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第三話・「勃起するか?」

「BOKKIBU?」


 顔色を変えずに藍子が右に首をかしげる。

 藍子の小顔よりも大きな疑問符が、ぴょこんと頭上に現れる。


「そうだ、勃起部だ」

「Erection club ?(訳・勃起部?)」


 顔色を変えずに藍子が左に首をかしげる。

 藍子の小顔よりも大きな疑問符が、ふわりと頭上に追加される。


「ああ、そうだ」

「おっき部?」

「暴走族を珍走団と呼ぶみたいに言うな」

「意味は同じ」


 藍子の頭に浮かんでいた二つの疑問符が、子供の握りしめた風船のように空へのぼり、天井の中へ消えていった。それを見ていたわけではないだろうが、誠一郎は天井に目を馳せ、顎に手を当ててうんうんと考える。


「同じだが、こうぐっと来るものがあるだろう、ぐっと。おっきはこう……なんだ、目覚ましがじりじり鳴っていてだな、眠いから後五分……みたいなゆったりとして、怠惰で、春眠暁を覚えず的なところがあるだろうが。しかし、勃起は違うぞ!」


 かっと目を見開く。


「布団を跳ねとばし!」


 手で仮想布団を跳ね上げる。


「目覚ましを叩き付け!」


 仮想目覚ましを投てきする。


「大声でおはようございます! と言いながら、パンを加えたままドアを蹴破って登校するぐらい雰囲気あるだろ!」


 仮想食パンに食いついたまま、走る振りをする。なんともオーバーリアクションである。走り出した姿勢のまま首だけで藍子を見ると、藍子は反応してこくりとうなずいていた。


「うん、ある。雰囲気、ある」

「ぐっとくるだろ」

「ぐっとくる」

「勃起するか?」

「勃起する」


 人から共感してもらえるというのは嬉しいものである。


「えらいぞ、藍子」

「うん、えらい」


 自然と藍子の頭にのびた手が、絹のように滑らかな髪の毛を撫でる。撫でればさらさらと清流のように髪がゆらめき、光も追随するように流れる。まさに神聖な泉に手をそっと差し入れたときの波紋のように。


「えらいえらい」

「うん、えらい。わたし、えらい」


 えらい、えらい、と赤子のように繰り返す藍子は、誠一郎の手の感触を味わうようにまぶたを閉じる。

 藍子は無表情だが、誠一郎には彼女が感じているのが分かった。

 ぴくりと反応する藍子の体躯、震え、その体温。吐き出される吐息には表情にはない色が混じっていた。

 誠一郎も藍子を撫でるのが気持ちよくなってしまって、何となく照れ隠ししてしまう。


「藍子、ちなみに、どこが勃起するんだ?」

「クリ――」

「俺が馬鹿だったよ。俺の想像(胸の先端部)の一歩先を行ったお前はすごいよ」


 撫でていた手で藍子の口を塞ぐ。


「んーんんー……ぷは。……これは塞ぐプレイ?」

「こうしなければやんごとなき機関によって俺の口が塞がれそうな気がした」

「……。わたしは下の口を塞いで欲しい。溢れる前に栓をして欲しい」

「何が溢れるかは聞かないでおこう」

「愛え――……なんでもない」


 拳を見せつける誠一郎の威圧感に藍子は言葉を飲込んだ。


興味を持って下さった方、読んでくださった方、ありがとうございます。早速ですが、言い訳です。実はこの二倍くらい書き終わっているんですが、推敲させてください。短くてごめんなさい。更新はすぐに出来ると思います。ではでは。評価、感想はもれなく作者の栄養になります。

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