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在る男の再生、あるいは転換――  作者: ゆきのいつき
11/31

11 級友

「初めまして。


 ……、


 神坂、……カナンです」






「あ、あれ? そのぉ神坂さん。……それでおしまい?」


「はい――、よろしくお願いします」



 俺の挨拶はこんなものだった。


 なぜに今更ガキ相手に愛想振りまかなきゃいけないんだって話だ。俺は断固として抵抗する。子供ガキなんかとなれ合ったりなんかするか。



 とか思っていた頃もあったかもな……。



 ろくに自己紹介もせず、態度も最悪だったはずなのに……、なぜか俺は休み時間になるたびにクラスメイトに囲まれるって憂き目に合ってる。(後で聞いた話だと、小さい女の子が精一杯虚勢を張って強がって見せようとしてる姿がなんとも微笑ましく見えたらしく、保護欲かきたてられまくり……ってことだったらしい。逆効果かよ。くー、どんだけ弱々しく見えてんだよ、俺。不本意だ!)

 余りの囲まれっぷりにトイレに行くのも困るほどだ。もちろん女子トイレだぞ? その辺は村野さんや摩耶姉さんにキッチリ仕込まれたからな、もう堂々としたもんだ。当然お漏らしだって卒業したぜ、あの忌まわしい記憶は心の奥底に封印、摩耶姉さんたちにも忘れるよう、きつーく言っておどしておいた。


 それにしても……まったく、他にすることあるだろうに。

 勉強しろ、勉強! 予習しろ、宿題確認しろ、そして自粛しやがれ!


 なんて俺の心の内がクラスメイトたちに伝わるはずもなく。

 俺はきっちり、彼、彼女らの的にかかりまくっていた。内容的には主に俺の見た目と……、ついでに家的なものでだ。


「神坂さん、ほんとに中学部なの? 小っちゃくって……なんだか妹みたいだね。可愛い!」

「ですよねー。頭もとっても小さいし、背は低いとはいえ、手足が長くってすらっとして……小さいなりにスタイル抜群ですし、本当、妹にしたいっ」

「「「きゃー、それいいかも! マジ賛成~」」」


 うう、ほっとけ。

 きっと背はそのうち伸びるんだからな。それにお前らの妹になった覚えはないし、なってやる義理もない。だからそんなにベタベタさわるな、頭撫でるな、馴れ馴れしい!


「っていうかさ、この髪、すごいよね。銀髪だよ、銀髪。私、銀髪なんて初めて見ちゃった。もうキラキラしちゃってお姫様みたい」


「目だって宝石みたい。赤い目だなんて不思議。まるで小説やアニメの主人公みたいでカッコいい! 髪もそうだけど、それ自前なんだよね? なんだかうらやましいなぁ」


「いいなぁ、綺麗だなぁ……」


 こいつら人ごとだと思って好き放題いいやがって。こんな目立つ髪に変な色の目、ウザったいだけだっていうのに。変われるものなら変わってやりたいぜ、まったく。


 それにしてもいくらいいとこのお嬢様って言ったって所詮は子供か。言ってることはいわゆる庶民、そこいら回しにいる女の子と変わらないな。っていうか男はどうしたんだ男は? 存在感薄すぎだろ? そう思って、少しでも周囲の干渉をかわそうとずっとうつむき加減いた俺はふいと顔を上げ、周囲をキョロキョロと見渡す。


「きゃ、かわいい。なんだか小動物みたい」

「だねー、さしずめリスとかうさぎ系?」


 はうっ、な、なんだよそれ。もういちいち……、ってそんなことよりと。


 男どもはもちろんいた。


 まず俺の周囲をクラスの女子(まぁさすがに全員ってわけじゃないが)が囲むように立ち、それはまるで絶対防壁のようにこちらに侵入しようとする男子を阻んでいた。時折勇敢にも突撃してくる猛者ばかは威嚇と、言葉の暴力であえなく撃退されていた。


 肩を落としすごすごと引き返すさま、背中には男の哀愁がただよう――、


 なんてことはないが……、まぁなんだ、


 「……ご愁傷さま、が、がんばれよ」


 そんな言葉をかけてやりたいと思えるほどには、悲惨なありさまだった。ま、かけないけどな。


「女子は横暴だ! 俺たちにもクラスメイトとして神坂さんと会話する権利がある。ゆえにきちんと接触する機会を与えてくれるよう、ここに要求する!」


 お、また新たな猛者が登場した。

 しかも単独では分が悪いと学習したのか、今度は複数……三人で共闘しての猛アピールだ。


「性懲りもなくまたきたわね。

 可憐で穢れない私たちの天使、カナンちゃんに男子が近づくなんてもっての外よ。ああ、それ以上入ってきちゃダメ、穢れちゃうわ」


 女子の壁に及び腰ながらも立ち向かった男たちは、女子たちからそんな言葉を受けるも……その後ろにいる男子多数の後押しを受け、更に言葉を続けた。


「なんだとー、き、君たちの横暴、転入生びしょうじょ独占に強く抗議する!

 男子にもカナンちゃんへの接触の機会をよこせー!」


「「「そうだ、そうだー」」」


 前に出た三人に合の手を乗せる後方の男ども。

 ばかだ、ここにバカの集団がいる。


「うるさい、男子がカナンちゃんだなんて馴れ馴れしく呼ぶな、穢れるー」


 ……なんともあほな攻防に呆れてしまう。

 ったく、何俺を魚にして遊んでやがるんだよ。やるなら俺抜きで、俺を巻き込まないようやってくれ。


 そんな中、一人の勇者が果敢にも女子の壁を強引にすり抜け、俺の前まで到達した。

 女子たちの攻撃(主に口撃だが、まれに実弾……肘鉄が出る、こえー)を受けたその姿はすでによれよれだったが、その表情は達成感からか誇らしげな……ま、いい笑顔を見せていた。


 結局ウザいことには変わらないが。


「やあ……、あ、うわっ!」


 会心の笑顔で俺に何か声をかけようとしたところで……、大柄な女子二人に両脇を取られ、敢え無く俺の前から引きずり出されていった。その無駄な行為は賞賛しておこう。同情はしないが……。

 ただ、その顔は微妙に幸せそうな表情を浮かべていた。それが主にその腕に当たる女子たちの胸の感触によるものだということは間違いない事実だろう。まだ中一のくせにそれなりに育ってる……、なんてうらやま……しくなんてねえ、俺は元男、元男。


 それにしてもほんと、こりゃウザすぎだ。

 いいかげんうんざりしてきたところで――、


「いい加減になさいな!

 

 由緒ある神坂学園の生徒がいたいけな少女を囲んでバカ騒ぎなど……、恥ずかしいと思わないのですか。そもそも皆同い年なのですから、そのような子供扱いは失礼です。神坂さんも困った表情をされていますよ。


 ほら、次の授業が始まります。いつまでも騒いでないで席に付いてください!」


 少し高めの、良く通る綺麗な声が教室内に響き渡った。俺の周りで騒いでたやつらが一瞬で静かになりその声の主の方を見る。俺も興味を引かれ、一緒にそちらを見やった。

 そこには自席から立ってこちらを見つめている、俺とは対照的に背の高い、スラリとしたモデル体型の美少女がいた。(胸はまだまだこれからって感じだな、同士よ)

 色素の薄い、淡い茶色をした綺麗な髪を腰まで伸ばし、先端はゆるい巻き毛になってる。頭には淡いピンクのカチューシャを付け、前髪はきっちり斜め分けしていて、性格がよく表れてる気がする。そして色白の顔に浮かぶその表情は今まで苦労なんて微塵もしたことのないような自信に満ち溢れ、吊り上がり気味の細い眉と切れ長の大きな目がその印象を更に強くする。


 ま、典型的ないいとこのお嬢様って感じだな。中一にしてその威光、お見逸れするわ。


「「「はーい、委員長、ごめんなさーい」」」

「まだ一言も話してないのになー」

「あきらめろ同士、また次がある」


 そんな言葉を吐きながら、俺の周りのやつらはまるで蜘蛛の子を散らすように自分の席へと戻って行った。

 ホッとして思わずため息をつく俺。いくらクラスメイトとは言え自分より大きな奴らに囲まれ、俺も相当緊張していたんだろう……。ったく、中身はおっさんなのに……、情けない。

 俯いて自己嫌悪に陥ってたところで人の気配に気付き、ふと横を見上げるとそこに居たのはさっきのお嬢様だ。お嬢様は俺が見るとその顔に優しい笑顔を浮かべ、そのまますっとしゃがんだかと思うと、俺の目線にその顔を持ってきた。うぉ、美少女の顔が俺の目の前に。


「ごめんなさい、驚かせてしまったかしら? 私、このクラスでクラス委員をしている西園寺礼奈さいおんじれいなといいます。もっと早くに注意してさしあげるべきだったのかもしれないですけど、クラス内の親睦も大切かと思ったものですから……。本当に対応が遅れてしまってごめんなさいね?」


「ふぇ? あ、はい……」


 俺はいきなりの声掛けにろくな返事も出来ずおたおたする。

 そんな俺を見てくすりと笑いながら言葉を続ける西園寺。 


「これからも困ったことがあったらいつでも私にお声掛けくださいね? 可能な限りお力になれるよう努力しますから。

 それにしても神坂の本家にあなたのような……かわいらしい女の子がいらっしゃっただなんて。(私の情報網もまだまだですね)以後お見知りおきくださいな」


「は、はい。よろしくお願いしま……、はわっ」


 俺がなんとかお礼の言葉を返していると、すぅーっと、重いものなど一度も持ったこともなさそうな白くて綺麗な手が俺の頭に伸びて来て……、優しい手つきでひと撫、二撫でしたところですっくと立ち上がり、自分の席へと戻って行った。


 去り際に俺への笑顔を忘れないのはさすがお嬢様といったところか。けど、結局子ども扱いするところはみんなと一緒だな、ふん。

 口ぶりからして神坂家のことを多少は知ってるみたいだが。西園寺って名前からしてもいかにも金持ちの出っぽいしな。あとで摩耶姉さんに聞いてみよう。



 ――そんな感じで俺の生涯二度目の学生生活がスタートした。



 俺にとってはストレスばかり感じる生活だ。ひと時も気が休まらない。


 もう早く家に帰りてー!



 そんな思いばかりが俺の心の中に満ちてくるのは仕方ないことだと思う――。





「鉱石が無くなってる? お父様、それは本当ですか?」


 私は自分の耳を疑った。


「え、施設を使った形跡もある? でも一体何を……」


 スマートフォンから聞こえてくるお父様の声。そこからもたらされた一報に私はなんとも嫌な予感がし、ふとカナンの顔が頭をよぎった。

 引き続き調査を進めると話すお父様の言葉を上の空で聞きながら、変な胸騒ぎに心を乱されることを抑えることが出来ないでいた。


 カナン……。


 元男の天才技術者。(とんでもない醜男だったけど)


 そして今や私のかわいい妹。

 その事実を知るごく一部の人間には変人扱いされることもあるが私には関係ない。カナンはあの男とはもう別物といっていい存在。意識なんてものはこれからの教育や生活でどうとでも変わる物。いや、変えてみせる。したがって、なんの障害にもなりはしないと断言できる!


 身辺警護を増やそう。

 学校の警備も更に厳重にしよう。


 いっそ実家に戻ろうか……。


 私は根拠もなにもない不安とはいえ、万に一つの可能性すら起きてはいけないと……、そんな計画を頭の中で幾つも立て、不安を解消させる努力をした。





 が、そんな不安は後日現実のものとなってしまうのだった――。



急転?

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