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在る男の再生、あるいは転換――  作者: ゆきのいつき
27/31

27 予期せぬ再会 

「もうっ、どうして最初に出る名前が山崎なわけ? 私はついで?


 しっかり抱き付いちゃってさ。お姉さん、ちょっとやけちゃうなー?」


 仁王立ちから姿を崩し、俺の目の前にまで来て顔を覗き込んできつつそんなことを言う摩耶姉さん。

 なんでかって言われても……その……、ただ山崎が来てくれたら安心出来るって……、


「べ、別に他意はないよ? そ、その、山崎強いから来てくれたら安心かなー、なんて思っただけなんだもん! それに急に抱き上げられてびっくりしたし……。だからその、別に……」


「ふーーーーーん? そう。そうなんだぁ」


 摩耶姉さんがなんとも嫌な笑顔を浮かべて俺を見て、そして山崎の方も見る。

 つられて俺もすぐ横にある山崎の顔を見てしまう。

 

 そこにはいつも通り精悍で無表情な顔があった。俺と摩耶姉さんの会話はもちろん聞いてるだろうけど……、そこからはなんの考えも読み取ることは出来なかった。


 むぅ、なぜかちょっとイラッときた。

 やっぱイケメンは敵。

 

 それにしてもこいつったらほんと愛想ないよなぁ。

 俺はお前とのことで姉さんにからかわれてるって言うのに……、マジ俺のことどう思ってるんだろ? そんなことを考えてたら、つい山崎の首に回していた腕に力が入り、そのせいで山崎がこっちを見てきた。切れ長で涼しい目。迷いのないその目が俺を真っ直ぐに見つめてくる。


 はうう、その目反則! それにやっぱ……安心感ぱねぇ。

 そう思うと体の芯からなんか変な気持ちが湧き上がって来る。


 って、なんだよそれ。

 いやいやないない。


 そ、そう、俺は単に山崎の雇主である摩耶姉さんの妹であって……、そうだよ、それだけの関係なんだよ、うん。護衛なんだから安心感あるのは、あ、当たり前だし!

 そもそも俺は元男。それに今にしたって女とは言え13歳の子供。


 だから、その……あ、ありえないし。


 そ、そんなことより!


「あ、あ、あの、あのさぁ、そもそもなんで姉さんここにいるの?」


 俺は訳の分からない方向に向かってる自分の思考を放りなげ、一番最初に気にしなければいけないはずの疑問を口にした。


「そうだよ、そうだよ、摩耶様がなぜここにいるんですか?」


 俺の疑問に、横でしばしぽけーっと山崎を見ていた三島も我に返って重ねて質問を浴びせる。

 夏目や委員長もこくこく頷いている中、リリヤさんだけはまだ戻って来てない……。その目はずっと山崎を見つめたまま。


 うーん、なんか違和感。


「ふふっ、知りたい? そっか知りたいのねー?」


 うへ、なんか聞きたくなくなってきた。けど俺の内心はともかく、周囲は好奇心丸出しで摩耶姉さんの言葉を待ってる状態だ。リリヤさん、気になるけど……、ちっ、しゃーない。


「うん、教えて?」


 怪しい笑顔で俺の返事を待ってる姉さんに、貼り付いた笑顔でなんとかそう答えると姉さんが待ってましたとばかりに理由をペラペラ話し出した――。

 


 ――摩耶ねぇ。


 あんた、まじ……うざっ!



「摩耶様、ほんとにカナンちゃんのこと大事になさってるんですねー」

「微笑ましいですわ。でもそのお気持ち、私とても理解出来ますの。私にも歳の離れた妹が居りますから――」(話が長いのでカットね)

「えっと、シスコン……ですね」


 三島、素直なやつ。

 委員長は……、ま、委員長だ。

 夏目、何気にひでぇ。でも事実か。

 

 要はだ、このばか姉貴は俺の後を付けてきてたのだ。

 ばれないよう、ご丁寧に自家用機でガン島まできて……、水中翼船もVIP用専用席で同じ便に乗り、リニアも少し離れた席を取り、付かず離れず……俺の後を付けて来ていたのだ。


 す、ストーカーかよ。結晶研はどうした?

 正直、引くレベルだ。


 山崎……、すまん。

 こんな姉で申し訳ない。義理とはいえ、今は俺の姉さんなんだ……。まじ残念な姉だけど、勘弁してやってくれ。


 話を聞いた俺が氷点下の目線で刺し貫けば、


「だ、だってー! カナンちゃん一人、宇宙にやるの心配だったんだもの。それに、ね、いつ何が起こるか分からないし――」


 そんなことを口を尖らせながら言い訳する。だからいい年してそんな仕草やめろって。まぁ最後、姉さんが暗に言いたいこと、……解らないでもなかったが。

 実際、山崎という護衛が居ないというのはちょっと不安ではあったけど……。

 けどフォスのセキュリティは万全、軌道エレベータのテロ対策は世界のどこよりも進んでて日本に居るより安心かもしれないレベルだし……、よほどのことがない限り大丈夫なのに。


 とは言っても実際、そのよほどのことが起こってる訳で、その辺の説得力は大幅ダウンなわけだが……、デブリの襲来なんて普通予測なんて――、


 って、ちょっとまて。ここ大事なとこだろ!


 そういやさっきも疑問に思ったけど亀裂処理にかまかけて忘れてた。

 そうだよ、デブリは大きなものから手のひらに乗る様な小さなものまで……全て管理されてるはずで、さっきみたいなことになる前にやばい奴は処理されてるはずなんだ。だから今さっきの事故みたいなこと……本来在りえないはずなのだ。


「姉さん? 今日のこれって……」

「久しぶりね、リリヤ。さっきから黙っちゃって……、私のこと忘れちゃったの?」


 俺が疑問に思ったことを聞こうとしたとほぼ同時に姉さんが思わぬ人に声をかけた。

 へっ?

 姉さん、リリヤさんと知り合いなんだ?


「え? あ……そ、そうね、お久しぶり、マーヤ。

 ……そうか、カナンちゃんはマーヤの妹さんだったのね? 名字を聞いてなかったし……見た目もその、特徴的だし……、気付かなかった。


 きょうい……山崎さんもお久しぶり……です。その……、ご健勝のようでなによりです」


 んんっ?

 今リリヤさん、山崎の名前……言いかけなかったか? 山崎の名前は恭一郎。男らしい、なかなかいい名前で、俺の河南とはえらい違いでうらやましい。どうやらリリヤさん、姉さんとも山崎とも面識あるみたいだけど……。

 つーか、マーヤって、摩耶姉さんのことだよな? 摩耶だからマーヤ……、ぷっ、いいけどちょっと……あれだな。で、そんな俺の考えが顔に出てたのか、摩耶姉さんが俺に向けむくれた表情を見せる。メンドクサイなもう、はいはい、ごめんごめん。


「はい、お久しぶりです、パルネラさん。あなたこそお元気そうでなによりです。お嬢様やご学友の皆様の避難誘導をいただいたようで感謝いたします」


 ちょっとちょっと、なんだよいかにも訳アリっぽいこの展開。

 俺がそう思ったように周りもそう感じ取ったらしく、特に三島と夏目の目がキラキラしだした。正直俺も興味が湧かないと言えばウソになる。


 リリヤさんと山崎、二人の顔を見比べるように見つめる三島たち。その心内はいったい何を期待してるのか? 少なくとも俺とは違うと思いたい。というか俺は違いたい・・・・

 男子たちは他の男性教師らに避難場所に強制連行中で、こちらにかまうことはもう出来無さそうである。この場に残ってるのはもはや俺たちだけといっていい。


「それが仕事ですから。それに、結局私は何も出来ていませんし……。

 先ほどもなぜ警報が収まったのか良くわかっていません。そもそもなぜデブリの直撃を受けてしまったのか? 分らないことだらけです。

 でも……、とりあえずこの場からは早く撤収したほうがいいかと。いくら山崎さんでも宇宙じゃ……、えっ!?」


 戸惑いの気持ちが滲み出てるリリヤさんのその言葉が最後まで告げられことはなかった。

 突然リム側のスポークとのエントランスあたりの照明が落ちてしまったからだ。俺を抱く山崎の腕に軽く力が入ったのが分かった。


「きゃ、真っ暗!」

「な、なんですの? 今度は?」


 再びの異変に三島たちが驚きの声を上げてる。もちろん俺だってビックリだ。

 そんな暗くなったスポーク側。俺の五感が全身で違和感を感じとる。


 何かが来た?




「どうしてここにあなたがた・・・・・がいるの?」


「どうして私の思い通りに事が進まないわけ?」


「神坂カナン、どうしてあなたはそんな姿でいられるの?」



 はぁ?



 何でそこで俺の名が出て来る?

 つーか誰?

 一体何言ってるの?


 ちょっとくぐもって聞こえてくるけど、何かどこかで聞いたような声だな……。

 それになんかめちゃやばい雰囲気。

 スポークから見える星空をバックにその人物の異様なシルエットだけが浮かび上がって見えるけど……、声の調子からも、なんとも危険な匂いが濃厚にただよってくる。


「何訳の分からないこと言ってるの?

 あなた誰なの? 照明を落としたのもあなた? 私の思い通りって……一体何したの!」


 そんな様子が見えてない摩耶姉さんが正体不明の声に向かって矢継ぎ早に問いかける。なんか肝座ってるなぁ、姉さん。見えてないって恐ろしい。


 それにしてもあれ。やっぱ……、そうなのか?


「神坂摩耶。わからない?

 そうでしょうね、あなたにはわからないでしょうね?


 何もかも持ってるあなたには……、


 私の気持ちは分からない……」


 俺の目はあっという間に闇に慣れ、摩耶姉さんと会話をするその声の主の姿がくっきりと浮かび上がってきた。


 そ、そんな!


 でも、なぜ?


「……山崎、みんなからなるべく離れられる? 関係ない三島や夏目から離れたい。姉さん、それにリリヤさんも危ない目に合わせたくない……」


 俺は相変わらず片腕抱きしてくれている山崎の耳元にささやくようにそう告げた。

 三島たちは急な出来事に対応できず、動揺を隠せない。さすがの夏目も表情がこわばってる。リリヤさんは姉さんと一緒で、声の主の方に注意が向いてる。

 山崎は一瞬俺の方を見て考える素振りを見せたけど……、ほぼ瞬時に頷いてくれた。


 一言こう添えてだけど。


「ご無理はなさらないでください」


「うん」


 そう答えるしかない……よな。


 山崎の目も特別で俺みたいに暗い中でも支障なく動けるようで、俺の意思を汲んで三島たち、それに姉さんとリリヤさんからも離れるように……、俺を抱かえたまま、音もなく移動を始めた。


 向かう先は当然声の主の方。


 言葉にしなくても俺の考えは山崎には御見通しのようで、動きに迷いはなく、誰にも気付かれないままあっという間にその距離は無いに等しいものとなった。


「ひっ、い、いつの間に!」


 突然目の前に現れた山崎に、引きつった声を投げつけるその人物。


 俺はその人物。声の主を知ってる。

 いや俺だけじゃない。摩耶姉さんだってそうだ。と言うか、俺より摩耶姉さんの方がよほど詳しいに違いない。


 なぜならその人物。

 目の前でその変わり果ててしまった姿をさらしているのは……、


 姉さんの元部下。

 俺が入れられていた医療施設でずっと俺の面倒をやさしく見てくれていた……女性。



 村野さん。



 素朴で、ちょっとぽっちゃりしたかわいらしい女性。俺にはちょっと意地悪なところもあったけど……やさくて親切な人だった。


 けど、いつの間にか配置転換の名目で居なくなっていた村野香澄さん、だったはずの存在――、



 ……なのだから。



次回で宇宙編?完結……かも?

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