一つ目のプロローグ
俺は夢の中にいた
それは〝あの日〟から見るようになった「悪夢」
幼い日から見ているはずなのに全くなれる気配はない
崩れたビル、静止画のように動かない人々、堕ちた月。
不安を煽るその光景に汗が止まらない
何より俺をそうさせるのは、月の上から俺を見下ろす【奴】
『やあ、こんなとこで会うとは奇遇だね』
「・・・」
【奴】も何度も夢の中で見てきたが、慣れない。
と、いうか今でも見れば吐き気がする。
シルクハットと燕尾服、顔を覆う黒い包帯
わずかに見える目には光がなく、口はいつもにやけている
それに一番俺が嫌いなのは【奴】の声
『そう睨むなよ、くつろぎなって』
色々な性別と年齢が混じった声。
この声を聞くたびに吐き気と不安がおそってくる外見も相まって【奴】は異形そのものだ。
「・・・」
俺はある決意をしていた今日でこの夢を終わらせるため、俺は夢の中で【奴】を殺す。
果たして夢の中の【奴】を殺せるか分からない、殺したところでこの悪夢が終わるかすら分からない。
だが、試してみる価値はある。
俺がそんなことを考えていると、
【奴】は不意に笑顔を消し、つまらなそうな顔になる。
『言っとくけど、僕は殺せないよ』
「ッツ・・・!!」
『もう一回言っとこ』
にやりと笑い【奴】は俺に指を指す。
『俺は殺せない』
「何で・・・」
何で考えていることがわかるんだ
【奴】は月の上から落下し俺の目の前に着地する。
逃げなければ安全な場所へ
本能的に思うが、頭の中で疑問が生まれる
何処へ?
そう、ここは悪夢、逃げる場所などない。
ニヤニヤしながら【奴】は俺の胸ぐらをつかみ子供に言い聞かせるように問いかける
『君みたいなチキン野郎の分際でさぁ私を殺すとか、はは、無理だから、あはッ、あははははははははははははははは!!!・・・ねえ、何とか言ってみたら?』
「・・・せぇ・・・が」
『え?何??』
「うっせえよ、記憶の残骸が」
【奴】は俺の言葉に驚いたように目を見開く、実際俺もこう言えるとは思っていなかったので、自分自身に驚きだ。
ショックだったのか、俺の胸ぐらをつかむ手が緩み、俯く。
と、思うとまた胸ぐらをつかむ力が戻り、勢いよく俺の顔に【奴】の顔を近づけニタリと笑った。
『今日はこれで終わろうぜ』
「はあ?」
そして【奴】はおもいきり頭を後ろにそらし勢いをつけると俺の顔に頭突きをくらわした。
「~~~ッツ!!!!!!!」
あまりの痛さに意識が薄れ、遠のき、なくなった。