1話
長い長い時間が過ぎたような気がする。今までに感じたことが無いようなぼんやりとし状態が全身を支配し、浮遊感も感じるように思えた。海の波のようにゆらゆらと揺らされてるような浮遊感。辺りを見渡そうとしても体が言うことを聞かず、真正面しか見ることが出来ないのでここがどこなのかさえ悟ることができない。
ただ言えるのは、眼前に広がる光景は、闇。それなら、おそらく辺りも闇であろう。どこまでも続いていく暗さは肝試しに行った際の、不気味な闇ではなくどこか安堵感を感じさせる闇。自分を恐怖に包ませるのではなく、まるでどこかに導く為の闇のようにさえ感じた。
そんな闇の中最後に見たのは、闇の中のたったひとつあった白い光であった。
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「あら、起きたようね。おはようアラン」
柔らかな口調で腕の中に包まれている男の子に、挨拶をする女性。
「どうしたの?あぁ、これを見て驚いているのね」
腕の中に包まれている男の子は、起きて早々まるで驚いたかのような表情を見せて、眼前に広がる光 景をじっと目をそらさすに見張っていた。
円状に広がる石と木で出来た巨大なアリーナ。中央にむき出しの地面に窪みがあり、回りには観客というべき人がいる。観客は中心にいる二人の男性に目を向けている。
片方は、騎士を思わせるような格好をしており、背中には白いドラゴンの紋章が描かれている。もう一方は、動きやすそうな衣服に、わずかに金属で出来た胸当てなど機動性重視のような格好をしていた。
そして、その二人は静かにたたずんでいた。
甲高い大きな音がアリーナ中に突如として鳴りひびく。
それを、待っていたとばかりに二人の男性は、先行せんとした。
騎士の格好の男はなにかを溜めるかのような動作を一瞬させ地面をえぐるように一気に加速する。
どこからともなく剣を取り出し、身軽な格好の男に斬りつけようと襲い掛かる。一方で、身軽な服装の男も同じように溜める動作を一瞬し軽やかに地面を蹴って、こちらもどこからかダガーを抜き出し騎士に向かっていく。
お互い地面を蹴り上げ、やがて接近しあった二人は、加速したエネルギーに加えさらに、自分の今まで鍛え上げてきた力を解放し壮大に剣とダガーを打ち鳴らす。
お互いに交差しあう、剣とダガー。何度も何度も高速で打ち合い続ける二人の男性の剣とダガーは打ち合うたびに火花を散らす。だが、ダガーは耐久性が剣よりも劣る。その為まともに受けていると根元から折れてしまう可能性だってある。
それであるため、ダガーを使っている男のほうは剣に向かって、流すような動作を繰り返すが、時折まともにダガーで受けてしまっている。
一方で、騎士の格好をしている方も負けじとまるで、乱舞をするかのような華麗な剣さばきで、ダガーの男を追い詰めようとするが、こちらもダガーの機動性を生かした細やかな動きに決定打を決めることが出来ない。
二人の行動が変化するたびに周りに広がる観客からは、驚きの喚声があがる。観客から見ても分かるように、二人の男の実力は、驚くほど高度でわずかに岸のほうが押しているが、ほぼ同じといっても過言ではないほど素晴らしいものであったと言ってもいいだろう。
時間が経つにつれて、ダガーの男は決定打を決めることが出来ないとさとったのか時折、フェイントや体術をつかって翻弄させんとするが、騎士の男はそれを豪快にかつ正確に流していく。
それでも、決められないダガーの男は、力の限り騎士の剣を叩き下ろし即座にその場から、バックステップをして距離を取ろうとする。
それを逃がさんとばかりに、騎士は追従するが、やがてダガーの男が何をするかのか気づき、足に溜めるような動作をし地面を蹴り上げ速度を何倍も繰り上げ阻止しようとする。
しかし、それはわずかに届かない。見えない壁のようなもので防がれる。騎士の男は、めんどくさそうな表情を浮かべるが、その目は鷹のように鋭い。警戒しているのだろうか。全身にグッと力が入っているように思える。
ダガーの男の足元に一本一本の線が蛇のようにうごめきあいながら、紫色の光を発行しながら何かを描いていく。
やがて、それが動きを止める。
中央に杖のような物にまきつく蛇。周りにギザギザした歯のようなもの描かれ、背景色は紫色。それを取り囲むように小さな蛇がお互いの尻尾を口で噛んで円状に広がっている。
描かれたものは、紋章のように見えた。
完成した紋章のようなもののうえで、ダガーの男は、その場で中腰の格好になり手を地面につける。
その瞬間、紋章のようなものが今まで発していた紫色よりも数倍の光を輝かせ一瞬だけあたりを光で包み込み騎士や観客の視界を奪う。
アレンとその母親らしき人は、観客席ではなく、観客席の上部にあるボックスのような席で見ていたため、光が遮断されていた。
やがて光が収まったが、騎士は特に動じたようなしぐさをしない。ただまっすぐと視線を前方に向けている。だが観客は、驚きや恐怖のような喚声をあげた。
それもそのはず。光が晴れると、オオアナコンダを数十倍したかのような巨大な身をくねらせる巨大な蛇。全身は細長いが、首元は横に平べったくのびている。体は、全身が闇のように黒い。
ちろちろと舌を頻繁に出し入れし、ダガーの男を頭に乗せている。
やがて、ダガーの男は蛇に指示を出し、蛇はその目で騎士に狙いを定めて素早く襲い掛かろうとする。
騎士の男は、ダガーの男との高低差や2対1という不利な状況を悟り、蛇が襲い掛かる前に、こちらも新たなる動作に入る。
蛇の牙が襲い掛かる。
だが、牙は騎士の男に届かない。蛇はひるんだような動作を見せる。
ダガーの男は、蛇に一旦襲いかからせるのを止めさせ面白そうに騎士の男を静かにみつめている。
騎士の男。その眼前にいるのは、白銀の鬣をなびかせ強靭な四肢を大地につけ真っ白な体に真っ白な頭。射抜くような眼光。
まさに、百獣の王ライオンを思わせる真っ白なライオンらしきものがいた。
真っ白なライオンらしきものは辺りを振動させる雄たけびを一声あげ、蛇にむかって、襲い掛かる。蛇も負けじと喰らい付こうとする。
お互いが理不尽なほどに争いあう。
そんななか、やがて二人の男はお互いの顔を見つめてにやりと笑い、自分達がもっていた武器を掲げる。
それを待っていたといわんばかりに蛇と真っ白なライオンのようなものは、
雄たけびをあげ、姿を粒子のようなものに変えて剣とダガーに吸い込まれていく。
白銀に光る剣。毒々しい光をだすダガー。さらに服装も変わり騎士は、白銀のような鎧を身につけ、頭部にはなかった鋭くとがったようなフルフェイスの兜。剣もより大きく鋭くなっている。
ダガーの男は、全身が黒色の鱗に囲まれている。毒々しさもさらに増しダガーも騎士男同様にこちらは、ダガーの本数が二本に増え、それぞれ逆向きに刃先が向かっており、柄の部分が繋がっていた。
二人の男は、やがて動き、一瞬で元いた位置から敵がいた位置まで交差し、動きを止める。
静寂が訪れ、やがてダガーを持った男のほうからパキッと折れたような音が鳴る。
そちらに、観客が目をむけるとそこには刃の部分が折れたダガーが男の足元に落ちていた。
ダガーの男はそれを見て、騎士のほうに振り返る。そして、騎士も振り返る。
「俺の負けだ」
「俺の勝ちだな」
ダガーの男は笑ったように騎士に告げ、騎士の男も笑ったように返した。
そして、お互い近づき握手を交わす。
その瞬間に、周りの観客から大歓声がアリーナ中に響き渡った。




