2話
闇から初めて意識が目覚めたときは、自分がどんな状況に陥ってるのか全くつかむ事ができなかった。いきなり体を誰かに軽々と持ち上げられたのである。状況を確かめようと目を開けようとするが、目に力が入らない。体を動かそうにも動かない。体を拘束されてしまったのではないかと思えるほどだった。
さらに、自分が聞いたことが無い言語が、自分を抱えている女性からかけられたのである。日本語も当てはまらない。祖父の声を聴いて、次第に覚えていったフランス語にも当てはまらない。
ここが、どこなのか分からない。自分は、肝試しの帰りではなかったのではないか? ただただ、強い怠惰感を自分の頭から感じて必死に考える。
帰り際の最後に見た崖から振ってきた岩石。これのせいなのだろうか? だが、だったら他の二人はどうしたんのだろうか。さらに、この女性はだれなのだ。どうして、この人は決して軽いわけではない自分を軽々と持ち上げられるんだ。
さらに、深く思考の闇へと囚われていく。次第に、恐怖と睡魔が同時に襲い掛かってくる。くそ...もっとよく考えたいのに! うまく働かない自分に悪態をつきながらただただ泣きながら、眠りに付こうとする体。
最後のせめての抵抗として、叫び声をあげる。
「うぎゃぁー」
最後に自分があげたと思った叫び声は、あきらかに新生児が生まれたときに出す声。あまりのことに、頭のなかで驚きを隠す事ができなかったが、次第に睡魔が強くなり整理が付かないまま眠りについた。
★
「あら、起きたようね。おはようアレン」
そう言われたのは、女性の腕の中に包まれている生後6ヶ月は迎えたであろうと思える幼児アレン。それは、社会人であった男性佐野隼人の今現在の姿であった。
その時、他の二人がいない事を再度認識したのだが、どうやら二人は最後に見た光景からも巻き込まれずに済んだようで、この世界でひとりぼっちはさびしかったが、それより友達が助かった事に安堵した。
6ヶ月もこの生活を繰り返した為か、ようやく自分が元いた世界とは異なった場所にいることを理解することが出来た。その際に、理解することが出来なかった言語であったが、時が立つにつれて次第に理解することが出来るようになり、今ではほとんど理解することが出来た。
ただ、まだ体か未成熟のため自分の気持ちを伝えようにも伝える手段が手や足・体全体を使って気持ちを伝えなければいけなかったのが、いかんせん所詮幼児思った事を伝えるにいたらず何度も色々な苦労を味わっていた。もっと、この世界を知りたかったのがもう少し後にならなければ、知る事が出来ない。
唯一この世界で分かっているのは、アレンの家にあたる場所が、大きく屋敷のようになっていることと母親父親共に騎士であることであった。ただ、どれくらい偉いか分からないがこの前屋敷に部下らしき人が訪れていたのでおそらく位は高いのだろうと思った。母にも敬意を払っていたようであった。
そして、今現在アレンに話しかけてきているのは、隼人改めアレンの母親であるセシリア・ヴィクトールであった。
「うぅうー」
返事を手振りしながら、返す。
それを見て、セシリアも笑顔で返してきた。
肩より少し長めにあるサラサラとした美しい金髪に青い目を持ち整った顔立ちをしている。体形はモデルのようにスラッとしており、陶磁器のような印象さえ感じることが出来る。ただでさえ、目が少しばかり見えてきたアレンも最初は、じっと凝視してしまった。その時に魅せたセシリアの笑顔はまるでギリシア神話に出てくる結婚と母性、貞節を司る女神ヘーラーのようにも思えた。
そんなことをセシリアの顔を見ながら考えているうちに、自分が住んでいる家から別の場所にいることに気が付いた。ここはどこなのだろうか? と考え、首を傾ける。そして驚愕した。
眼前に広がるは、アレンがいる場所より低い場所にある辺りが人で埋め尽くされている人の数。こんなにも多くの人を見たのはこの世界で生まれてから、初めてであった。生まれてからこの方、近所の人しか見たことが無かったアレンには、新鮮に感じられた。
だが、それよりも目を引いたのが、その観客がいる席が取り囲むようにある中央のむき出しの地面がある場所に立つ二人の男性であった。片方は、動きやすそうな衣服に、わずかに金属で出来た胸当てなど機動性重視のような格好をしていた。これはまだこの世界における防具なのだろうと分かるが、もう一方は騎士を思わせるような格好をしており、背中には白いドラゴンの紋章が描かれている。そして、見たことがある顔。
そう今中央に騎士の格好でたたずんでいる男性は、アレンの父親であるバート・ヴィクトールであった。髪は、茶色の短髪。鎧を着ている上からでもわかるほど鍛え上げられた肉体だが、それは無駄なものを一切剥ぎ取ったような実践向きの体形のようであった。そして、セシリアと同じ青い目に整った顔立ちであった。
「どうしたの?あぁ、これを見て驚いているのね」
セシリアが穏やかな口調でアレンに話しかけてくるが、アレンの耳には入ってこない。やがて大きなドラのような音が鳴り、バートとダガーを持った男がお互いに一気に近づき戦い始めた。
その光景は、あまりにも衝撃的だった。交差するどこからか現れた剣とダガー。打ち下ろすたびに火花を撒き散らす。お互いに並みの使い手ではないのは分かった。 なんだこれは!? そんなことを内心思いながら、セシリアに変な不安を持たせないように落ち着いた振りをする。
ずっと興奮が鳴り止まなかったアレンだが、やがてダガーを持った男が突然後ろに下がってバートから距離を保っていた。
どうしたんだ? と思いながらも、試合を見守っていたがダガーの男からまばゆい光が放たれた。まぶしいと思ったが、ここが高い位置にあったためか視界がふさがれる事はなかった。そして、そこから見た光景。ダガーの男を頭に乗せた蛇。
そして、そのあとすぐに父親であるバード襲い掛かってきた蛇の前に白銀の鬣を持った真っ白なライオン。
なんじゃありゃあああ! と思いながら、アレンはキラキラした目で見つめる。実際は、社会人の精神年齢のはずなのに、その目は少年の頃夢見た目であった。精神年齢を重ねていても、少年の心はわすれていなかったのである。
さらに、その蛇とライオンを身に纏い、着ていた装備もより立派になっている。そんな光景を目の当たりにし、アレンのテンションはすでに限界突破していた。
あれは...あれは...かっこよすぎる! 社会人の頃でいたら、すでに鼻血を盛大に打ち漏らし貧血になり病院送りになっているぐらいやばくなっていた。
「あらあら。アレンはどうやらこの光景が気に入ったみたいわね。アレン。もう少し大きくなったらお父さんのようにあれを使えるようになるなるかもしれないわよ。」
衝撃の一言を、セシリアからもらう。あれが使えるようになるかもしれない? もしかして使えない可能性もあるっていうのか。不安がすこしずつただ確実ににじみ出てくる。
「でも、大丈夫。きっと私たちの子どもなら立派な「紋章士」にきっとなれるわ。安心しなさい。」
不安になったような表情が顔に出てしまったのであろうか。セシリアは、アレンの茶色の髪を優しく包み込むようになで上げ諭すように言い放つ。やはり、どの世界においても母親というものは、子どもの気持ちを敏感に感じ取ってくれる。社会人であった隼人であったら、このように頭をなでるという行為は恥ずかしかったが、今や自分はセシリアとバートの初めての子ども。
毎日セシリアが話しかけてきてくれ、お世話を忙しなくしてくれる。そして、時折顔を見せるバートは外であった出来事をこんな生後6ヶ月の子どもにも茶化すような話をせずに、真面目にそして丁寧細やかに教えてくれる。また、アレンをセシリアが腕に抱えもち、セシリアの肩に後ろから手を掛け、アレンをセシリアと一緒に優しく覗き込んでくれるバート。そんなものを魅せられてしまったら、恥ずかしいとは、思わず逆にこの二人に新たな生を与えてくれた大切な家族として、感謝すべきだと思っていた。
セシリアの言葉を聴いて、不安がすこしずつ取り除かれていく。そして、決心する。自分を優しく抱えてくれている今の母親であるセシリア・現在中央の窪みかこちらを見てきている父親であるバート。毎日を充実させてくれている大切なとても大切な二人にいつか自分も恩返しをしたい。
そう思ったアレンは、このとき初めて知った「紋章士」というなにもしらない未知の力を手に入れる為どんなことでも努力しようと決意するのであった。
これからもよろしくおねがいします。
感想お待ちしています。




