傷ついたのは、生きたからである
傷ついたのは、生きたからである
by高見 順
第1区 軍事施設 総隊長室
コン、コン
ドアをノックする音で龍神 雷斗は目が覚めた。
―いやな夢だった・・・。
痛みも、恐怖も何もかもがリアルで、目が覚めた今も手の震えは止まらない。
コン、コンコンッ
やや強くなった、ノックの音に青年は顔をしかめた。
「・・・入れ」
「失礼しますッス!」
変な日本語を使い入ってきた、副隊長。
大上 獒
「おはようございますッス!」
「黙れ」
「分かったッス!」
「・・・・・・・・・・・・・もういい、何のようだ」
いやな夢を見て機嫌が悪い俺にかまわず、獒はハイテンションで用件を語る。
「この後、区代表の会議があるッス、今から2時間後ッスね!場所は・・・・・」
「もういい、どうせ前と同じ場所だろ」
雷斗は立ち上がり、ネクタイを直し、コートを羽織った。
「外に行ってくる・・・」
「大丈夫ッスか?具合悪そうっスけど」
「ああ・・」
たった、一つしかない大門から、施設の外に出る。
何度も何度も深呼吸を繰り返し、空を仰いだ、どんよりとした空が益々気持ちを暗くさせる。
「お前、龍神 雷斗か?」
背後から駆けられた声に雷斗は素早く振り返った。
「隊長、一人で外に出たら駄目ッスよぉ・・・・」
大門から、獒が出てくるのと、見知らぬ男がナイフを振りかざすのはほぼ同時だった。
男の動きがスローモーションのように見える。
避けるのは安易だった。
だが、雷斗は―・・・
避けなかった。
ざくり
ナイフが深々と雷斗の右胸に突き刺ささった。