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在る男の再生、あるいは転換――  作者: ゆきのいつき
20/31

20 基盤

 宇宙資源応用研究開発機構。

 JApan Space Resource exploration Agency 『JASRA』


 ――通称ジャスラ。


 それは首都圏から更に数十キロほど離れた山沿いの地域に作られた国の研究開発機関だ。

 そこでは宇宙、主に小惑星帯からもたらされた資源の学術的な研究をメインに、地球上の物質の宇宙における各種合金化の可能性についての研究や、企業の製品開発についての高レベルな研究請け負い、あるいは共同開発など、多岐に渡った案件をこなす一方、それらで得られた新しい素材や技術を民生レベルにまで落とし込む応用開発までこなす、複合研究施設となっている。


 俺、雫石河南もそんな施設の中で宇宙由来の物質の研究を進める一部門を任されていたわけであるが、あの忌々しい事故によりその立場を失わざるを得ない状況となり、その施設も閉鎖の憂き目にあってしまっていた。

 で、今回、俺は客員という扱いではあるものの、その研究開発機構に復職することが出来たわけである!(もっとも雫石という人間はもうこの世にいないんだから復職っていうのは変だが、まぁ俺にとってはそんな感じな訳だ)


 摩耶姉さんがどんな力を使ってその地位を手に入れてくれたのか……、考えると頭が痛くなってくるが、まぁこの際それを追及するのはよそう。(裏の話なんて聞いてもロクなことはない)

 で俺は今、学園を終えたところで懐かしのジャスラに向かうべくリムジンの住人となっていた。もちろん俺の横には摩耶姉さんがべったり寄り添って座ってる。


「カナンちゃん、久しぶりで緊張してる? なんだか表情が硬いわよ?」


 姉さんが久しぶりに行く施設のことを考えてた俺に向かってそんなことを聞いて来た。


「う、うん。ちょっと緊張してるかも。私、こんな小っちゃい子供で、しかも見た目もちょっとアレだし……。所員のみんなに反感買うんじゃないかと思うと、そのぉ……」


「ああ、なるほどね。

 確かにカナンちゃんみたいな小っちゃくて可愛らしい女の子があそこに居ること自体変だもの。間違いなくみんなの注目浴びるだろうし――、異を唱える輩が出て来る可能性もないとは言えないわね」


 あっさり俺の心配事を認める姉さん。ううぅ、そこは大丈夫って嘘でも言っとくとこだろう?

 俺がそんな言葉を聞き不安げな表情を浮かべたのを見て、姉さんはニヤリと怪しい笑顔を浮かべながら更に言う。


「でも大丈夫。カナンちゃんを鬱陶しい先任所員たちの中に放り込んだりなんかしないから。だから安心して施設内に入ればいいのよ、ねっ」


 なんか聞き捨てならない言葉を発した姉さんは、そう言い切って俺の頭を撫でだした。俺のカッコは学園の制服のままで、髪型も最近の定番、ツインテールだ。しかも姉さんがやたら凝って緩く編み込んでそれをねじってツインテールにするとか……よくわからないことしてあったり。俺にはもうどうやってるのかさっぱりだ。


「な、なんなのそれ? 余計不安になっちゃうんだけど」


「ま、いいじゃない。それは今からのお楽しみってことで。ふふっ、わくわくドキドキだわねー」


 姉さんははぐらかすようにそう言うや俺の体をグイと引き寄せ、俺のほっぺに自分のほっぺを引っ付けご満悦だ。ったくもう、やりたい放題してくれるぜ。


 ま、もう今更だから俺はされるがままに身を任す。抵抗するのも疲れるし、もうメンドクサイ。姉さんの体は柔らかくていい匂いするし……、別にいやってわけでもないからな。


 そんな俺たち姉妹が戯れてる間も山崎の運転するリムジンは順調に道程みちのりを進め、目的地である宇宙資源応用研究開発機構が入っている複合施設へと到着した。


 そこは鉄条網と強固な壁でぐるりと囲まれた広大な敷地面積を誇る複合施設だ。

 俺たちは厳重なセキュリティーが施された入場ゲートを滞りなく通過し、その中をリムジンで突っ走る。そんな言葉がぴったりなほど冗談抜きでだだっ広い。学園もでかいと思ったが、ここはそれすら可愛く思えるほどマジ広大なスペースだ。そりゃそうだ。中には専用の空港まであって、赤道近くにある軌道エレベータまで直通で行けるんだからな。その広さにも納得ってもんだ。


 俺が居た場所も、小さいながらその中の一角を占める施設だったわけだが……、さて俺はどこに連れていかれるんだか?





 リムジンが止まったのは真新しい、どう見てもつい最近出来たばかりに見える2階建ての建屋だった。後方のすぐ近くにはこの複合施設自慢の専用空港……が見てとれて、俺はなんだかまた嫌な予感がした。リムジンの前に白衣に身を包んだ男女が駆け寄って来てその予感は更に補強された。


「ほら、お出迎えも来たし外に出ましょう」


 姉さんがそんな俺を促し、仕方なく外に出ることにする。つうか、俺の腕は姉さんにしっかりつかまれ否も応もない。


「摩耶様、このような辺ぴな所までようこそお出でくださいました。今日は確か新設間もない当部署のチーフとなられる方をお連れ頂くと伺っていたのですが……、ご一緒では無かったのですか?」


 リムジンの外に出た俺たちを出迎えてくれたのは二人。ひょろ長い痩せぎすの三十代前半くらいの男と、長い髪を後ろで一本に括った化粧っ気のない二十代後半に見える女だ。どちらも背が高く、山崎ほどではないにしても俺からすれば見上げる高さで、160後半はあるはずの摩耶姉さんよりもでかい。ちっ、面白くない。――ま、もっとも俺より低い奴を探すほうがよっぽど難しいんだけどな。


 それにしてもこれマジいやな流れだな……、帰りたくなってきた。


「ふふっ、何言ってるの。私だってここの医療部門の一担当として働いているのよ。辺ぴも何もないわ。(尤も、カナンちゃんが施設から出て以来、ほとんど出勤してないけどね)


 それとね、新任チーフはしっかり連れてきてるわよ。

 ほら、あなたたちの目の前にいるじゃない?」


「は? 目の前……ですか?」


 摩耶姉さんの言葉に出迎えてくれた男と女がハトが豆鉄砲くらったような顔をし、姉さんの周囲に視線を彷徨わせている。


 待て待て~!


 こ、これめちゃくちゃまずい流れだぞ。ま、まじかよ。

 俺は嫌な汗が流れてきて、隣にいる姉さんを慌てて見上げる。


 そこには俺の方を見て底意地悪そうな笑顔を浮かべる美人の悪魔がいた。

 ううっ、嵌めやがったな姉さん! IDカードの客員ってのは仮だったのかよ?


 そして俺たちの前に居る男女も、姉さんの周りに誰も居ないことなどすぐに気付き、恐る恐る姉さんの脇に立つ、しっかり姉さんと手を繋いでいる(いや、姉さんが無理矢理繋いでるんだからな? 俺の意思では決してないんだからな?)俺の姿を見つめる。

 二人と目が合った俺は思わず小首をかしげ、ニコリと笑顔を向けた。し、しまった、学園に行くようになってからの癖でついやっちまった。二人はそんな俺の笑顔に一瞬頬を緩めるも、すぐ微妙な表情に変わる。


 俺とその男女は同時に結論を見つけた。


「ま、摩耶様? そ、その、よもや……、


 そちらにいらっしゃる可憐なお嬢様が……、新しく就任なさるチーフ……であると、おっしゃられますか?


 ――あ、いや、すみません。まさかそのようなことは、ありません……よね?


 そ、そうか! 今日はご都合つかず、摩耶様お一人でお見えになられたのですね? あはは……、私、早とちりしてしまったようで申し訳ありません」


 ただ、その男は往生際が悪かった。

 すぐさま自分に都合のいい逃げ道を見つけ出し、そうのたまった。


 が、それはバッサリ切って捨てられた。


「何言ってるのよ。連れて来たって言ったでしょう? ほら、この子よ、この子。


 くすっ、可愛いでしょう?


 あのね、気持ちは分からないでもないけど……、認めなさい?


 この人事が変わることはないんですからね」


 そう言いながら俺の頭を撫でる摩耶姉さん。そんな姉さんの言葉に、男女の顔が引きつったのが下から見ててもわかった。


 そりゃそうだろ、俺だってびっくりだ。


 いや俺自身は正直、このいきなりの人事について別にどうってことはない。ビックリはしたけどな。それに実際、一年近く前まではその立場にいた訳だし。


 けど、目の前のこいつらにとっては……、そりゃ引きつりたくもなるよな。

 なにしろこんな銀髪赤目の変なガキがチーフになるだなんて、悪い冗談としか思えない。見た目小学生の俺をそんな立場に据えるだなんて正気を疑うってもんだろうさ。


「ま、摩耶様。その、ご、ご冗談を。

 こ、このお小さい、お嬢様が我らのチーフになる……などと……」


 男があまりの展開に続く言葉を失うと、今までだまってた女が口を開いた。


「あの、摩耶様。


 とりあえずこのような場所で立ち話もなんですから、中に入ってお話の続きを伺いたいと思うのですがいかがでしょう?

 

 もちろん、そちらのお嬢様もご一緒に」


 その間、男がずっとアタフタしているのとは対照的に、女は最初こそ驚いていたものの今はなんとか平静を装っているように見え、そんな提案をしてきた。やっぱこういう時は女の方が強いよな、うん。


「そうね。

 細かい話も詰めなきゃいけないし、そうしましょう。ほら、カナンちゃん行くわよ」


 姉さんはそう答えるとそそくさと建屋の中に向け歩き出した。当然俺と手を繋いだままだ。これから部下になるかもしれない奴らの前でこれは恥ずかしすぎる!


 が、それは兎も角、俺はもう現実を受け入れてる。


 摩耶姉さんが言いだしたことだ、今更覆ることはないのはわかりきってるからな。それにこれは俺にとっても好都合、精々活用させてもらわなきゃな。


 姉さんの後を男女が慌てて付いてくる。可哀想なやつらだ。けど、お前らもとっとと受け入れた方が気が楽だぜ? 女の子の姿の俺が言うのもなんだけどな。


 ま、俺の実力知れば多少は納得してくれるだろうさ。


 たぶん……な。




 ――こうして俺は再び古巣に戻って来た。


 

 新しい俺の所属部署名はこれだ。


『宇宙環境結晶構造研究部』


 この部署名の由来はあの鉱石から来てるのかも知れないな? 俺はなんとなくそう思った――。

 ふっ、そんなことはどうでもいいか。

 とりあえずだ、姉さんには好きにやれって言われてるから、好きにやらさせてもらう。


 ちなみにどうしてここまで俺に都合よく話が進むかというとだ。想像に難くないが、当然神坂の息がかかってるって訳だ。神坂財閥の影響力、ぱねぇぜ。呆れて物も言えない。そもそもここって国の重要機密施設のはずなのに……。

 俺が入る建屋にしたって神坂の金をねじ込んで力技で建設させたみたいだしな。(ま、税金で造らせるよりはマシだけど)


 例の俺を襲撃してきた二体も冷凍保存状態で地下保存庫に搬入済ってことらしいし。好き放題もいいところだ。



 ふん。

 事情はどうあれ――、


 久々に俺の灰色の脳細胞を活用出来る場が出来たかと思うと胸が高鳴るってもんだ。






 あ、ちなみに学園にはちゃんと行かなきゃダメよ……だって。

 ちっ、ばっくれたかったのに……。




 残念。



うーん、なんだか話が小難しくなってしまった……。

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