プロローグ
とうば ここは現代世界に存在するロンドンから見て、極東と呼ばれる島国日本。
この小さな島国は、約人口1.278億人が住んでおり、他の国と比較すると長年内乱や戦争など人が死んでしまうことが無い平和な国で、多くの人々が生まれ成長し社会人として自立し、そして老いて安らかに死んでいく生活をしていた。
そんな国に日本人として生まれた社会人男性佐野隼人は、フランス人に祖父がいた。その祖父へ時折フランスへ遊びにいっていたのだが、そのとき幼かった彼は、祖父の実家で紋章学について学ぶ事となった。
祖父は、元歴史の先生で趣味に過去においてあった紋章についての研究家でもあり、遊びに行くときに日ごろから祖父は、紋章を彼に見せていたので幼かった隼人も興味を持ち始め学び始めたのである。
そして月日が流れ社会人となっていた隼人だが大学4年生であった頃の就活でてんてこ舞いであっただのだ。長い間「仕事が決まらない」と言うしがらみに囚われ憂鬱な気分になりかけていたが、ようやく技術系の会社に内定をもらい研修などつらい時間を乗り越え、今や立派な社会人3年目を迎えていた。
そんな代わり映えしない生活の日々を過ごしていた彼は、社会人になって3度目である夏の長期休暇に入っていた。その休暇を利用し隼人は、同時期に休暇をとっていた同僚と夏の風物詩となっている花火やバーベキューや祭りや海水浴など、夏でしか楽しめない遊びを、片っ端から行い、会社での仕事のストレスや鬱憤を晴らすかのように楽しんでいた。
そして、休暇をそんな毎日を繰り返していたが、今や休暇もすでに前半を折り返し、後半に入って数日がたった。その為、休暇最後の思い出作りとして唯一行っていない肝試しを行おうと、二人の同僚と予定立てし今現在、夜中の中自動車でETCを使い高速に乗って北関東の山間部に位置するネットで密かに話題となっていた開発途中で予算不足に陥り、急遽開発中止となったトンネルに出る幽霊を見に来ていたのであった。
やがて、そのトンネルが見えてくる。夜中の為か霧が濃く、自動車の上向きライトの明かりでも遠くまで光が届か無い為に空気中の霧に含まれる水蒸気に反射して不気味な明かりが広がっていた。それが原因で思わず、唾を飲むほどの怖さを醸し出していた。
「なぁ…なぁ、やっぱやめにしない」
不安そうな声で、隼人の同僚である身長が、平均よりもすこし低い彼が言う。
「なんだよ!怖気づいたのか!?だから、お前は皆から臆病者だとかいわれるんだぞ…男ならもっとどぉーんと構えろよ。じゃないと、彼女できねえぞ」
そんな彼を、隼人のもう一人の友達である中肉中背の高身長さわやかイケメンの同僚が、楽しそうな表情でからかいをいれてくる。
この二人の友達は隼人の同僚で、イケメンのほうは大層もてるため、こんな皮肉に近い言葉を放ってくる。ちなみに、隼人の顔もそんなに悪くは無い。むしろいいほうに分類してもいいだろう。だが、なぜ悪くないのに彼女がいないのかというと、簡単に言うと隼人が通っていた大学は工学系大学で男・女比率が圧倒的に男子が多いためである。合コンやら職場で相手を探せばいいだろうと思うが、なにせ、長年男だらけの場所にいたし、就活のせいで疲れきっていたため、社会人3年目となった今でも女子との会話でなにをすればいいのか分からないのも原因であった。逆に、イケメンは、そういった場所が得意中の得意ため合コンやらしまくりの為彼女がいるのである。
背の低いほうも顔は隼人くらいにいいのだが、いかんせん臆病でそんなところが災いし、イケメンに誘われていった合コンでも第一印象であまりよろしくない印象を与えてしまっているのであろう。
「今は、そんなことかんけいないだろ!?それに、臆病じゃなくて慎重すぎるといってくれ!」
「いや、関係ある...いや、ないか...まぁ、どっちでもいいじゃねえか。それにしても慎重すぎるねぇーまぁとりあえずそうしといてやるよ」
少し疑うような目をしているが、口元はにやにやしているように見えるイケメン。
「はいはい、そんなとこでやめといて。さっさと肝試ししちゃおうよ。さすがに俺もこんな薄気味悪い所ずっといられるほど神経図太くないよ」
二人が言い合いしている間に、隼人があきれたように仲裁に入ってくる。
「さて、行こうか」
「僕は、もう帰りたい気分だよ」
「そういうなや。さぁ、行こうぜ!」
そういって、踵を返し懐中電灯をもってトンネルに向かっていく隼人の後に、一人は肩を落とし、もう一人はスキップをくり出しそうな陽気な気分で遅れて後についていくのであった。
★
トンネルの内部は、明かりが無くなにもかも黒色に染め上げてしまいそうな闇がひろがっていた。
「やっぱ、暗いね~。このときの為につくっておいた特別製懐中電灯が役に立ったよ」
隼人は懐中電灯のスイッチをオフからオンに切り替える。他の二人も同様に自分たちで作り上げた懐中電灯のスイッチを入れる。
この懐中電灯は隼人達が、会社や大学で学んだ工学の知識を生かして作り上げたものであった。
特別製の懐中電灯は、通常の懐中電灯よりも遠くに明かりが届いたため、手探りで少しずつ進んでいかないですんだ。そして、隼人達はきょろきょろと辺りを見回したり、時には携帯で写真を撮ったり、お互いを時には驚かしながらトンネルの最深部に着いたのであった。
「ここで最後みたいだな」
そうイケメンがつぶやく。
「そうだね。特に変な現象もなかったし、帰ろうか」
「おう!そうだな...でも、すこしぐらい出てきてもいいだろうがと思うぜ」
「仕方ないよ。幽霊も意外に気まぐれなのかもしれないしね」
「ちげねぇー」
「ねぇー、もう帰ろう!!。はやくこんなとこからおさらばしたい!」
そう隼人とイケメンは、お互いに冗談をいいながら話あっていたが、もう一人の友達がその言い合いも時間の無駄と言わんばかりに隼人達に催促してくる。
「「はいは...」」
隼人とイケメンは息のあったコンビネーションで返事をし、彼の方へと体ごと向けて視線を彼に送り、気づく。
「「..................」」
「?どうしたの二人とも顔から血の気が引いてるよ」
二人は血の気が引いた顔を見合わせ、もう一人が何を言っているのか聞かずに、うなずき合う。そして、同時に、彼の両側から必死の形相でかけぬけていく。
「ちょっと!いきなりどうしたのさぁ!?」
彼は、二人に問いかけるがそんな質問に答えず、代わりに一言叫んだ。
「でぇ...でたあああああああああああああああ!!!!!!」
ようやく、その言葉を聞いて彼も少しずつ顔の血の気を引かせながら代わりに状況をつかんでいく。そして、彼は、ゆっくりと恐る恐るうしろを振り向く。
そこには、血の気が全く無く代わりに青白くなった顔としわがれた体をもち変な古ぼけた着物を着た老人がにやっと笑ったかのように見えた顔をこちらに向けて立っていた。
「いやああああああああああああああああああああああああ!!!」
彼も、一心不乱に出口へと駆け出す。懐中電灯を落としてしまったが、そんなことにかまってもいられない。どうせまた、つくれるからである。そうして一迅の風のようになって、二人の後を遅れてかけていった。
「ふぉふぉふぉ...早いのぅー」
老人の一声を聞いている暇など三人には微塵となかった。
★
三人は今、自動車に急いでかけ乗って元来た道を引き返していた。いつの間にか、来たばかりより辺りが明るくなっており、天気も雨がシャワーの如く降り注いでおり、豪雨となっていた。時間が結構経過していたようだがいまの彼らにそんなことを考えている暇も無い。
そして、自動車の速度を通常より何倍も出し「危険!スピードを落とせ」という標識が見える上に大きな岩石が乗って剃りだしている崖の下にさしかかっていた。
これを見ることができたと言うとは、もと来た道の半分は戻っているということになる。
三人は安堵して、いったん自動車を止めて気持ちを落ち着ける事にした。隼人以外の二人は、突然襲ってきた尿意に耐え切れず、一旦車から出て少し離れた場所で用を足す事にし、自動車の中にあった日本の傘を持って、そちらに向かっていった。だが、ここで予期しないことが三人に襲い掛かる。突如として、崖の上の岩がぐらぐらと揺れ始める。
その揺れは収まることを露知らずさらに大きな揺れとなり、ぱらぱらと細かな岩が崖から零れ落ちるが、とうとう揺れに対して崖が耐えることが出来なくなり、崖の先からまっすぐ重力を無視するかのような速度で隼人が乗っている自動車を押しつぶさんとする二重の遺志をもったかのように理不尽な速さで落下していく。
そんなことが、自分の頭上で起きているとはこれっぽっちも知らない隼人は、安堵と同時に落ち着きも取り戻す。隼人は、後部座席の背もたれに背をつけ、豪雨が降り注いでいる窓の外を見る。
「ふぅ...怖かったな。でも、貴重な体験だった。ただもう二度とやりたいとはおもわないかなぁ,,,ん?...なんだあれ!?」
そう隼人が気づいた頃にはすでに、遅かった。もはや落下してきた岩石は、隼人の眼前にあったのである。
そのまま彼は、どうして岩石がこんなところに落ちてきたのかすら考えることも出来ずに、徐々に迫る岩石。最後に見た光景は、友達二人がこちらに必死の形相で走り叫んでいる姿であった。そして、意識が闇へと落ちていった。




