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在る男の再生、あるいは転換――  作者: ゆきのいつき
7/31

7 進路

 俺が今住んでいるのは首都圏でも外れに位置するとある閑静な住宅街の一角に建つ、場違いといってもいいくらいに豪勢なマンションの最上階だ。当然フロア全てを占有してるわけだが、俗にいう億ションっていうやつで、しがない庶民の一員だった俺には想像もつかない、金持ちとの格差をいやでも感じさせられるなんとも嫌味なマンションだ。

 摩耶姉さん……は一族から離れてこのマンションに一人で暮らししてたらしいんだけど、ここはそんな一人暮らしの女性が住んでても不用心さのかけらもないセキュリティの万全さも売りだってことで、24時間フルタイムの有人管理に、ダブルオートロックシステム。更にはどこぞの高級ホテル並みに充実したコンシェルジュサービス、他にもスタッフとしてポーターにドアマン、当然警備員も揃っててマジ、乾いた笑顔しか浮かんでこない。


 そんなところにぶち込まれて早、二週間が経とうかってところである。


 ま、俺も元は40代の男だ。いつもまでも現実逃避ばっかりしてても仕方ないと腹をくくって今のこの現状を受け入れようと……努力はしているわけだ。なんだかんだ言って全て人の世話になってるわけだし、そもそも今の俺の体はどう見たって子供。世間一般的にいえば守られる立場、弱者なのは間違いない。実際つい最近までリハビリしてた俺は、まだまだ世の同年代の女、子供に比べれば相当に体力的に劣っているのは紛れもない事実だ。

 そんなことから、俺は神坂家お抱え運転手付き豪華絢爛リムジンでの通学を当然とばかりに摩耶姉さんに申し付けられ今に至る。


「えっと、その、山崎さん。わざわざ迎えに来てくれて、あ、ありがとうございます」


 俺が姉さんに半ば引っ張られるようにしてそびえ立つマンションのエントランスまで降りてみれば、車寄せポーチにはすでに黒塗りのリムジンがどーんといて、俺と姉さんが近づくと長いボディの中ほどにあるドアがすっと開いて俺たちを招き入れてくれた。

 すでに何度かは乗せてもらってはいるのだが、そう簡単に慣れるものでもなく、俺は緊張感ただよう声で、運転手の山崎さんにそうお礼を言った。ちなみに山崎さんは自衛官も真っ青な厳つい体で、刈り込んだ髪が更にそんな見た目を強調してる。身長も180cmを越え、なんか運転手にしておくのがもったいないくらいの男だ。しかもそれでいて顔はさわやか系イケメンで、きっと昔の俺と違ってさぞや女にもてることだろう、ふん。


「お嬢様、使用人たる私にさん付けは不要です。山崎とお呼び捨てください。それにお迎えに上がるのは神坂家で摩耶さま付の運転手を任されている私には当然の仕事です。今後はカナン様も同様でございます。ですのでそのような丁寧なお礼をしていただかなくても結構ですので」


「そうよ、カナン。そんなことじゃこの先家の使用人たちに何かしてもらうたびにお礼言うはめになるわよ? だから早く慣れちゃいなさいね?」


「う、うん……、わかった。ど、努力はする」


 山崎さんに続き、姉さんからもそう言われ、俺はとりえずそう答えた。

 が、40年間、見た目の悪さから卑屈になることも多かった俺にとって、ことはそう簡単じゃない。いくら国の名だたる研究機関で働いていたとはいえ、ただの一般人だった俺にいきなりこんな上流社会の生活を垣間見させられても対処に困るって。


「ふーん……、ま、いいわ。じゃ、山崎、出してちょうだい」


 姉さんのその言葉に軽く会釈を返し、山崎さん……、えと、山崎はリムジンを静かにポーチから出した。なんかやたら静かで不快な振動とかもなく、これ動いてんのって乗り心地で俺にとってはなんとも居ずらい空間だった。


「でもさ、ね、姉さん。

 やっぱ一緒に来るの? それに俺、別にこんな送り迎えしてもらわなくても自分で学校くらい行けるのに」


 運転手との間にスーッと透明な壁が立ち上がり、前の席と完全に遮断されたプライベート空間が出来た後、俺は摩耶姉さんにそう話しかけた。


「カナン、コ・ト・バ。また俺って言ったわよ、気をつけなさい?


 それに当然私も一緒に行くわ。

 大事な妹の学校デビューなんですもの、行かないわけないじゃない。


 ついでにもう一つ。

 カナン、あなたまだ自分のこと良く理解出来てないようだから言っておくけど……、あなたの見た目で一人で学校まで行くなんて自殺行為も甚だしいわ。


 いい?


 あなたほど浮世離れした容姿で街を歩いてごらんなさい、周りで騒がれるだけならまだしも、間違いなく・・・・・、いらないちょっかい出してくる不埒な輩が出るのは間違いないわ!


 カナン。


 ほんとにくどいようだけど、あなたはもう40越えの男性じゃない。小さくて華奢な、それはもう可愛らしい、超がついちゃう美少女で……、ふふっ、私の妹。しかも銀髪赤目、とんがり耳なんて特殊なね?


 それをしっかり認識してちょうだい」


 返ってきた言葉に俺はもう二の句が継げない。


「うう、その、でも……」


 もっともなだけにまじ返す言葉がない。

 華奢って言ったって……、変なやつらとか、からんで来ても撃退してやる自信は十分ある。けど……、さすがにあの力、外で使っちゃまずいか――。


 うーん。

 

 俺が言い淀んでいると摩耶姉さんが止めに言う。


「そもそも。今日から通う学校で、神坂家の人間が徒歩で通うなんて在りえませんからね。


 あきらめなさいな?」


 そう言った姉さんの顔はなんとも意地の悪い笑顔に包まれていた。


「はうぅ……」


 俺はもう深くため息をつくしかなかった。

 が、そんなため息まで何気に可愛らしい声で、更に俺は落ち込んでしまうのだった。





 俺が通うことになった学校は、マンションから車で30分ほど山側に向け走った先にある、それはもう、しっかり山の中って言っていい場所にあり、そんな山奥に似つかわしくない壮大な……まるで学校とは思えない威容を見せていた。


「ほえー」


 俺は思わずばか面をさらし、素っ頓狂な声を上げる。(うん、山崎……に、聞かれなくてよかった)


 事前に簡単なパンフレットを見せられ、わかっていた……はずなんだが。


 な、なんだよ、これ。

 さっきからずっと壁しか見えない。車で走ってすらこれである。


 こんなとこ、はなから徒歩で通うの無理じゃね?

 俺は今更ながら自分の浅はかさを思い知った。と同時にそれを教えてくれなかった姉さんに軽く殺意を覚えた。うん、でもそれはきっと仕方ないことだ。


「どう? ここが私立神坂学園。


 幼年学校から大学院まで一貫した教育を受けられる、学園都市っていっていいくらいの規模を誇る学校施設でね、おばあ様が理事長をなさってるの。もちろん、後で紹介してあげる。


でね、私もここに通ってたのよ」


 摩耶姉さんが嬉々として、そして誇らしげにそう俺に説明する。

 そう、名前からもわかると思うがここは神坂財閥の系列、神坂家の親族が経営する学園ってことで、今の話にもあったように理事長は摩耶姉さんのお祖母さんなんだそうだ。

 親族経営だし、きっと相当つぶしも効くんだろうし……、ある意味俺みたいなやつを放り込むにはちょうどいいってとこか。


 考えごとをしてるうちにようやく壁が途絶え、目の前に見えて来たやたらばかでっかい校門をさも当然のごとく通り抜けるリムジンから外の様子を窺いつつ、時折すれ違う……これも高級車であろう車たちを目で追う。


 ここ、みんなこんな車で送迎されるような奴らが通ってるんだろうなぁ?

 寮もあるって聞いてるけど……。


 それにしてもなぁ。

 

 なんか面倒くさい展開になる……、そんな未来しか見えない――。



 これからの学園生活を思うとマジ、憂鬱な気分に浸ってしまう俺がいるのだった。



このお話は99%、いきあたりばったりでお送りしております(笑

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