4 把握
は?
俺はしばらく現実を受け入れることが出来ず固まってしまった。
鏡に映ってるのは女の子。
で、鏡の前に居るのは俺だ。俺は四十越えの髭もじゃのおっさん。
でも鏡に映ってるのは女の子。
うがー!
し、しかもだ。ただの女の子じゃない。
そのなんと言うか……、
超絶かわいい美少女だ。
そしてよくよく見れば、色々おかしい!
いや、そもそも俺が女の子に見える時点でおかしいわけなんだが――、
なんだよこの耳~。先っぽ尖ってるぞ!
ま、まるでファンタジー小説に出て来る……そう、え、エルフみたいに。
やったら肌の色白いし、目だって……なんだこの色、真っ赤って、あ、ありえないだろ。
髪はこれ銀髪か? ほとんど白に見えるけど……、まるでアルビノだな。
大体エルフってファンタジー小説での架空の生き物だよな。実在するものじゃないよな?
つうか俺って、雫石河南だよな? 間違いないよな?
ああくそ、もうわけわからん!
俺は無理矢理やる気を取り戻し、鏡を差し出してきたヒール美女をまだほとんど動けない体ながらも睨み付ける。そして唯一元気な口でもって攻撃する。
「お、おい! これは一体どういうことなんだ?
なんだよこの耳、この髪、この目ん玉。っていうか、そもそもなんで女の顔なんだっ!
もちろんきちんと説明してもらえるんだろうなっ?」
気合入れて凄んでしゃべってるはずなのに、俺の口から出る声が全てを台無しにしてくれる。ったく、なんて可愛いらしい声なんだ、俺。
でも鏡を見てそれにも納得してしまったよ……くそぉ。
「ふふっ、相当混乱されてますね? 雫石チーフ」
ヒール美女が久しぶりに耳にする俺の名を呼んだ。
良かった~、やっぱり俺は俺で間違いないのかー。っておい! それで安心するなよ俺。
「あ、あ、あんた、俺が雫石だって知ってるんだな? 俺は俺で間違いないよな?
じゃ、俺のこの顔は何なんだ?
一体全体どういうことなんだ?
なんでこんな顔になってるんだ?
もったいぶらずに早く説明してくれ!」
俺は矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。
普段の俺では考えられないほどの狼狽ぶりだ。しかもこんな美女を前にしてである。今までだったら萎縮してまともに声すらかけられなかったはずだ。
「そんなに興奮してはお体にさわりますよ? まだ体が安定して間もないのですから……冷静に、お気を静めください。
お慌てにならなくとも、今からきっちり説明させてもらいますので……、ね?
それから私、神坂摩耶と申します。
先般の事故により結成された対策チームで医療方面のチーフをしていますわ、以後お見知りおきくださいませ」
「あ、ああ、うん。わ、わかった……です」
美人にまじめな表情でそんな風に言われたもんだから、俺の盛り上がった気持ちは一瞬にして消し飛んでしまった。ああ、やっぱ俺だなぁ。
それにしても今の話の中にも軽く聞き流すことの出来ない言葉があったように思える。とは言うものの今はマジ、現状把握が最優先事項だ。
「だから、その神坂さん。早いとこ説明の方頼みます……」
俺はもう、きっと涙目に違いない。なんか涙腺ゆるくなってたまらない。
「はい。
ではお体のこともありますから時間かけず、まずは簡単に概要だけ……」
そうして聞かされた話は俺の精神を崩壊させるに足る、すさまじく衝撃的な内容だった――。
まずは俺の研究チームは全滅した。
俺を除いた全員、十六名が……死亡したってことだ。
な、なんてことだ……。
それだけでも俺にとって結構いっぱいいっぱいの情報だったが、それはまだ序の口だった。
死んだスタッフは皆変死を遂げていた。
例外なく人の形を留めず、そのまま死亡してしまっていた……。ご丁寧に空中にスクリーンを投射し、事故後の現場写真を見せてくれた。ぐ、グロ……。目が覚めたばっかの奴にそんなの見せるなよ。
ちなみにその時点でバイオハザードを警戒したらしく、生き残ってた俺ら三人の扱いは完全隔離の上行われたようだ。ま、もっともだな……って、そんなことは今はどうでもいい!
なんなんだそれ、なんなんだよまったく。
わけがわからないぞ!
――みんな、獣。獣みたいな体に成り果てちまってる。
しかも、くそっ、多数の生き物が入り交って……ぐちゃぐちゃだ。
お、おぞましすぎる。
そんな、俺の頭をもってしても理解が及ばず絶賛大混乱中にもかかわらず、更に追い打ちをかけるように次の映像を写し出すヒール美女、神坂女史。
俺と、あと二人。
事故直後からの時間経過に合わせ、段階を踏んでまとめられた映像だった。
直後の俺たちは当然意識はなく、不思議なことに他のメンバーと違ってほぼ事故前と同じような姿だった。ただ身長が若干縮んでいるようでメジャーを当てて確認してる映像があった。更に毛髪については全て抜け落ち全身無毛のツルツルてん状態だった。しかもご丁寧に真っ裸に剥かれて御開帳ってとこだ。勘弁してくれ。
続く映像は数日後のようで、俺たちは更に身長が縮み、なんと外観的にも子供の姿に逆行しているようだった。単純に背が縮んでいるわけじゃないってことだ。なんだそれ!
で、その数日後、俺以外の二人は死んでしまったらしい。それに関する映像は無かった。まぁ見たくもないが。二人は多少の差はあれど、俺より変化の度合いが早く激しく、それに耐えられなかったようだ……、くそっ!
残った俺はその後もじわじわ変わっていき、まさに変態といってもいい、恐ろしい変わりっぷりを見せていきやがった。
俺は最終的には3歳児程度の体にまで縮み、今度はそこからまた成長?しだしたようで、その時点で性別は女に変わっていたらしい。死んでしまった二人の内の一人も俺と同じように性別まで変わっていたようだが……、
俺が女?
はぁ?
まったく……、どうなってんだ?
まじそんな言葉しか出ない。
変態中、俺のCTとか色々撮ったようで、それらの画像は衝撃的の一言につきた。
中身が一部の骨を除きドロドロぐちゃぐちゃ、まるで昆虫のサナギのようになっていた――。皮一枚の下で何が起きてんだって話だ。我ながらグロい……。骨にしたって外からつつくとふにゃりと柔らかくなっていて移動には細心の注意が必要だったとか……。ま、うかつに触れない、感染予防の防護服着込んでるわじゃ、そりゃ面倒だっただろうな。
そんな状態は最初の一ヶ月すぎまでで、そこからは緩やかな変化に変わったようだ。
俺はその時点で時々目を覚ましていたらしいが、相当の苦痛を感じているのがわかったので、それを緩和させるためすぐ眠らせていたってことだ。
うん、その辺の記憶はかすかだが俺にもある……。
月日は更に進み事故から三ヶ月。
俺は未知のウイルス、細菌類の恐れからずっと隔離された状態で色々弄りたおされてたようだが、その心配もようやくないとだろう……結論づけられ、体自体の変態もほぼ収束したように見えるってことから……、
めでたく。
今日の日を迎えたってことらしい――。
「無事生き延びられてよかったですわね――」
説明を終えた神坂女史がニコニコと気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべながら俺の顔をじっと……観察するように見ながらそう言った。
「え、あ、ああ……」
俺は短くそう答えた。
とりあえずそれくらいしか言えなかった。
もう驚きすぎて、言葉も尽きるってもんだ――。
そんな変態の結果――。
神坂女史から見せられ、聞いた……俺の今の姿。
身長124cm、体重22kgってことで――、ちょい細身のがきんちょボディになってしまった俺。
泣ける。
若返ったのはまぁいいとしても……、若すぎだ!
しかし、改めて見せてもらうと、見た目は相当特異だ。
白っぽい銀髪に目は真っ赤。肌も透き通るかのように真っ白で、やはりアルビノみたいに日差しとかに弱いんだろうか? まだほとんど動けないからわからんが、部屋の明かりくらいじゃ特に問題はなさそうではある。妙に良く見える視力といい、要検証だ。
ところで、何度も言うが顔はマジで可愛い。
我ながら可愛すぎで萌え死にしそうなくらいだ。
自分の表現力が貧困で伝えきれないのがほんとに残念だが、こんな美少女……っていうか美幼女って言ったほうがいいが、見たことないって断言できるレベルだ。……我ながら。うん、まじで。
で! 耳である。
なぜゆえ尖がってる?
え、エルフ耳って……どうよ。
他の、死んだ部下たちはほとんどが獣類に変態していたが、これもそれに類するものなのかもしれないが――。
けど、これからどうすんだよ? まぁマンガとかでよく見るバカみたいに長い耳ってわけでもないが、これ、それなりに目立つぞ。
ま、まぁ、他はそれ以上に目立ってるから……気にならない……か?
はぁ、なんか現実逃避してるな、俺。
なんでエルフっぽい姿、そもそも女になったのか? はもう神のみっていうか、例の鉱石のみ知るってやつだが……。(つか絶対原因究明してやりたいもんだが……)
これ、絶対元には戻れない……よな? ま、見目だけで言えばこのままでもいいかなぁ……って気もするが。
けどなぁ、これからのことが余りにも……。
はぁ。
ど、どーすんだよ俺!
どーなるんだよ……俺~?????