かせてくれたからな、使っておくさ。


「えっと……先生?


 私、実は養女なんです。


 遠縁の分家筋の両親と三人で暮らしてたんですけど……その、両親とも急逝してしまって。

 家は神坂の分家といってもごく普通の家でしかなくて……、私こんなだし、一人ぽっちになってどうしたらいいか分からず途方にくれてたんです。


 そんなときに、摩耶姉さんに声をかけてもらったんです。

 ……私、目立つし浮いちゃってたから……摩耶姉さんも気にかけてくれてたみたいで、だから……」


 しかしまぁ、よくここまで嘘で塗り固めた話、作るよな。自分のことながら呆れる。


 俺の話にしばしぼかんとした表情を浮かべる咲川先生。元々、少しばかりとろそうな顔が更に抜けて見える。まぁそうは言っても十人並程度には美人で背もそこそこあり、悪くはない容姿なんだが、姉さんみたいな超美人の前じゃかすんじまうな。


「ご、ごめんなさい。何だか突っ込んだことを話させてしまって。

 辛い思いしてきたのね、カナンさん。まだそんなに小さいのに……」


 むぅ、別に小さい=幼いってわけでもないんだけどな……。だいたい中学部に入ってる時点で13歳だっつうの、ったく。見た目に思いっきり影響されてるんだもんな、この先生。


「いえ、その気にしないでください。疑問に思われるの、当然ですから。私、こんな見た目だし……、やっぱおかしいですよね? 13歳にもなって小学生みたいな身長で、ましてやこんな髪や目で……」


 聞かれる前に先手打ってこっちから言っておく。どうせ聞きたくてうずうずしてるんだろうし、今先生に話しておけば後々楽だろうしな。

 案の定、先生は興味津々といった感じで俺のことを食い入るように見て来る。さっきまでのチラ見とはえらい違いだ。


「これ生まれつきなんです」


 俺は、背中に届くまでに延びた自分の白に近い銀髪を手ですくい上げながら言う。

 抵抗なくサラサラと零れ落ちていく髪。

 我ながら綺麗な髪だと思う。手入れは毎日大変だけど、摩耶姉さんからは肌のケアと共に髪の毛についてもくどいくらいにスパルタ指導され、いい年したおっさん(見た目はどう見ても女の子とは言え、中身はおっさんだ)が結婚適齢期の20代半ばの娘さんと、い、一緒に風呂に入って、シャンプーだのトリートメントだの……髪の洗い方を一から指導されてるから……手も抜けない。いや、俺は断ったんだぞ? 向こうだって俺が元男だって知ってるんだし。


 だのに摩耶姉さんってば――、


 不可抗力……だから、ね?(でも姉さんの体はやっぱ色々反則だった……、そしてバッチリ見てしまった)


 けど、その甲斐あって艶々サラサラ、透き通るかのような……、マジ綺麗な髪に仕上がってる。


 ――前の俺とのギャップがひどすぎて泣ける。


「私はれっきとした日本人で、ハーフでもないです。アルビノとよく勘違いされるんですけど、別にそうでもなくて……。

 隔世遺伝では? とかも言われてるけど、先祖にそんな人が居たのかどうかもはっきりしないし、他の親族に私みたいなのが居たって話も聞いたことがないって。……不思議ですよね?」


 原因不明なんです。とアピールし、上目使いで先生の顔を窺い見る。

 我ながらここまでよくやる……。


「ぐすっ、カナンさんの事情はよーくわかりました。いずれにせよ、当主様に認められ、正式に養女となられたわけですから……本当、よかったですね。

 この学園は一貫教育ですし、今の時期にこうやって転入してくることも稀ですから、中々馴染みにくいかもしれませんが……、先生も協力するし、がんばって楽しい学園生活を送ってくださいね」


 目に涙を浮かべなながら俺を励ましてくれる咲川先生。

 なんだか色々と……、ちょろい。

(俺、小さくて弱々しそうな見た目と違って、全然したたかなんですよー)


 ま、先生味方に付けておけば何かと融通きくし、結果オーライだけど。

 そもそも俺、養女とはいえ神坂家の人間なんだから、先生が心配するようなこともそうはないと思うけどな。


「はい、がんばりますのでよろしくお願いします!」


 俺はすっかり慣れた自分の武器かおを使い、先生に止めの一撃を放つ。先生は顔を赤くして黙り込んでしまった。(ちょっとやりすぎたかな?)


 そんなやり取りを交わしつつ、俺たちは目的の教室までたどり着いた。


「カナンさんの教室はここになります。中学部の校舎の3階だからちょっと遠いけど、がんばって通ってくださいね。

 それじゃ先生先に入って皆さんにお話をしますので、呼んだら入って来てください」

 

 そう言って時計を気にしつつ教室の中に入っていく咲川先生。

 先生のくせにちょっと遅刻だな。ま、原因は俺だけど。


「7-Aね……。はぁ、まじ学校に通うのか……、面倒くさいなぁ」


 俺はもう今更のことを性懲りもなくつぶやく。


 だってさ……、ほんと、今更なんだもん。


 ……!


 っておい、だもんってなんだよ、だもんって!


 ああもう!

 俺、自分で自分がわからない。イライラする、変になりそう。


 俺は学園のいかにもお嬢様っぽい制服に包まれた小さな体を両手で抱きかかえるようにし、身もだえた。


 そんな小さな体が余計、俺の気持ちをざわつかせ――、


 すぐ先生に呼ばれ、教室に入ったものの、終始不機嫌ずらでぶっきらぼうな対応をとってしまった。


 我ながら大人げない行動だった――、


 と、


 後になって反省した俺だった。



話がなかなか進まないのは作者の仕様です。

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