10 説得
説明……回?
「雫石という男があの娘に変態したというのは、今しがたの記録映像を見ればいやでも理解するしかないのだろうが……、そうであっても未だ、俄かには信じがたいものがあるな」
雫石河南が目覚め、意識をしっかり取り戻してから数週間ほど経った頃。私は神坂本家、要は私の実家に戻ってきてお父様と対面していた。
今は、最後の詰めの段階。
でも最大の難関。
……お父様ったら、ほんっと、頭かたいんだから。
「お父様! それを見せてまだ納得できないなら、どう説明すれば良いのですか、もう。
遺伝子情報すら変化していて、DNA鑑定ですら本人特定出来なくなってるの。だからある意味……もう本当に別人になってしまったって言っても過言ではないわ。
外見的にも科学的にも彼女が雫石河南だってことを示す証拠は何一つないし。
だからそれ見て信じてもらうしかないわけ……。
でも、これからのこと考えれば全くの別人である方が何かと都合いいと思いませんか?
ただ……、お父様にウソはつきたくないし、彼、いいえ、彼女の尊厳のためにもとりあえず事実としては知っておいて欲しいから事実を伝えたの。
摩耶一生のお願い! 雫石河南を養女として迎えることを認めてください」
――お父様に河南のことをお願いするにあたり、事実を包み隠さず報告することから始めた。
最初、河南の写真を見せ……この子を家の家族、私の妹として迎えて欲しいってお願いした時は、さすがにいつものように私の我儘を笑って聞いてくれる……とはいかず、何を言ってるんだって感じで見られてしまった。
とは言うものの河南自体には興味が湧いたみたいで話を聞いてくれる雰囲気にはなってくれた。
ふふっ、お父様もやはり男か。
超かわいい私の河南を見て、いやって思えるわけないのよね。
私はお父様の同情を誘うため、なるべくあの事実を後回しにして話を進めた。
天蓋孤独の身の上で、身寄りがない。
事故に巻き込まれて寝たきりになってる。
体が良くなったにしても外見からしても絶対周囲から色々と悪影響を及ぼされるに違いないなく、そのためにも家で引き取り守ってやりたい。
他にも沢山の所員、優秀な国の人材が亡くなっている。
そもそも神坂家の経営する小惑星帯鉱石採掘船が採取してきた鉱石が原因でそうなったのだから、家が責任取って面倒みるのが当たり前。亡くなった人の分まで幸せにしてあげなきゃ!
だから家で(私が)引き取りたい。
必死に説明した。
「摩耶、一つ確認なんだが……。
その河南という少女はなぜそんな国の重要研究施設の中にいたのだ? 国の機密を扱ってる施設でよもや小学校の社会見学……というわけでもあるまい」
ギクっ。
やはりそこ、突っ込まれるか。
そうだよね……、お父様も甘くない。私は観念しその研究施設でチーフエンジニアをしていた雫石河南という、見た目的には……はっきり言って、不細工な、でも実力的には私など足元にも及ばない、その男の話を始めた。
経歴には関心していたお父様も、彼の写真を見せた時にはドン引きされた。さもあらん。
髭の剃り跡も青々とした、女性が嫌うポイントを押さえまくった40男の姿と、見目麗しい幼い少女の姿。
そこに何の接点もない。
そりゃ引くわよね。信じたくないよね。
でも紛れもない事実だ。
身長が変わり年齢も変わり、そして何より性別すら変わってしまった彼に、雫石河南であった面影を見出すことは不可能だ。先に言ったように遺伝子的にも別人になってしまったのだから。
ただ彼の頭脳は彼のままのようで、天才的だったその才能は変態後、子供の姿になっても引き継がれているのは確認済だ。あれほどの変態で脳に本当になんの影響もなかったのか? 女性化によって思考や嗜好、性格などに変化があるのか?とか……一応、医療を志す私としては興味は尽きないし、まぁ実際不可思議な現象も確認してしまったけど……、今は置いておこう、うん。知られたらやばそうだし――。
父は難しい表情を浮かべ、しばらく考え込んでいた。
そしておもむろに答えた。
「よかろう、その男、いや、今は少女だったな。
その子供を神坂家の養女ととして迎え入れよう。たまには毛色の違う変わり種を混ぜることも一興かもしれんしな。
で、面倒は摩耶が見るということで良いのか? なんなら私の方で預かり、それ相応の教育をほどこすこともやぶさかではないぞ? 元はともかく今の見目を思えば、あれも可愛い娘が出来たと喜ぶと思うしな」
お、お母様に河南を? そ、それはダメだ。いずれは合わせなきゃだめだろうけど……、今は早すぎる。
「あ、あは……。
お、お父様、認めてくださりありがとうございます。
折角のお言葉ですが……、やはり河南は当分の間は私のマンションに一緒に住まわせようかと思います。色々教えなければいけないことも多いし、彼女自身戸惑うことも多いでしょうから。
それに……、そもそも私自身が発案したことでもあるし……。
任せていただけますか?
落ち着いたら……、必ずご挨拶にも伺わせますから、お母様にはよしなにお伝えください」
私は一息に自分の考えをお父様に告げ、河南まさかの本家入りに防衛ラインを引いた。実際、お母様に知られればマジ、河南ちゃん奪い取られそうだもの……、油断できないわ。
「そうか、それは残念だ。
ま、いいだろう、摩耶の好きにするといい。
それと、だ。雫石君がそのようなことになった原因である鉱石だが……、破片は現在どうなっているのだ? 確か大きく三つに分割されたように見受けられたが……。
一つが今回の事故で消失したのは分る。では残り二つの所在は?
きっちり保管なり管理されていればよいのだが……、よもや当時のままの状態で放置されてはいまいな?」
お父様の言葉に私は言葉を失った。
「確かバイオハザードの危険があることから、しばらくは立ち入り禁止になって……、中の機器や備品、当然鉱石や鉱物のサンプルも持ち出し禁止の処置となっていたはずだけど。その後どうなっているかの確認は私の方ではとってない……です。そもそも管轄外だし、口を挟むこともできなかったから……」
私はお父様にそう話しつつ、なんだか背中にいやな汗が出て来る気がした。
だ、大丈夫……だよね?
「ふむ……、そうか。
よかろう、そちらに関しては私の方で確認してみよう。
河南については、引き取るからには摩耶、お前がしっかり面倒みるのだぞ? いくら雫石君が変わった姿だとはいえ、もう世間での扱いは子供なのだ。それ相応の対応をとらねば神坂家の体面が保てぬからな。
あと河南にも口座を開いておく。
後ほどカードを届けさせるから、それを本人に渡すか摩耶が管理するかは二人で決めるがいい。遠慮はいらぬ、だが使い方を誤るなよ?」
それを最後に、私は表情を強張らせながらもお父様に退出の挨拶をし、神坂の家を後にした。
つ、疲れた――。
そんな経緯でカナンを私の元へ、私のものにすることに成功した私。
ふふっ、これからがほんと楽しみだわ。
ただ、残りの鉱石がどうなったか……ちょっと気になるところではあるけど。でもそれは私が気にしても仕方ないことだしね。
ああ。
でもとうとうカナン、学園に入っちゃったし。
一緒に居る時間が減っちゃうじゃないのよー!
けどお父様ともその辺はキッチリするって約束したし――。
でもでもカナンちゃんに悪い虫が付かないか心配すぎるー。まだまだ虚弱体質のひ弱な子だし、それでいてあの愛らしさは犯罪級だし。実際誘拐されないか気が気でないわ。いくら学園はセキュリティー万全って言っても完璧じゃない。
おばあ様にもっと安全面強化してってお願いしようかしら。
いざというときはアレ使っちゃってって言っておこうかしら。
ふふっ、私もばかね。
あの子の中身は雫石河南。外見はともかく、大人の分別キッチリ持った天才少女だっていうのに……。
でも心配は心配なのよー!
次話はちゃんと主人公が出ます。




