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在る男の再生、あるいは転換――  作者: ゆきのいつき
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6 内情

 まあここまで来るには紆余曲折あった。


 まずは、なんとかベッドから自分で起き上がれるようになった頃。一つの壁にぶち当たった。


 そう女の体についてだ。


 動けないうちは良かった。(良くないが、ちょっと意味が違うぞ)小さくなったことも含め、もちろん大問題には違いないのだが動けなきゃどっちでも一緒だからだ。


 ああ、思い出すだけでも恥ずかしい。いい年したおっさんがなんであんな目に――。



 俺の世話は主に神坂女史の助手、村野って女の人がみてくれたんだけど……、これが結構くせのあるやつだった。


「雫石さん、今日でカテーテル外しますのでちょっと失礼しますね」


 村野さんはそう言いいつつ、俺の返事も聞かずにがばっとシーツをめくり、俺の下半身を露わにした。寝たきり患者の身、前開きの患者服しか着ていない俺は無防備極まりない。


「あ、ちょっといきなり」


 俺は一応抗議したがもちろん聞き入れられるはずもなく。

 患者服の前もあっさりはだけられ、当然パンツなんて履いてない俺の大事な所が白日の下にさらされた。うう、なんたる屈辱感。(とはいってもそこは清潔に保つため、毎日蒸タオルできれいにしてもらってたから……今更ではあるんだが。


 が、やっぱ恥ずかしいものは恥ずかしいのである。


 股間(はっきり言えば尿道だ)からゆっくり引き抜かれる、カテーテルの感覚といったらもう……。


「ふふ、かわいらしいお股さんね。

 

 雫石さん……。


 どうですか、今の体になったご感想は? こんなきれいで可愛らしい女の子になれるだなんて。それに30歳以上若返ったんですもの、なんだかうらやましい……」


 村野さんはなんとも言えない表情を浮かべながらそんなことを言い、俺の股間をじっと覗き込んだかと思うと、あろうことか指先でツンツンしやがった。……どこをなんて聞かないでくれ。


「あっ」


 反射的に妙な声をだしちまった、く、くやしー!

 体の感覚もしっかり戻ってというか、はっきりしてきたから、そんなとこつつかれたらどうしても反応してしまう。


「もう村野さん、勘弁してくれって。俺だって好きでこんな体になったわけじゃない、いじめないでくれー」


 赤く染まった顔で俺は再度抗議した。村野さん自身、大したこだわりは無かったのだろう、肩を軽くすくめた後は、はだけた患者服をきっちり直してくれ、シーツもしっかりかけてくれた。


「しばらくしみると思いますけど我慢してくださいね。

 それとデリケートなところなんですから、いつも清潔にすることを心がけてください。男性の時の感覚のままでは絶対だめです、注意してくださいね!」


 さっきの行動はなんだったんだ? ってくらい楚々とした態度で俺に向かってそう言った村野さん。


 もうわけわからん。


 そんな訳で、俺の女の体初体験はなんとも恥ずかしい出来事、いや行為から始まった。

 その日からはトイレとかも自分で行くように言われた。もちろんまだしっかり歩けるわけじゃないから車イスのお世話になるわけで、人の手をまったく借りないわけでもないが、少なくとも自分の意思でしっかり用を足すことが出来るよう練習することが大事ってことだな。

 しかし……、大はともかく小の方は男の時とあの辺の構造がかなり違うからか、なかなか思うようにいかず、漏らしちまう……なんてことも恥ずかしながら幾度か体験してしまった。


 村野さんはそんな俺を叱ることもせずただ黙々と後始末してくれた。


 ほんと、面目ない――。


 

 こんなことから俺は自分がほんとに女の体になってしまったということを身をもって体験してしまった。

 見慣れた男のシンボルはもはやなく、つるりとした股間があるのみだった。


 ずっと女なんかに縁のなかった俺は女のあそこをまじまじと見ることも、ましてや、その、男女の行為に及ぶことも片手くらいしかなかった。(もちろん素人じゃない方だ)

 そんな俺が今や女になってしまっただなんて。(まぁとはいっても子供だが)


 肌だって前の全身毛だらけの見苦しい体から、ばかみたいに白い、柔らかな肌になった。あの村野だってやたらベタベタさわっては「うらやましい……」なんてつぶやくほどだし、髪の毛も日本人にあるまじきほとんど白にちかい銀髪でしかも艶々さらっさらで、指を通してもどこにも引っかからない。男の時の俺のばっさばさの髪とは比べることすらおこがましい。

 目の色は気持ち悪いくらい真っ赤で、血の色が透けて赤っぽく見えることがあるっていうアルビノの目……とも違って、ほんとうに元から赤い。

 そして止めがとんがった耳だ。エルフ耳だってつい思ってしまったが……これはやはり、他のみんなが死んでしまう要因となった獣人化のなごりなんだと思う。なんの耳かしらんが、動物にはよくあるからな、先端がとがってるなんてことは。うん、そう思っておこう。


 でも客観的に言って……、俺、目立ちすぎ。

 可愛くなったのは正直(元醜男としては)、ちょっと……いや、かなり、うれしいけど。


 これはない。ここまでくると生きずらい。


 

 人生何があるかわからないって言うが――、

 この先どうなるか……、マジで、すっげー心配だ。心配すぎる――。




 ってな感じで自分で自分に愕然とする、そんなことの繰り返しの施設生活を送ってた。

 ま、多少・・事件もあったけど……、それ以外はリハビリと検査の繰り返し。なんともつまらない、退屈な時間だったな。


 そんな俺の今後の扱いをどうするかっていうことで、結構上ではもめたらしい。

 当然その中には施設内から俺を出す、出さないってことも含まれる。


 そりゃそうだ。

 

 こんな気味悪い体、未だ変化した原因もつかめない、こんな怪しい奴を外に出していいのか?って考えるのは当然のことだろう。(実際ちょっと危険な奴でもあるしな。主に俺の能力的に)


 そこに真っ向から立ち向かったのが神坂女史だ。


 細菌感染の心配に関しては実験や調査、測定結果を元に理詰めで説得。

 外見的なことから、教育も必要とか。(中身はおっさんだが、見た目的に子供は学校に行けと、そういうことだ。ま、俺の灰色の脳細胞にかかれば、今更勉強なんて無意味だがな)

 施設内に閉じ込めていてもすでに調べることは調べ、新たに調査することもない。そもそも本人も協力的だから必要な時はいつでも呼べる。

 そして、外に出す際身元保証が必要と言うのなら自分がその保証人になる! と、そこまでおっしゃったそうな。


 ありがたいが、何ゆえそこまでと俺は思った。

 ま、今となってはそれを十分体感してるが――。



 ちなみにだが。(これが一番って話もあるが……まあ言いっこなしだ)

 

 神坂女史は国でも有数の資産家の娘さんなんだそうだ。で、そのお母さんのお父さん。要は祖父さんだが、そいつもまた有力な政治家でその方からも大そう可愛がられているらしい。


 何が言いたいかというとだな。



 しっかり神坂女史の言い分が通り、



 晴れて俺は自由の身になったってことだ。



 やっぱ世の中、金か? 金なのか!


 

 

 ただ自由の身ってのはちょっと違うか。

 外に出してもらえたのは間違いない。ただし、それは保護するものが居ての話。そしてその保護者が誰かってのはもう言わずもがなだよ、な。



 当然俺は神坂女史の元に引き取られることとなった。

 それも単純に預かるってだけじゃない。


 神坂女史やつは俺の予想のはるか斜め上をいくことを実行しやがった。


 あろうことか俺は神坂家の養子(いや女……なんだから養女か)として引き入れられ、立場的には神坂摩耶の妹ということになった。そもそも養子縁組するにしたって、俺の戸籍はどうしたんだって話なんだがそれはきっと突っ込むことすら無意味なことなんだろう……。


 やっぱ世の中……金が全てだ、ちくしょうめ。


(ま、今や俺もその金持ちの端くれに入っちまったわけだが……)



 で、結論。


 雫石河南(40歳、独身、もちろん男)は死んで、墓の中。(中身は当然無し)


 そして……、今の俺の名は、神坂カナン。

 カナンの名前は俺としてはどうでも良かったが神坂女史が響きがいいと、カタカナ表記にしてそのまま残した。

 戸籍上の年齢は13歳。(120ちょいの身長でこれはかなり無理があるが、今更か……)

 もちろん、女だ。


 まだ俺の両親となる人たちとは会ったことすらない。いいのかそれ。

 話は通してる……らしい。つか、そうでなくては俺、困るわ!



 兎も角!

 そんなこんなで俺は神坂摩耶の妹としての立場を得た。バックには国内有数の規模を誇る神坂財閥が控えてる。やだ、こわい。




 当然のように中学に通わされることになっちゃうし。

 しゃべり方だって女言葉でしゃべるよう、しつこく言われるし。

 立ち居振る舞いもしっかり仕込んで、女として自然と振る舞えるよう、その辺の女なんかに負けないようにする、なんて脅されるし……。



 通わされる中学にしたって、そこはいわゆるお金持ちの嬢ちゃん坊ちゃんが通う学校なわけで。



 俺……、どうなっちゃうんだろ?



「カナン~、迎えが来たわよー、山崎待たせると後が怖いよー、ほれ急げ!」


「あ、はい! 今行くー」


 やばいやばい、迎えの車が来たみたいだ。


 俺うまくやってけるんだろうか?


 俺はまだまだ着慣れない、着せられてる感バッチリの中学の制服を着る自分の姿を姿見に写して見る。丸エリの白いブラウスに細身の赤いリボン、腰をきゅっと絞られた紺色のジャンパースカートにボレロって奴を羽織り、止めはえんじ色したベレー帽だ。


 なんだこれ、かわいいぞ……。


 不安げな表情でこっちを見てる銀髪赤目の、憂いを帯びた華奢な女の子。


 今の俺の姿――。




 ふ、


 ふ、


 ふ、不安だー!


 

結局前話からほとんど時間が経っていないという事実www

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